告げる
告げる。
11月21日7時30分頃。ゲーム制作会社「ピース&コンペディション」の社内で、述べ14人の死亡を確認。
告げる。
死因はいずれも、頭部の欠損によるもの。
***
艶めかしく光る白刃が、キリンの額のすぐ側まで迫り来る。左腕を切断された痛みで倒れ込む彼を見下ろすように、黒い着物と袴に身を包んだ侍風のその男は、灯籠を模した石造りの頭部から低く、くぐもった声を発する。
「坊主、先ほどのはなかなか良い太刀筋だったぞ。あんな低級武器で、しかもこのスキルツリーの醍醐味である『スキル』を使わずに40レベルの敵を一撃で沈めるとは……。良い、実に良い!
決めた。──今から貴様を、儂の友とする」
灯籠の窓の奥で、一つ目の大きな眼球がギョロリと動く。
血が、肩から溢れる血が止まらない。いや、今はそれどころではない。何がなんだかわからないが、とにかく逃げなければ。何とかしてステージの最南端にある非常ログアウト用のエレベーターに辿りつかねば。だがしかし、体験したことがないほどの痛みと恐怖で、脚がまったく言うことを聞こうとしない……!!
キリンの額に、刀がゆっくりと差し込まれる。
……コウスケがレベル40のボスと戦うとき、俺は通信モードでその戦いを観戦させてもらったことがある。この灯籠頭はボスではない。だとしたら……、こいつは……?
意識が次第に薄れゆく。
痙攣する、痙攣する、身体が痙攣する。上半身の血管全てが縮こまるような嫌な感覚で、過呼吸気味に俺は目を覚ました。筐体内の空気を吸い尽くすかのごとく、たっぷりと呼吸を繰り返した後、思い出した。左肩を確認する。
「っはぁ……!腕は、俺の腕はッ……!?」
腕は確かにそこにあった。指も自分の意識に合わせて自由に動く。安堵すると同時にまたもや恐怖がこみ上げてくる。
俺は壁にぶつかりながら椅子から立ち上がり、足元の学生カバンを引っ掴む。すぐさま扉をこじ開け、人にぶつかり謝りながらも、放課後の学生で賑わう駅のゲームセンターを全速力で後にした。
***
「あらぁ、こんな暗い時間に兄ちゃん。どちらさんですか?」
「あんたの孫だよ。ただいま、ばあちゃん」
「あらぁ?そうですか、そうですか。よぉ来んしゃったね〜」
洗面所で手を洗い、リビングに顔を出す。魚を焼く香ばしい匂い。祖父が夕飯をつくってくれているようだ。
「じいちゃん、ただいま」
「遅かったな麒麟。こんな暗ぅなるまで……。風呂沸いとるぞ。ざぱーんと、はよう入ってこい」
「ありがとう。……いや、ちょっと具合悪くてさ。後で気が向いたら入るよ」
そう言って俺は自室へ向かった。カバンを放り投げ電気もつけず、勘を頼りにベッドに倒れ込む。毛布の柔らかさが頬に心地良い。さっきのは、夢だ。……夢だ。じゃなきゃ、ゲームの不具合だ。運営があんな非人道的な危険要素を実装するはずがない。親友と遊んだ思い出が、そんな物であるわけがない。
俺は自分に言い聞かせる。しかし……、
「っ……!?くっそ痛い何だ、これぇ……」
突然の頭痛。ベッドの上で脚をバタつかせ、毛布に頭を擦り付ける。痛みは徐々に増していく。
「あ……」
告げる。
11月21日、インターネット記念日。
「おーい。麒麟、飯できたぞぅ。……どこ行きおった?あいつ」
7時40分頃。
この日、株式会社「ピース&コンペディション」が運営するアーケードゲーム「スキルツリー」をプレイした321名のうち、287名が頭部欠損により死亡。
告げる。
残り34名が行方不明。
告げる。述べ34の候補者たちに、告げる。
気がつくと俺は、地平線が広がる真っしろな空間にいた。見慣れた装備品を身に着けて。




