破月.02
「やあ。君も“また”サボりかい?」
と、声をかけられて目が覚めた。どうやら五限目は始まってしまっているらしい。校庭では、ジャージに着替えた生徒達が、だらだらと体育をやっている。
「…人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。これだって立派な体育の授業です。寝る子は育つって言うじゃないですか」
くぃ。と、校庭の方を指差す。
「?…あぁ。なるほどね…でもあれ、君のクラスじゃないでしょ?」
「あ〜、わかっちゃいます?」
上半身を起こすと、その人は相変わらずクールに微笑み返してきた。座ってはいるものの、身長が高いことは明白だ。
「ゴウちゃんこそ、進学決まったからってサボりすぎじゃないですか」
「ははは…その呼び方はよしてくれよ。まるで男子じゃないか」
ゴウちゃん。もとい、桜井キョウ先輩は、苦笑いしながら握り拳をチラつかせてきた。
「ゴ…サクライ先輩。シャレになってませんが?」
「そうかい?」
ついでに“ゴウちゃん”とは、先輩の別名『轟掌の響』を、かってに省略してみたものだ。どうしてそう呼ばれるようになったかは…多分、空手部と一部の生徒しか知らないだろう。
―Blood*Beat―
「…何か悩んでたようだけど?」
話す話題もつきかけてきた時に、不意な質問をかけられた。
「……」
「…トーマさんの事か…」
「…半分正解、半分ハズレです」
「そうか。…もう半分は、聞かない方がいいのかい?」
「…先輩ほどの人なら、俺の考えていることくらい分かってしまうんじゃないですか?」
「…じゃあ、もしも私の予想が合ってるとするならば…」
そう言って、ゆっくりと立ち上がった先輩は、正面まで寄ってきた。
「?」
すると、ポンと俺の肩に手を置いてから、溜め息を一つ吐く。瞬間。
―ドカッ!!
「〜〜ッ!?」
一瞬の出来事に、いまいち現状が理解できなかった。背中から肺にかけてが、ものすごく痛い。
「利口ではないな」
真剣。いや、力ずくでも止めるという意志がこもった眼差しに、息をすることさえ忘れてしまっていた。
どうやら先輩は、座っていた俺の胸倉をつかんで、背後にあった樹に突きつけたらしい。先輩の長い足で、容赦なく踏み込まれた一撃は、まさに“轟掌”。素人で、何の心得も無い俺は、ゆっくりと意識を遠ざけるしかなかった。