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破月.07

「……」

数は、大体五十〜六十。大きさは、落ちてきた三つを見る限り統一されているように思える。

グニャリ。と、天を仰ぐように身体を仰け反らせる少女。両手は力なく垂れ下がっていた。呆けるように開いた口は、だらしなく涎を垂れ流し、眼は大きく見開かれ、じっと上を見つめている。

微動だにしない相手に、攻め入ろうかと迷ったが、隙があるようにも思えない。ましてや、この心臓を掴まれているような感覚は、けっして戦いの流れが自分の物でない事を嫌でも実感させた。


―ギッ!!


距離を取ろうかと一歩動いた瞬間だった。彼女の眼球だけが動き、私を捉える。

「――シネヨ」

刹那、刃が一振り落とされた。重力に任せたまま落ちてきたそれを避けるのは簡単だった。

二振りの刃。動きを封じるかのように、今度は進行方向へ落とされる。

「くっ!」

止まってはいけない。常に動き続ける事で、自分の“生き延びる確率”を上げる。進路を閉ざされたら創るのみ。私は相手と一定の距離を保つように走った。

四振りの刃。今度は四方を囲むように落とされる。ペースが少し速まったように思えたが、まだ大丈夫だ。隙間を縫うように退け……

「ッ!?」

突如、今度は八振りの刃が降り注ぐ。進路を完全に塞ぐように突き立てられた。

次に来るとすれば十六本だろうか。どちらにしろ、逃げ道は無い。

「ならばッ!!」

腰を落とし、重心を低く構える。脇を締め、掌を作り、自分の持てる“最速”に備える。深く息を吐き、止める。迫る刃に意識を集中。狙うのは剣の“腹”の部分!!

「嗚オォオォォオオッ!!」

落ちてくる全ての刃の“腹”、平たい部分に向けて掌底を叩き込む。いや、落ちていく方向を逸らせるだけでいい。滝を掻き分けるように、いなす、いなす、いなす。

十一、十二、十三、十四、十五、十六。十七、十八…

(止まらないッ!?)

十六を過ぎても止まない。二十四、二十五、二十六…。もはや気力の勝負だった。意識が霞んでしまいそうになるのを何度となく堪える。はじいた刃が、既に落ちていた刃に弾かれ、私の足を傷付けた。

「うぁッ!」

思わず膝を折りそうになるが、す寸での所で踏みとどまる。手の動きは止めない。

「…畜生ッ! 畜生ッ畜生ッ!!」

目から涙が溢れる。視界がぼやけていくが、それでも動きは止めない。弾かれた刃が、一つ二つと足を傷付ける。限界が、近い。

「うああああああああああああああああああッ!!!!!」

左腕を思い切り振り上げる。思ったよりも切れ味の悪い刃は、食い込んだところで貫くことは無かった。腕に七本、掌に一本。足にはそれぞれ三本ずつ。それで最後だった。

「…はぁ、はぁ。…は…ぁ…」

まだ生きていると、実感した瞬間に左腕は力を失った。無傷の右手で、突き立てられた刃を抜く。

「…クッ! あぁっ!!」

一本抜く毎に走る激痛は、意識を遠退かせたり、急に覚めさせたりを繰り返した。

「……」

全て抜き終わり、倒れそうになりながら、刃に埋め尽くされた屋上を歩く。

(まだ、私には出来る事が有るのだろうか?)

制服をちぎり、包帯の代わりにする。一番ひどい左腕は、ミイラのようになってしまい少し笑えた。

(…右腕は無傷。左は無理として、両足は“全力で”一度、耐えられるかってところか…)

今の状況を打破する確率を探す。一撃で、そして必殺の威力を持つ…

「!!」

脳裏に浮かぶ光景。耳に残る轟音。高速の一撃。必殺の威力。

「…あった」

そう、私は知っている。その技を。既に父からは伝授されていたが、あの人には到底及ばなかった故に一度も放たなかった“必殺技”を!!

ゆっくりと立ち上がる。

一歩一歩、確実に歩く。

刃の林を抜け、相手と対峙する。

「―――」

相変わらず私を睨みつけている。上空には何も無い。やるなら今をおいてほかに無いだろう。

「…これで終わらせるよ…」

自分に言い聞かせるようにつぶやく。直立不動、取る構えは“無”。


―砕鬼流 絶掌―


全身を大気に溶かす。一帯に神経を延ばし、相手すら絡み取る。距離は五メートル、射程距離一杯といったところだろう。


―参式名山 内ノ壱―


思い切り地を蹴る。風を創り、風に乗り、音よりも速く。


「絶・掌ッ!!!」


右の掌を螺旋ネジり、上半身をありったけ捻る。狙うのは“相手を貫いて三メートル”ッ!!


「轟・雷・閃ッ!!」



天を貫く雷のごとく、その一撃は放たれた。落雷にも似たその響きをかわきりに、ポツリポツリと雨が降る。月明かりは閉ざされ、在るのは只、次第に強まる雨音だけだった。




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