破月.01
「懺悔なさい」
冷淡な少女の言霊は、銃声とともに響き、硝煙のように風にさらわれた。
第壱章『破月─hazki─』
左腕が無くなる夢を見た。酷く鮮明な、“現実のような”夢…
「─なぁ?人の話しを聞いてんのか?」
「…ん?…あぁ」
「……っはぁ〜」
当てつけがましい溜息を吐きながら、級友のダイスケは
「重傷」
なんてぼやいている。
「何が重傷なのさ〜」
パクパクと箸を休める事なく、ルカは俺たちの顔をキョロキョロと見比べていた。
「あのだね、紅葉クン。かの者は病に蝕まれておるのだよ」
と、得意げに話し始めるダイスケ。
「…あぁ!“恋の病”だね!ハカセ」
それに便乗するルカ。
「…ほほぅ?好き勝手話を膨らますのは構わないけどな。それなりに面白いオチがないと、色々と大変な目に合うぞ?特に勉学面…」
──ざわっ…
「いや。そこまで怯え無くてもいいだろうが…」
輪郭とか変わってるし。
「じゃあ何悩んでんだよーう!」
「よーう!」
「…あ〜…」
「よう!」
「YO!」
「…ん〜…」
「HEY!」
「YO!」
「…っだーッ!うるせぇよ!」
「「ッ!?」」
あ、やべ。ちょっと感情的になりすぎたな…二人とも本気で黙りこくってしまったし。
「…別に…ホント大した事じゃねぇから…」
「…なら…いいけど…なぁ?」
「……うん」
居心地が急に悪くなってしまった。これ以上ここに居たところで、飯を不味くしてしまうだけだな。…場所を移そう。
「…わり。ちょっと便所行ってくる」
「あ…あぁ」
「ケイスきたな〜い!こーいう時は“オテアライ”でしょ?」
「だな…ワリィ」
こういう時のルカは、ホント助かる。反省が短いというかポジティブというか…たまにムカツクけど、今のタイミングならこっちとしても外に出やすくなるからいいだろう。
─Blood*Beat─
校庭の隅には、大きめの桜の樹が植えられている。不思議とその樹の周りには、一年中緑が茂っていて、代わりに桜の樹には“命”が無かった。
誰も調べないし、誰も疑問を抱かない。俺は学者じゃないけど、御偉いさん方が調べないんだから大した事ないんだろう。
まぁ、『夏、涼しくて。冬、暖かい』場所だから、こうして晩秋の時期でも外て寝転がる事が出来るのだが。
「…はぁ〜」
まぁ、『夢で見た事が気になって惚けてました〜』なんて言ってみろ、
「ぎゃはははは!オメーは小学生かよ〜」
…って、ダイスケにからかわれるのがオチだよな。うん、言わなくて正解だったな。
「…はあぁ〜」
にしても…
「……」
左腕は確かに在る。違和感も無い。ガキの頃にカッターで切った傷、余程深かったのか、まだ痕が残ってるし。
「…気にし過ぎか?」
でも、中途半端に入り交じった現実は…凄く後味が悪い。
買い物には行った。間違いない。その記憶はルカにも確認したから大丈夫だ。
踏切前で休憩をとって…
「…そこまで行ったら…普通に帰るわな。うん」
なんたって家とは、目と鼻の先だしな。
家。自然に頭に浮かんだワードに、少し寂しい気持ちを感じた。
今居る家は、自分の家じゃなくて“ルカの”家なんだから。
兄さんが殺されて、独りになって、ルカの家に居候して。
「…ハハ…」
乾いた笑いがもれた。別に、喪失感とかそんなんじゃなく、逆に、充実感から出るものだったのかもしれない。
ポケットの中には、バタフライナイフが一つ。鞄の中には、ダーツが六本。すぐに使える形でしまわれている。
ナイフは、サバイバルキットの物。ダーツは、最近ダイスケと始めたばかりだ。思いっきり投げても、的の中に当たる位にはなったし、殺傷能力は充分だろう。
…復讐だ。
奪われた事に対して。奪いかえしてやるんだ!ヤツがあらわれた瞬間に…
─出来るのか?─
切裂いて…
─切裂かれて─
ズタズタにして…
─ズタズタにされて─
コロスンダ!
─コロサレルッ!─
「…ッ!?」
高ぶる心とは裏腹に、俺の身体は、ガタガタと震えていた。