これでは女同士の女子会である
そんなアリスだが隣の町までやってきてふた手に別れた。つまり、
「……許せない、絶対に負けませんから!」
「私だって、ご挨拶さえなければ!」
弓使いのエレオノールと、僧侶のリリアーヌが先ほどの気絶した黒ローブの男を連れて行きながら、涙目でアリスに宣言していった。
二人共クリスが大好きと思わさせられている……のか怪しい所だが、だから一緒にクリスと回れないのが悔しいのだろう。
その二人の事情といえば、エレオノールは一応貴族の出なのでここの有力貴族と人にお話をしてくる必要があるらしい。
後ろの繋がりの関係上、特に勇者が魔王を退治しに行くという……現在の平和な時期に設定されているために、色々あるらしい。
ついでに、この町で勇者らしいちょっとした人助けも出来ないだろうかとのことだ。
どういうわけか魔物との遭遇率も高いこの勇者御一行でもあるので、というか。
「魔物を呼ぶようにされている?」
「あれ、お嬢ちゃん何も聞いていないのか? そうだよ」
戦士のカミーユさんがあっさり答えた。
アリスは聞いていないよと驚く。
そして同時に幾つもの不安が膨れ上がり、
「あの、私はクリス達と旅に出てこいくらいしか言われてないんですけれど」
「私達の動向を探れ、とかは?」
そこでニヤリと挑戦的に戦士のカミーユが笑う。
その笑顔が何か全部知っているように思えてアリスは不安を覚えるがそこで、クリスが、
「……アリス、危険だと思ったら帰った方がいい」
「え? でも、一応魔法が使えるし」
「でも実践はほとんどいないだろう? 俺は魔物狩りみたいな実践を剣士だからしていたけれど、アリスの場合は研究が主だったじゃないか」
「それは……でも実践を想定した訓練もしていたわけで」
「戦闘に従事するのはけがをする危険だってあるんだ。それほど話を聞いていないんだったら……今なら引き返せるかもしれない。この旅裏がありそうだし。……俺はちょっと浮かれていたのかもな。また女だと思いながらも、アリスと一緒に旅ができるって……」
深刻そうに考えこみだしたクリスに、そこでカミーユが唇の端をひく付かせながら、
「何だかそれを聞いていると、クリス様はアリスと旅をするのが嬉しいみたいだな」
「それは……ま、まあ昔から知っているし。幼馴染だし。男の兄弟みたいというかなんというか」
しどろもどろになっているクリスだが、今の内容なアリスにとっても聞き捨てならない。
「何よ、男の兄弟って」
「アリス、お前、昔は自分がどんなだったか覚えていないのか?」
「気持ちは分かるけれど私だって年頃の麗しき乙女だもの。もう少し気を使ってくれてもいいと思うの」
「自分で自分のことを麗しいとか言うな!」
「なによ、何処からどうみたって美少女でしょう!」
むっとしながらアリスはクリスの顔をのぞき込むとクリスが顔を背ける。
「……何で顔を背けるのよ」
「いや、顔が近いから」
「意味が分からないわ」
なので更に顔を近づけるとクリスが逃げるので、アリスは追いかけ回す。
そこで嘆息する声が聞こえて、カミーユが、
「まあ、とりあえずは宿を探そう。と言ってもおすすめの宿は決まっているんだろう? そこが二人との待ち合わせの場所だし」
そう何とも言えないような表情でカミーユが告げたのだった。
宿を探したのはいいのだが。
「一人部屋と五人部屋が一つづつしか空いていない、ですか?」
アリスは聞くと宿屋の主人がそう答える。
どうやら都合よく男女を分けるような組み合わせらしい。
ちらりとクリスを見ると、安堵しているように見える。
こういう時って物語の場合女の子と一緒の部屋になってドキドキの展開になるものだが、これでは女同士の女子会である。
そして勇者であるクリスだがこのままなのもなんなので、
「クリス、五人部屋の方に行く? 私が一人部屋で」
「何で! どうしてそういう発想になるんだ!」
「だって女の子部屋に一人いるのってこう、物語だとよくあるじゃない」
「……物語はあくまでも二次元世界の話でそれ以上じゃないんだ」
アリスの肩を掴み真剣な表情で告げるクリス。
いつもはもう少し冗談めかした事を言うし、今回もじゃあ行こうかなと冗談で言うかとアリスは思った。
だがクリスは、そんなもの絶対にお断りだとでも言うかのように目で告げてくる。それどころか、
「アリス、だったら一緒の部屋に来てまた話を聞いてくれ」
「別にいいけれど、どうしたの?」
「……色々と相談に乗ってほしいんだ。幼馴染だし」
「分かった。じゃあ部屋に荷物を置いたら向かうわ」
そんな会話をしているアリスとクリス。
そこにカミーユが疲れたように割り込んで、
「そこ、私の前でいちゃつかないでもらえるかな?」
「そんなわけないじゃない! 誰がこんな男と」
「そうだぞ! 見かけは女だという生物学上雌なだけの生物といちゃつくわけ無いだろう!」
「クリス、今すごく酷い事を言わなかった?」
「事実を言ったなら酷い事になるのか?」
「……一度貴方とは決着をつける必要があるようね、クリス」
「つけるってどんなだ?」
そういえば考えてなかったなと思ってアリスは考え始めた。
思いつかなかった。そこでクリスが真面目な顔になり、
「でもこのまま帰ってもいいぞ、アリス」
「嫌よ。とりあえずは魔王を倒すまでついてくわ」
魔王は私なんだけどね、と思いつつアリスはどうやって目の前のクリスを上手く倒そうかなと考えていた。
そんなことは露知らず、目の前のクリスがふと真剣な表情になって、
「アリス、きっとこんな時でないと言えないだろうから、その……もし、魔王を倒したらアリスに伝えたいことがあるんだ」
「え? 何? 今じゃ駄目なの?」
もしや告白! という甘い予感があるのだが、そこで、
「……告白じゃないから安心しろ。花束を買うだけだ」
「あ、当たり前じゃない。そんなの、当然!」
「何だ、期待したのか?」
「そんなわけない、もう少し考えてから言ってよね!」
「脈ありか……ふーむ、にやにや。ツンデレになってるぞ―」
「だから……調子に乗らないでよね」
「そうだな、じゃあ部屋で待っているから」
クリスがそう笑って自分の部屋へと向かっていく。
何よ、クリスのくせに生意気なとアリスが思っていると、
「自覚なし、か?」
「何がですか?」
何故か問いかけたカミーユが黙って難しい顔をしている。
しかもそれ以上アリスが問いかけても微妙な顔をするだけで答えてくれないので、アリスは諦めて部屋に荷物を置きに行ったのだった。