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「…ケイス…入るよ?」
軽くノックをしたあと、少女は部屋の扉を開けた。
「………」
六畳の部屋。一つ残されたベッドの上に、達騎ケイスは仰向けに寝そべっていた。右手につままれた純銀の指輪を呆と眺める姿は、何を考えているのか、長年一緒にいた少女にも解らない。と、やっと彼女の存在に気が付いたのかケイスはチラリと視界を動かした。
「…なんだ、ルカか…ノックくらいしろよ…」
ケイスはベッドを軋ませながら、上半身を起こした。
「ノックしたよ…」
ポツリと呟くルカ。
「…そっか」
静寂に包まれた部屋では、充分に聞き取れる。指輪をしまい、ベッドの縁に座りなおすケイス。
「それ、お兄さんの?」
部屋の入り口に近い壁に寄りかかり、ルカはいたわるかの様に聞いた。ケイスは軽く息を吐き、肩を落とした。
「…昔さ、兄さんに頼んだ事があってさ。俺にも同じヤツをくれーって…したら
「死ぬまでやらねー」
ってさ…まさかこんなに早いうちに貰えるなんてな…はは…」
「………」
気まずい空気が流れる。沈黙を破ったのは他でもないケイス自身だった。
「…準備、出来たんだろ?これからはお前んちで世話になるんだ。オジさんやオバさんを待たせてちゃ悪いからな、さっさと行くか」
後ろ向きな考えを振りきるかのように、ケイスはルカに軽く笑って見せた。
その心に小さな、しかしはっきりとした憎悪を宿して…