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「邪道だ」
何の脈略もなく唐突にそんな事を言ったのは、ケイスの前に陣取った小嶋ダイスケだった。
「…は?」
「いや、だから邪道なんだよ」
訳も解らないまま顔をしかめ、昼飯の焼そばパンに喰らい付く。ダイスケは眼前に並ぶ二つのメロンパンを睨みつけたまま動かない。
ふと、メロンパンをよく見る。
「…クリームか」
「クリームだ」
またか、とケイスは大袈裟に肩をすくめた。コイツはどうしてこうもどうでも良い事に労を費やすのか、長いこと一緒にいたがいまだに理解できなかった。
「何故にメロンパンにクリームを入れるのだ?メロンパンとはクッキー地とそれに包まれたパンのモチモチとした食感のギャップがたまらんのに、なぜあえて異物を混入する必要があるのか!?」
バンッ!と机を叩き、同意を求めるかのようにケイスを凝視するダイスケ。同意を求めるというよりは脅迫じみていたとは口が裂けても言えない。それに、メロンパンにここまで熱くなる人間が居て良いのだろうか?
「…俺はクリームが入っててもいっこうに構わねぇけどな」
「か〜ッ!解ってねぇな〜!いいか?そもそもメロンパンとまふぁ…」
「もういいから黙って食ってろ」
メロンパン(あえてクリーム入りの方)をダイスケの口に押し込み、言葉を遮る。
「ウグゥ…」
しばらく口をモゴつかせ、飲み込んでからダイスケは大きく溜め息を吐いて見せた。
「…大丈夫かよ」
一言、ケイスに向けて言った。
大丈夫なハズはない。
何をするにも上の空で、ガランドウで、肩透かしだ。その証拠に、気が付いたらもう昼休みになっている。
さっきまで焼きソバパンをもっていた右手に視線を落とす。中指にはトーマの形見の指輪が、銀色に輝いていた。