噂通りの王女殿下
誤字脱字日本語がおかしいなどあまり気にしないでいただけると嬉しいです。
その日、王城の廊下を歩くセシリアの心臓は
まるでホラー小説でも読んでいるかのように
脈打っていた。
(第一王女様ーー
なんか色々噂聞いちゃったけど大丈夫かしら…)
心の中で不安に思いながら豪奢なドアを開ける。
それと同時にカツンとブーツの音が響く。
思わず顔を上げたセシリアの目の前にいたのは
よく言えば噂通り、悪く言えば予想外の人物。
長い黒髪を高く1つにまとめ、
スラリと伸びた背筋に黒と青の軍服がよく合っている
「あなたが、セシリア.アルスデット?」
その声は、女性にしては低くしかし透明感があった。
「は、はい!本日よりお側で仕えさせていただきま す。どうぞ、よろしくお願いーー」
「そう、なら、何もしなくていいわ」
途中で言葉を遮られた。
「は、はい……?」
いや、それより今なんとーー
「ただ、見守っていればいい。
それすら面倒ならお菓子でも食べていればいいわ」
ぽかんとするセシリアをよそにリリアナは踵を返し
軽やかに部屋を出ていく。
「ま、待ってください!!」
慌ててスカートの裾を押さえながら、
セシリアはその背を必死に追いかけた。
王女リリアナの一日は、多忙なものだった。
午前──王城での高官たちとの会議。
「第一騎士団の予算を増やせ?
第二騎士団の倍は出してるんだけど。
こういうのを過剰請求って言うんじゃないの?」
きっぱりとした言葉に高官たちは黙りこくる。
セシリア(す、すごい……)
午後──第二騎士団の訓練の視察。
「さっさと体動かしなさーい!!
3分以内に終わらせないと、メニュー追加するよ」
「「「はいぃいっ!!!」」」
リリアナの指揮一つで全体の空気が変わる。
セシリア(あんな数の騎士たちを言葉一つで……)
夕方──下町での衛生管理計画。
「井戸の整備にお金と労力を回して」
「で、ですが……」
「なに?感染症が出てからでは遅いのよ!!早く!」
セシリア(凄すぎて言葉が出てこない……)
衛生管理計画が終わった時、
すでに空はオレンジと青が入り混じっていた。
だが、リリアナは部屋には帰らず鍛錬場で剣を振り始めた。
それをセシリアは、ただじっと見ていた。
(なんだろ……一日だけでも十分わかる。)
ーーあの人は、すごい人だ。
どこにいても、何をしていても、
1つの無駄もなく動いている。
誰にも媚びず、恐れられず、信頼されている。
(すごいなぁ……やっぱりああいう人こそ、
"価値のある人"なんだよね……。
アルヴィン様も、こういう人を選べばいいのに)
その時だった。
(あれ……殿下、、手が…)
リリアナの手は傷だらけだった。
手のひらには潰れた剣だこがいくつもあり、
それと同時に少し血が滲んでいた。
「殿下!お怪我を……」
そう気づいた瞬間、セシリアはリリアナに駆け寄った。
そして、リリアナが反応する前に、
セシリアは静かに両手を重ね祈るように目を閉じる。
淡く光る聖神力が傷を優しく包み込んでいく。
「……あんた、それ使ったら寿命縮まるんだろ?」
手を引こうとしたリリアナが真っ直ぐな声で続ける。
「やめとけ。こんな小さな傷に、命を削るな」
「……さすがですね。もう、ご存知だったとは」
セシリアは咄嗟に微笑んだ。
しかし、その笑みの奥には静かな諦めが滲んでいた。
「でも、私には、これしかないんです。
価値なんて、聖神力以外には何もない。
だから、誰かの役に立てるだけでいいんです!」
その言葉に、リリアナの手が止まる。
「……あんたみたいなのはいつか自分を壊すよ」
リリアナは剣を鞘に収めるとセシリアの方を真っ直ぐ
見つめた。
「いい?セシリア。私の前ではその力、禁止な」
セシリアは驚きで目を見開けた。
「それと、そうやって悲しそうな顔をするのも
禁止」
「……はい。かしこまりました」
セシリアの声は小さかった。
けれど、その顔にはかすかに微笑を含んでいた。
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