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紅い──禍々しいほどに紅い華を片手に持った。白い──凍てつくほどに白い少女。
「──ッ!」
それだけではない。少女の周囲、球を描く様に回転し、浮かぶ様々な剣、刃、鍵。触れた瞬間にバラバラにされるのは必至だろう。
その内の一振りに滴る、紅い液体…
──血。
「…は、はは…何だよ、コレ…」
それは怪異以外のなにものでもなかった。
ジリ、と。あとずさりをし、駆け出そうとした瞬間、ケイスは足を滑らせて転んでしまった。
そう、足を“滑らせ”て…
地面に着いた右手に、生暖かくまとわりつく様な嫌な感触。
暗くて判らなかった、いや。判りたくなかっただけだったのかもしれないが、実際に手に着いたそれを見てしまっては受け入れざるをえなかった。
血が、水溜まりのように広がっていた。
「─ッ!…!?」
心だけが先走り、体じゅうに危険信号を送っている。
逃げ(恐)ろ、逃(怖)げろ。/タ/立っ(嫌)て、全速(死)力で走れ。/タ/助けを(斬)求めろ。/カ/それを(痛)全て、一度のアクションで遂げなければ(逃)いけない。/エ/でなければ、コロサレル。
結果、混乱し、金縛り状態になっていた。
ようやっと立ち上がった瞬間だった。
視界が霞んだ。
平行感覚を失った。
バランスを崩した。
再度、地面に臥した。
その光景を、少女は不気味に笑いながら見下ろしていた。
(くそう…何だってんだ!?)両手を使い、立ち上がろうと試みる。
「あ」
間抜けな声をもらして、ケイスは気が付いた。
──自分の左腕が“無い”事に…
路地裏に響く断末魔は、虚しくも強烈なビル風によってかき消された。