「どうやって盗むの、それ……」
フィクションですよ。
「どうやって盗むの、それ……」
この国は刺繍を大切にしてあった。
跡を継がれた女王陛下の御代でもあり女性が活躍できる場も多々あったが、その中でも刺繍は国で腕前を競うことも。
その前の段階。刺繍の図案の時点でコンテストもあった。
ようは刺繍の設計図。
優秀な図案は国により買い上げられたりもする。
刺繍は他国への大切な売り物でもあったからだ。
先は隣国の国の旗を。新王が立たれることでこの際新調しようと注文され。国の旗は国の誇り。それを頼まれることは友好の証にも。
その前はまた別の国の王のマントを。王が直に身につけるものを頼まれることは、なんと信頼されたことか。
大国に結婚式があるときなどは花嫁のドレスに。姫の一世一代の晴れ舞台。それはこの国の娘たちも全力で取り組んだ。
歴史あるとある大国の建国記念日を祝して、その歴史を一枚の大きなタペストリーに依頼された時は。その時は平民の刺し子たちだけならず、貴族女性たちも腕を奮ったいう。
その見事な出来栄えをたいそう喜ばれ、今も良い関係を築けている。
小国ながらそうしたことが秀でて、国と国の結びつきに。
……けれども。
そんな国でも。
やがてめんどくさい存在も生まれ出る。
スケージー公爵令嬢スフィアだ。
彼女は祖父が先の王弟であり。王家の繋がるものとして。
女王陛下も親戚として――大切には、していた。
「あなた! それはわたくしの図案よ! 盗んだでしょう!」
「……え?」
セシリーは突然叫ぶように言われたことに吃驚した。
それは提出して――賞を取ったばかりの刺繍図案。
春の連休後にあったコンテストで、女生徒は皆、休み中に頑張って図案を考えてきた。中には刺繍好きの男子生徒も参加している。国で興していることだから、姉妹に影響されたなどとして刺繍好き男子も多くいる。
セシリーの図案は春に渡ってくる旅鳥の図案。
それが今回、コンテストで3位だった。1位は春の妖精を描いた他の女生徒だ。
そこにセシリーの3位の図案を指差し、スフィア公爵令嬢が騒ぎを起こした。
「わたくしの図案のアイデアを……盗まれたわ……」
叫んだことはショックを受けたあまりに、と……スフィアは、今度はしくしくと泣き始めた。
艷やかな赤髪に鮮やかな青い瞳の美人のスフィアは、まわりに連れている取り巻きも多い。
それは王家の血を引く公爵令嬢という身分もあろう。その赤髪と青い瞳は王弟であった祖父譲りであるし。
そこにいる伯爵家のユーグリッドや、シーザー、エミールといった騎士を目指す若く美しくたくましい美少年たちを。何人も。
彼らはスフィアの護衛でもあるのだが……。
「スフィア様、どうか落ち着かれてください」
「でもっ、でもユーグリッドぉ……」
スフィアは被害者のようにユーグリッドの胸に縋り付く。
そう、ユーグリッドはセシリーの婚約者だ。
けれども彼はスフィアのスケージー公爵家の配下の伯爵家でもある。だから主家である公爵家から学園での護衛を命じられていて、こうして側に。
凛々しいユーグリッドはスフィアのお気に入りでもあるのだ。
なのでたびたび顔をあわせることも多かった。セシリーの伯爵家もスケージー公爵家の配下だからだ。幼い頃はよく平凡な黒髪を揶揄われて馬鹿にされたものだ。しかもセシリーは癖毛で良く絡まっていたものだから。
その時にユーグリッドが慰めてくれたのが始まりだから――スフィアが二人のきっかけと知られたらまためんどくさいことになりそうで。
そう、二人は公爵家の縁で婚約者になったのもある。そうした政略はよくあることだ。
だからセシリーも。
――またか、と。
スフィアは泣いている自分に、思ったより周りが同情してくれないことにやがて気がついたようだ。
青い瞳にイライラとした攻撃的な色を。
「わたくしの図案よ!?」
そう、彼女も少しは、ちらっとは考えたのだ。
そう……。
「それ! わたくしだって考えていたんだから!!!」
「はいはい、そうですね」
「な、何よ……盗んで……セシリー! あなた、責任とってユーグリッドと婚約破棄しなさいよ!」
「いやぁ、それは……ちょっと」
「ちょっと!? わたくしが被害訴えてるのよ!? 何よ――」
はいはいといなされ、スフィアは連れられていく。
護衛の少年たちに。
皆、お疲れさまである。
何せ、スフィアの頭の中の図案を盗んだと騒がれているのだから。
スフィアが提出したのは春の旬の野菜が皿に載っている図案。それはそれで素敵ではあるが。
「どうやって盗むの、それ……」
「周りに自分の思考や体験、ダダ漏れって普通なら怖がるわよね……恥ずかしいわよね……」
「いやぁ、相変わらずだわぁ……」
「ユーグリッド様もお疲れさまよねぇ」
「シーザーも……あとで慰めてあげよう」
「エミールには甘いものを差し入れするわ」
セシリーは同級生に肩を叩かれる。
スフィアは学園長――彼女の叔母にあたるきちんとした方のところに連れて行かれた。いつものことだ。
