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より賑わいを増す商店街を、波をかき分けるように走る。息が上がり、心拍数が異常に上昇しているのが手にとる様にわかった。
(クソッ…何でだ?)
走っても走っても一向に追い付かない。そう、“走っても”。
行き交う人が少女の姿を一瞬遮るたびに、距離が広がる。まるで何かの手品のように。
Blood*Beat
「クソッ…」
叱咤も口から滑る。完全に日は沈み、夜になっていた。
「コッチ…か?…だよな…」
ついに見失ってしまった。月明かりでも、暗がり全てを照らしてはくれない。路地裏へ消えていくのを最後に、少女は幻のように消えた。
ケイスは気が付いたかのように辺りを見渡す。
(…ここは?…暗くてよくわからないな…)
昼と夜とでは、同じ街でもこんなに表情を変えるものなのかと思わせる。
(キツネに化かされたみたいだ…)
携帯の液晶を見ると、時刻は午後の九時を記していた。
「…流石に帰らないとマズイよな」
着信が貯まった画面を見て、少しネガティブになりながらケイスは大通りを目指す事にした。
見上げると満月だった。金色で、とても綺麗だ。
──満月を背にした高層ビルの屋上に、誰かがいた。全身が白く輝いていた。まるで刃のように──
直感ではあるが、目があった気がした。同時に、物凄い悪寒。
「ッ!?」
瞬きとともに人影は消えた。
「…げ、幻…覚?」
目がしらを押さえ、頭を振るう。気を取り直そうとした時だった。
目の前に、ソレは立っていた。