真実
その後も二人の女子は休み時間のたびに俺を心配して話しかけてきた。
緊張しつつ会話している内に判明したことだが、どうも俺は彼女たちの目に、病弱ゆえに体調をくずしているように映っていたらしい。
自己紹介を終えたあと数人の女子が囁きあっていたのも、俺の具合を心配してだそうだ。終始辛そうな表情をしていたので、気軽に声をかけることさえ躊躇されていたが、俺が士狼と会話しているのを見てようやく話しかけてくれたらしい。
タレ目の子は「櫻井 ほのか」、金髪ツーサイドアップの子は「瀬野 凜花」と名乗った。
なるほど。女子が俺に配慮してくれていたのはわかったが、じゃあ男どもの反応の理由は何なんだ? 女子みたく高尚な理由でないのは確実だが。
そんな疑問をそれとなく訊ねたところ、櫻井は目を丸くして、瀬野は信じがたいものを目の前にした顔で目をしばたくばかりで、結局教えてはくれなかった。たぶん、二人にもわからなかったんだろう。
何はともかく、俺の数々の嫌な想像がほとんど杞憂であるとわかったのは嬉しい。
昼休みの時間になるころにはすっかり気分も持ち直し、それが挙措や表情にもあらわれたのか、ちらほらと声をかけてくるクラスメイトが増えてきた。
しかしその大半は女子であり、男子はいまだ遠巻きに眺めてくるだけである。意図が判然としないので気味が悪く、俺が何をするにもおいかけるように視線がついてくるので鬱陶しくて仕方ない。
「二階堂さん。よければお昼、一緒に食べない?」
四限目が終わり自分の席で軽く伸びをしていると、こぢんまりとした弁当の包みを持って櫻井がやってきた。
椅子に座ったままの俺の焦点は、その都合、つい櫻井の胸部に合わせられてしまう。――たゆん、と柔らかそうにふるえる双丘が、なぜか俺の心を荒ませる。
遅れて、遠巻きの男子を睨みながらついてきた瀬野の発育にとぼしい身体に安堵を覚えてしまう心境は、我ながら輪をかけて理解ができないぞ。
……いけない。くだらないことを考えてしまうのは俺の悪癖だ。思考を打ち消すように数度頭を振って、俺は櫻井の申し出について考えた。
その申し出自体はめちゃくちゃ嬉しい。二人とも真摯に俺のことを気にかけてくれているし、昼飯を一緒にするのは願ってもないことで、自然と顔がほころんでしまうくらいだが――そういや、昼は士狼がくるんだな。
「あの、すごい嬉しいんですけど、今日は兄の友人と話をしたくて……ごめんなさい。よければまた明日、誘ってもらえますか……?」
「ああ、能井くんと? ……なら仕方ないわね、ほのか」
「うん、そうね。じゃあ明日はぜひ。――あら、噂をすれば。きたみたいよ、二階堂さん」
なるべく丁重に断り、明日の約束もとりつけることに成功した俺のもとに、絶妙なタイミングで士狼がやってきた。
俺は手のひらサイズの弁当箱を取り出し、立ち上がって士狼と相対する。身長が百七〇半ばの士狼を、いまの俺はかなり見上げなくてはならなかった。
「ごめんごめん、待たせたかな。……あれ、もしかしてそこの人たちとお昼食べるところだった?」
「いや、あの、いえ。今日は違います。士郎……さんを待っていたので」
「そうそう。ほのか、ふられちゃったもんね。――ああ、ちょっと玉子焼きとらないでよ!」
弁当箱を胸の前で持って、俺は答えた。しばらく接点はできないと思っていた友人とこうして喋れるのは望外の喜びで、にやけてしまうのを堪えられない。
瀬野の自己犠牲のフォローのおかげもあってか、士狼はすんなり事情を承知して、気に病むことなく再び口を開いた。
「そっか。じゃあ、シンのこととかも聞きたいし俺とお昼一緒に食べてくれない?」
「はい、ぜひ」
その言葉に、教室の一角に固まった男子たちがにわかにざわついた。本当に不可解だ。転校生が転校初日に、別クラスの在校生と昼飯を食べるのがそんなに珍しいのか? この学園においては、もっと物珍しいことが山ほどあるだろうに。
首をかしげる俺の様子に、後ろで見ていた櫻井はなぜか幼い子どもを諭すような口振りで、
「……場所を移した方がいいと思うな」
何となく尤もな助言に思えたので、俺と士狼は普段たまり場にしている中庭へ移動することにした。
ちょこちょこと文章の手直しはしてますが、内容は変わってないです。