学園長も王家縁の方で、スフィアの母方の叔母になる。女王陛下とは親戚以上に親友として信頼されている方だ。
スフィアは公爵家で大事に大事に甘やかされて育てられたために、こうしたわがままで――少しばかりめんどくさい人間に育ってしまった。
彼女が盗まれたと騒ぐのは決まって美形の婚約がいる女生徒の作品ばかり。
とくに最近ではセシリーが狙われていた。
1位の生徒は婚約者がまだいない子爵令嬢で。今回もほっとしていた。優秀な彼女に声をかけたい男子生徒はたくさんいるが、彼女がスフィアを怖がっている以上はまだしばらく無理だろう。
2位の生徒は婚約者がいる侯爵令嬢だが――それがたびたびスフィアを叱る王太子様である。さすがに苦手な、自分より権力のある相手には触れないくらいの知恵はあるようだ。
小賢しいと言うべきか。
だからセシリーだ。
肩を叩いてくれたのはスフィアのおかげで親しくなった侯爵令嬢様だ。
こうしたことなら彼女の家の派閥に変えようかとユーグリッドの親たちとも考えているほどに。
他にもスフィアに――公爵家から無理やりつけられた美形騎士見習いの彼らの婚約者たち。
彼女らともお疲れさまと労わりあう。
「今はユーグリッド様がお気に入りだけど、あの方の気まぐれでどうなることやら……」
幼い頃はユーグリッドもチビデブで、一緒にスフィアに虐められていたが。騎士を目指して鍛えはじめたら背も伸び引き締まり。
かつては「あんなチビデブ、嫌!」と自分から婚約話を蹴っておきながら、である。
セシリーが3位だったが、次のコンテストではどうなるか。
「……はぁ、めんどくさい」
生徒たちのため息が重なった。
そんなスフィアだが。
学園長室でお説教されても変わらなかった。
「陰謀だわ! 誰かがわたくしを陥れようとしているの!」
「それは誰が?」
「そう! この国を手に入れたいの情報機関とか……政略でわたくしが狙われているんだわ!」
「ふーん、侵略行為ね。世界の誰もあなたを欲しがるのー、へー。世界の誰もかあなたを貶めようとしてるんだー、ほー」
「ああ、わたくしが美しくて才能あふれるばかりに……皆に狙われて……わたくしにはそれくらいの尊い価値がある! 皆がわたくしの図案を欲しがるの! 盗みみるの!」
「……あなたの頭の中を、どうやって盗むというのか……あなた、恥ずかしくないの……?」
「何がです? それより学園長もきっとかつては女王陛下のお近くにいたのだから国の諜報――」
「そう、わかんないんだぁ……うわぁ……」
疲れた……。
学園長はとうとう女王陛下に連絡した。
王太子の婚約者からもきっと伝わっているだろう。
――もう、お手上げです。
スフィアは、女王陛下や王家にそれは大切にされていた。
ある意味、で。
「第十一夫人ですって」
「……まぁ」
ユーグリッドの膝の上。スフィアから解放された婚約者たちから癒しを求められた彼女らは、甘えさせて欲しいと請われて仕方なしに応じていた。
ユーグリッドはセシリーの癖のある髪を指に絡めるのが好きだ。成長して多少緩くなった癖も、彼のおかげでところどころくるくるしてしまう。
「ああ、癒される……」
「もふもふとした動物かわりにしてない?」
「動物なんてくらべられないよ……セシリーが良い……」
「……もう」
今まで本当にお疲れさまだった。
ちゃっかり王太子も侯爵令嬢を膝に載せて満足そう。彼も彼で、やっかいな親戚に疲れてたはいたから。
「でもそれ、輿入れっていうより」
「……人質、よね」
王家にも姫はいるにはいるが、もっと大事なところに嫁がせたい。もう少し国に益があり――安全なところに。
それにより、スフィア、だ。
先の王弟の孫。
十分に価値は、ある。
公爵家はそれを察知して早いうちに婚約者を決めようとしたのだが、当の本人が理解しておらず。
しかも本人のその斜め上な思い込みの強さ。
――公爵家も、手放した。
それは国のためでもあり、王家に連なる高位貴族の娘の役割でもあるのたから。
スフィア自身はまた陰謀や盗まれたからだと騒いでいたらしいが。
それからしばらくして。
スフィアが輿入れした国では政変があり。
スフィアの首も連座で落とされたという。
それを包んだ旗はこの国の見事な刺繍がなされていたという。
そして新たな旗が、また注文された――。
盗作騒ぎで、頭の中にあったアイデアを盗まれた、とか…あったこともないのに体験を…て、あるらしいので。昔はもっと多かったと聞いてぞわっとしました。
ので、フィクションです。実在の関係者はいらっしゃいません。フィクションをフィクションと楽しめる方はこれからも良しなに。
…うわぁ、てなりますね。うん。
普段の僕だと思いつかないようなキャラだから、すごく勉強になりました。世の中広いなぁ…春だなぁ…。
ところで。
大河ドラマがすごく面白いです。
でも、歴史で先を知っているから…昨夜は「駒姫ぇえ」て、思わずずっと先を思って涙しました。
解る方には解る、です。こういうフィクション、如何ですか?




