.11
「……は、はは…」
その貌を認識した瞬間、ケイスは本能的に理解した。
コレは命を奪うために在る“モノ”だ、と。
内に秘められた力を理解したケイスは、こみ上げてくる愉悦感をおさえられずに笑みをこぼす。
感覚を確かめるように、握って、開いてを数かい繰り返す。自分の肉体とその塊との境目からは、動かすたびにパラパラと黒い粉が落ちていた。多分、乾いた血だろう。
不意に、視界が塞がる。少女が、一瞬のうちに触れるほどまで距離を詰めてきたのだ。
不適な笑みをたたえる彼女の両手には、針身の剣が握られていた。確かあれは敵を突き刺すスタイルの、西洋の武器だ。視線を少しそらすと、それと同じ物がケイスを取り囲むように浮いていた。
「予定変更よ。そこまで位階が上がっているなら充分。達騎君の“遺記”…私に頂戴…」
十二の斬撃が一斉に放たれる。その矛先が何の例外もなく、何の迷いも躊躇いもなくケイスの心臓へ向かってきた。
「……」
どの剣も必殺の力を秘めているのは確実だった。いや、そもそも凶器に殺傷能力の無いものなど無い。ましてや、急所へ向けられたあかつきには、まさにそれは“必殺”なのだから。
でも、そんなのに臆する事は無い。そう、一振り。ほんの一振りだけ、この力で薙げはいい。それだけの“仕草で”事は足りてしまう。それほどまでに彼女の力は脆弱だ。数に物をいわせた戦い方なんて、今のケイスには通用しないし、するはずもないのだから。
力を手にした人間は、欲望に駆られる。
──力を振るいたいという欲望に…