おはよう、朝日。はじめまして、未練。
誤字脱字日本語がおかしいなどあまり気にしないでいただけると嬉しいです!
朝日がレースのカーテンの隙間から漏れている。
その時、セシリアはふわりと目を覚ました。
「ん……ふわぁぁ……」
大きくあくびをしながら両手を伸ばし筋が伸びていくのを感じる。
そして、そのまま大きな枕に顔をダイブさせ、数秒。
そのままの勢いでぽんっと飛び起きた。
「……よし!全部忘れたわ!!」
勢いよく布団を跳ね除け、ドレスに着替え出す。
「昨日のことは昨日の自分に!!今日のことは今日の
自分によ!過去のことを悩んだって無駄だもの!」
そうして、昨日失恋したはずのセシリアのーー元気な朝が始まった。
「今日の、朝ごはんはーーっと!」
そう言って令嬢らしからぬ元気さで席に座ったセシリアの前にはまだ熱々な朝ごはんが置いてあった。
ふわふわの白パン。
つるんとした見た目に満月のような黄身のゆで卵。
シャキシャキで彩り豊かな芽キャベツのサラダ。
香ばしく焼かれた白身魚のムニエル。
「きゃ〜〜〜っ!!うちのシェフ朝から天才すぎ!」
ぱあっと顔を輝かせながら柔らかな白パンにたっぷりとバターを塗り口へ運ぶ。
「いただきますっ!」
ぱくっと一口。
すると、口の中にバターの柔らかな風味が広がる。
「っはーーっ!!幸せーーーっ!」
今日も(失恋中の)セシリアは絶好調だった。
快晴の空の下、城下町は活気に満ちていた。
色とりどりの屋台からは
お菓子の甘い香りや串焼きの香ばしい匂いが漏れ出ていた。
「ここに来るのは久しぶりですね!姉様!」
「そうね!今までは王妃教育が忙しかったから…」
「もうっ!本当にクズの集まりですわ!王家って!」
「こらこら、そんなこと言わないの」
そこには、町娘の格好をしたフィーネとセシリアがいた。
「でも、急にどうしたの?町に行こう!なんて」
「そりゃ、お姉様を独占するためですよ!」
「相変わらずブレないわね…」
「あとはお姉様の気晴らしになったらいいなって!」
「……私、あなたが妹でよかったわ」
思わず笑みが溢れた。
「なんですかお姉様、急に照れるなんて……。
これは12年と3ヶ月ぶり!!!」
「なんで覚えてるの!!?」
「そりゃ私にかかればーーってそれより!!
早く行こ!!姉様!!」
フィーネがセシリアに手を差し伸べる。
「うん!」
11年と6ヶ月ぶりに繋がれた手は子供の時の記憶を思い出させるように温かかった。
「結構食べたわね……」
「そうですか?姉様の胃が小さいだけじゃーー」
「それもあるけど……あなたの胃が大きいのよ!!」
確かフィーネは私と一緒にチーズ入りのパンと
シナモン味の林檎とアイスクリームと蜂蜜がけのクレープを食べたはずなのだが……
フィーネの手には当たり前のようにウインナーの挟まれたパンと甘い砂糖のかかったチュロスと甘辛い味付けが施されているであろうチキンがある。
「あっ!あの店かわいい!!」
キラキラと輝いているその店の中には、
木箱にきちっと並べられた指輪やネックレスがあった
「わぁ、キラキラしてる!」
フィーネから珍しく年相応の声が漏れる。
店の中には目移りしてしまうほどのアクセサリーがあったがひとつだけ、目を引かれたものがあった。
青いブローチ。
そのブローチには銀細工が施されており
中央には深い青の石が嵌め込まれていた。
(……これ……アルヴィン様に似合いそう……)
真面目で、冷静で、端正な顔立ちのあの人に
この青い石がよく映える。
ーーでも
「姉様っ!このブレスレット可愛くないですか?」
耳の中にフィーネの声が放り込まれる。
そして、ふと我にかえった。
「………あっ、うん!かわいいね!」
慌てて微笑みブローチから目を外す。
(違う。もう、終わったことだ。
王子様と結ばれるなんて夢はもう……終わりなのに…)
そう、ずっと言い聞かせた。
でも、青いブローチの輝きだけが心の奥底に
わだかまりを残していた。
「ーーあ、姉様!占いって書いてありますよ!!」
そう言ってフィーネが指差したのは濃い紫色の外套に包まれた屋台。
そこに掲げられた看板には大きく"占いの館"とある。
「行ってみましょ!!姉様!!」
「えっ、ちょっーー急に…」
フィーネは私の声に耳を傾ける間もなく私の手を
強く引っ張って怪しげな屋台の中に入って行った。
「ようこそ、お嬢さんたち。運命、占っていくかい」
そこは全体的に暗く、蝋燭の光でかろうじて
目の前にいる人が老婆だと分かった。
周りにはたくさんのガラクタのような骨董品が列をなすように並んでいた。
中心には水晶玉があり、いかにも占いの館という感じである。
「はいはい!!この人の恋愛占ってください!!」
「ちょっ、フィーネ!!何言ってーー!」
「だってさっさとあのクズ野郎との婚約を正式に
解消させたいんですよ!!」
びしっと指を差して言い切るフィーネを見て
占い師がくすりと笑った気がした。
「ふーん……面白いことになってるじゃない…」
老婆が水晶玉に手を添え、セシリアを見つめた。
「で?どうですか!?いい出会いある!?
