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目覚めの歌は、まだ緩やかで、それは川のせせらぎにも似ていた。
-Blood*Beat-
窓からさしこむ朝日を忌々しく思いながら、ケイスは体を起こした。そこはやはり自分の部屋ではなく、しかし、今は自分の部屋だった。寒気を感じたが、なるほど、寝る時に窓を閉め忘れたらしく半開きのままになっていた。
季節は秋の終わり。やけに冷える明け方と夜。北風も吹き出し、凍てついている。
寝起きのダルさを振り払うように一つ背を伸ばし、ケイスはベッドを出た。制服は昨日の内にダンボールから出してある。ハンガーにかかってあるそれに着替え、一日を始めよう。新しい日常を始めよう、と。
-Blood*Beat-
当たり前のように学校へ向かう生徒達のなかにケイスは居た。隣にはルカが何かを話していたらしかったが、彼には届いてなかった。
割り切ろうとしても、なかなか簡単にはいかない。今朝から身に染みて感じていたことだった。
「─って、聞いてる?」
不機嫌そうに眉根をよせて、ルカが話しかけて来た。
「─ん、あぁ…」
ルカ自身も辛いのだ。彼女の、兄の事を見る目は憧れのそれに近いものだったのだから…
歯車は噛み合い、針が時を刻だす。動き出す。人の感情が、衝動が、決意がそれの原動力だった。
さぁ、“新しい日常”を始めよう。
その先に何が待ち構えようと、目を背ける事は許されないのだ。