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「ぐ…ぇ…」
ガチガチと震えが止まらない。食道を遡って、胃の中のモノがこみあげる感覚。寒い。
血溜りに蹲るケイスの前に、その少女は持っていた花を放ってきた。
─ボト…
花にしては重い音。顔を上げると、震える視界に映ったソレは、生々しく光沢を放つ、綺麗でグロテスクな物だった。
案の定、自分の腕だ。
丁度、肘間接から切断されていた。切口は鏡面の様に滑らかで、血管の一つ一つがはっきりとみてとれる。
息が荒くなる。脈が速度を増す。涙が溢れてくる。恐い。寒い。怖い。痛い。恐い。怖い。コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ……
─死ぬ?
「そう、あなたはココで死ぬのよ。達騎君」
「─ッ!?…?」
始めて聴いた彼女の言葉が物騒過ぎて、心臓が握り潰された様な感覚を得た。
「あなたのお兄さんの様に、私に食べられて。ね」
「…食べ…兄さんが…?」
─この娘が兄さんを殺した?俺の最後の家族を…
コロシタ?
「彼がユーザーなら、あなたも素質があるって事にな──ッ!?」
一瞬で地を蹴り、数メートル先の女に殴りかかる。自分の何処にそんな力が残っていたのだろうか?よく判らなかった。
傷口が熱い。まるで熱した鉄板を押し当てているかのようだ。完璧に致死量に値するだけの血が出ている筈だった。しかし、止まらない。ましてやその量は増えるいっぽうだ。
滝の様に流れる血は、意思を持っているかのように舞い上がる。
それは怒りだった。
それは後悔だった。
それは憎悪だった。
心の奥にしまいこんでいた感情が溢れる。
ドクン!と、心臓とは違う“何か”が、大きく、身体全体を奮わせた。