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掴みかかろうと伸ばした左腕は、一呼吸置いて崩れ落ちる。重い痂が剥がれ、そこには“普通の腕”があった。
「──ぁ…」
まるでおさまる様子を見せなかった熱が、一気にさめて行く。同時に酷い脱力感を得て、ケイスは刃が食い込んで行くにも関わらずそれに身を預ける。
「残念だったわね。戦い馴れてないキミに負けるほど、私は弱くないわ」
威嚇するように柄の無い剣を浮游させる。形勢を逆転し、少女は勝利を確信した。檻状の刃以外の武器を消し、ケイスに近付く。愛しい者を撫でるように、少女は彼の頬に触れる。その手は氷のように冷たかった。
「あなたが別の血筋に生まれていたら……いえ、だからこそ私は惹かれたのかもしれな──ッ!?」
少女は咄嗟に"それ"を回避した。
先程まで彼女が立っていた場所に、鉛弾が食らい付く。
少女の言葉を遮ったのは、一発の、いや。“二発”の弾丸だった。速射ではなく、同時に放たれたのだろう。
「…誰?」
弾道を詠み、射手を睨みつける。その瞳は既に人間的な光を放ってはいない。そこにあるのは暗く、深い闇そのものだった。純白のドレスより、それは彼女を印象づける。が、その視線すら何処吹く風と、その存在は淡々と話し始めた。
「名乗らずとも察しはつくでしょう?剣使い(チャンバラ)」
人気の無い路地では、五階建ての建物の上にいる"彼女"の声でも鮮明に聞き取れた。否、何かしら不思議な力を使っていたのかもしれない。
月光を背に、二挺の銃を構えた少女が言った。
少女は、ケイスと同じ学校の制服を纏い、“銀色の銃”を構えていた。