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血の軌跡に掻き消される剣たち。灰となり、塵と化す。
ケイスの左手は、超超高熱の刃と化していた。
自分の肉が焦げ、辺りに死臭にも似た臭気が充満する。
血の塊と肉体の接合点からたちこめるそれは、脳髄の奥底を蝕んでいった。
意識を保とうと歯をくいしばるが。臭気に圧され、食道を胃液が遡るばかりだ。
「…はぁ…はぁ……ア゛ア"ア"ァ"ア"ッ!」
殺気を殺気で反すように咆吼。左手の爪を勢い良くアスファルトに突き立て、全体重を乗せて"引く"。ギチギチと千切れるかと思えるほどに伸びた腕は、瞬刻の後にケイスの身体を矢の様に跳ばしていた。
──ゴゥッ!
血風を纏い、『小規模×強大』の嵐と化したソレは、眼前の敵を捕らえた。
「クッ…!」
幾つもの大剣を盾に後方へと跳躍する刃使いの少女。が、重圧なソレもガラスの様に砕かれていく。
百有るものが十。十有るものが一へ。瞬く間に壁際へ追い詰められた少女は、その残る一振りの大剣を壁面に突き立てた。タンッ、と軽く、浮く様に跳躍。刹那、壁を嵐が砕いた。
「…ハァァァ……」
ガラガラと瓦礫の山を崩し、ユラリと立ち上がる様は、まるで『悪鬼』の様だった。
──ニィ…
普段の彼からは想像できないほどの歪んだ笑み。力を抜き、ガクンと体勢を落とした瞬間、滑走。
──ドカッ!
一撃。鉄鎚のごとく降り下ろされたケイスの左腕は、見事に少女のミゾオチを打ち抜いた。皮膚を"焦がす"感触が、狂ったケイスの感覚を酔わす。
風を切る音をたて、壁に打ち付けられる少女。
「アァアァァァアアッ!」
追い討ちをかけるべく、ケイスは首根を掴みにかかる。息遣いを感じとれる程距離をつめた時、
小さく息を呑む様子が解った。
さながら熱した鉄を押し当てられた様なもの。声すらも出せないだろう──と。しかし、ケイスの左腕は少女の首を掴むにいたらなかった。
身動きがとれない。
地面から延びる白刃。ケイスを束縛し、檻のように閉じ込める。首から上を出す形は、断頭台のようにも見える。
三、四センチ程刃が食い込んでいる。
血が流れる…
左腕とは違い何の力も示さず、ただ地面へと流れていく。
いつの間にか自分を焼く熱は冷め、左腕は赤黒い塊になっていた。