あの高嶺の花子と別れられる!!?」
「それはーー本人次第だねぇ」
「おもんな」
「こら!!そんなこと言わないの!!」
占い師はそこから一拍置いて言った。
「今のやつと一緒にいるのも一つの選択、
新しいのに乗り換えるのもまた一つの選択だよ」
その時占い師がニヤリと笑った気がした。
「ちなみにーーどっちでもそこそこ幸せになるから
安心しな」
「えっ……」
2年半で幸せになれるのーー?
たったそれだけの時間で……本当に?
「私……余命2年半なんですけど…ほんとうに…?」
私がポツリとこぼした瞬間フィーネの目が大きく
見開かれた。
「ちょ、姉様!?こんなとこで言うこと!?」
しかし、占い師はそれも想定内であるかのように言った。
「……そうかい。それなら、まぁなんとかなるさ。
誤診の可能性もあるしね」
「胡散臭いな〜」
腕を組んだフィーネがすかさず言う。
「ちょっとフィーネ!!」
「ま、しょうがないさ。私はね、あやふやなことしか
わからない。でも、これは確かなことだよ」
占い師は用済みとでも言うように水晶玉から手を離して言った。
「あんたはこの後、人生を変える出会いをするね」
「人生、を………?」
「そう。結構大きめのね。だから、頑張れ!」
まさかの応援をもらった私はなんとも言えない気持ちに侵食された。
「なーんか、期待外れでしたね!」
「こら!ちゃんと占ってくれたじゃない!!」
「あ!姉様!!ソフトクリーム屋さんありますよ!!
最近話題ですよね!食べていきましょ!!」
フィーネの指の先には綺麗なミントグリーンが渦巻くソフトクリームと行列があった。
あれが最近城下町で話題沸騰中の甘味屋台。
確かに綺麗なミントグリーンが目を引く。
「……とても綺麗な色ね!」
2人は談笑しながら行列に並んだ。
周囲の客もみなソフトクリーム片手に楽しそうにしている。
(なんだか、とっても……平和ね。あれーー?)
目の前の列に見覚えのある後ろ姿。
雪のように白く長い髪。真っ直ぐに伸びた背筋。
貴族らしい優雅な立ち振る舞い。
(……あの髪色…もしかしてーー)
その人物がふと振り返った瞬間、
セシリアの目が見開かれた。
透き通る肌、吸い込まれそうな水色の瞳、
宝石のように整った顔立ちーー
あの方は……!
すると、その人は列から脱線し、私に勢いよく
近づいてきた。
「ももも、もしかして!!
あなたがセシリアちゃん!!?えーっ!!!
めっちゃかわいいんやけどーっ!!!」
(へ……?)
「会いたかったんよーーっ!!ほんまに!!!」
すると、セシリアは勢いよく抱き寄せられた。
まさかのフレンドリーな感じからのハグ。
(こ、この人が……)
アルヴィン様のお兄様の婚約者。
王宮でも氷の姫と称賛される美しき才女。
アーネント.エーデルワイス様ーー!!?
最後までお読みいただきありがとうございます!!




