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IT'S SO EASY  作者:
5 - 16 AND LIFE .
27/44

安息の地

 弓道場は静謐に満ちていた。櫻井は、三つ編みにした濡羽色の髪を背中側へ下ろして、凛とした面持ちで矢をつがえる。普段の柔和でおっとりとした雰囲気はない。抜身の刀のような鋭さのみが、そこにある。

 ――直後、矢が放たれ、空をうがつ音が反響した。放たれた矢は、見事、的の中心に深々と突き刺さっていた。



「……すごいなぁ」


 その光景を前にして、俺は子どものように感嘆した。残心を解くや、いつもの雰囲気を取り戻した櫻井が、よく似合う弓道着姿で俺のところに歩み寄ってくる。


「どうだったかしら……?」


「すごかったです。ほのかさんもいつもとは違う雰囲気で、つい見とれちゃいました」


 俺が素直な感想を口にすると、櫻井は嬉しそうに目を細めた。――俺はいま櫻井の所属する弓道部に、見学と称して遊びにきている。



 女になって一ヶ月と少しが経ち、飛鷹学園に入学しておよそ三ヶ月が経った。その間、俺は部活動なるものと無縁の生活を続けていた。そもそも、自分の時間を拘束されるのが嫌いなタイプなので、部活に精を出すという思想からして理解の及ばない範疇だ。これは女になっても変わらない。


 ちなみに士狼も、俺と似たような考えで帰宅部。真琴バカはバレー部やバスケットボール部やら運動部を複数かけ持ちしていて、姉貴は茶道部だかに所属している。

 ただ、真琴はいざというときの助っ人要員らしいし、姉貴は生徒会で綱紀粛正を指揮する方が楽しいようで、ほとんど部活には顔を出していないはずだ。


 そんなわけで、四人ないし三人が集まるのに何の支障もなく、なおさら俺はどこかの部活に所属するなんて考えを希薄にしていた。――ところが、今日の昼。



「――ねえ、千冬はどこか部活に入らないの? 運動部は身体のこともあるし無理かもしれないけど、文化系の部活とかさ」


「確かに千冬ちゃん、どこの部活にも入ってないわよね。せっかく飛鷹にきたんだから、どこかに体験入部だけでもしてみたら?」


 転入してきてから、一度も部活に興味を示さない俺を不思議に思ったのか、櫻井と瀬野がそう言ってきたのだ。……体験入部はしたさ。男のころ、入学して最初の方にな。体力には自信があったし、背丈もあったからバスケットボール部の門を叩いたのだが。俺の人相の悪さに、ほかの部員が一様に怯えて練習にならなかったので自ずから去ったのだ。


 そんな悲壮感あふれる体験談を語るわけにもいかず、


「でも私が入部したら、そこの部の人に迷惑をかけるかもしれませんし……」


 憂いをにじませて、俺は答えた。半分くらいは本心だ。認め難いことであるが、俺に狂愛を向けてくる奴原はいまだに多数いる。パンチラ写真が高額で取引されていると耳にしたときなんか卒倒しかけたね。

 ……思考が脇にそれたな。まあ俺がもしどこかの部に入部すれば、大なり小なりそこが迷惑をこうむるのは容易に想像できることで、それゆえに説得力があった。


 瀬野は複雑な表情をうかべながらも納得するが、櫻井はそうもいかなかったようだ。目を伏せ、口を真一文字に結ぶことしばらく。ようやく目を開くとともに、


「じゃあ、一度、私の部活に遊びにこない?」


 そう提案し、俺は遊びにいくのならと了承。放課後、櫻井とともに弓道部へ向かったわけだ。


 

 はたして、弓道部の人たちは優しかった。部員は二〇名ほどで、男女の割合はちょうど半々というところ。女子部員はみんな俺を可愛がってくれて、男子部員も不躾にじろじろ見つめてきたりしない紳士的な人ばかりだった。

 俺にモーションをかけてくる輩が居ないだろうなんてのは、櫻井の性格を惟て事前にわかりきっていたが、それでも驚いたものだ。俺にとって魔窟も同然と化した学校内で、こうも安穏無事でいられる場所があろうとは。

 入部するかどうかの判断はまだしかねるが、これからもちょくちょく見学にきていいかと訊ねると、全員が快く歓迎してくれた。ありがとう、櫻井。ちょっと前向きに考えてみるよ。

 

ふと心配になったのですが、これ書いた方がいいんでね? とかもっと掘り下げた方がよくね? みたいなところありますかね……?

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