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Edy 領主代理は地下牢へ

畜生、カールめ。ラーテル毒を不意打ちでくらわせたうえ、時間がもったいないからとそのまま仕事までさせやがって。寝転がったまま延々と書類の音読を聞かされ続けて、すっかり精神が疲労困憊だ。イメージしてみてくれ、音声だけで領内にある対野生動物の罠の分布と、守りの弱いポイントを主張されて、内容をちゃんと理解できるか?完璧だったとは言えないにせよ、オレはなかなか良くやったと思う。

それでもなんとか四半日くらいで歩けるようになるのは、オレがサソイラーテル毒への耐性持ちだからだ。これは噂なんだが、カールに至っては、この毒を食らった直後でも這って移動できるらしい。有効利用のためにと、この毒を日夜いじくり回していた経験は伊達じゃないな。畏怖の念は抱くが、できれば一生その境地には達したくない。


さて、歩いて喋れるまで復活した以上、このまま寝っ転がっているわけにもいかない。カールを連れて、さっきのやつの様子を見に行くとしよう。自由に動くのは無理でも、そろそろ肯定否定くらいの意思表示くらいはできるはずだ。なんの目的で来たのか、どこの組織の人間なのか。反応や表情からでも、ある程度絞り込んでおきたい。

「おや、エドガー君。もう動けるようになったんだね」

執務室に向かおうと階段に足をかけたとき、資料室から出てきたカールに声をかけられた。

「ああ、どっかの誰かさんのおかげで、年2回位余波を食らってたからな。耐性がついてたみたいだ」

「それは良かった、在庫整理の時にうっかり手を滑らせた甲斐があったというものさ」

軽口を叩きあいながら、カールの腕から荷物の一部を引き受ける。これは……地図か? この近隣だけじゃなく、国全体や、近隣諸国まで入った広範囲のものもある。どうやら考えたことは同じだったようだ。

「ちゃんと聴取するなら、パーシーにも声をかけるか?」

「その必要はないよ。彼には見張りを任せてあるから、行けば会えるだろう」

「了解。なら、なにか飲み物でも持っていってやるか」

ちょうど通りかかったポルカに、適当な軽食を持ってくるよう言いつける。

「ちょっと、私だって別に暇じゃないのよ?」

プンスカ文句をつけてくるが、言われたことはきちんとこなす……というか、こなそうとするタイプだから、何かしら持ってきてはくれるだろう。途中で紅茶をぶちまけたりはするかもしれないが、それはまた別の話だ。



来賓用地下牢(妙な響きだが、実際そうなんだから仕方がない)が並ぶ区画の扉を開けると、何やら会話が聞こえてきた。

「ふーん、面白くなってきたじゃん。どうやって対処したの?」

「そこはそれ、エディの策に従って、俺含む数人で囮になったんすよ。罠に誘導したら、後は勝手に火に飛び込むのを待つだけなんで」

「へぇ、あいつ意外とやるんだ」

オレはカールと顔を見合わせる。片方は間違いなくパーシーの声だが、誰と話しているんだ? 囚人が会話できるレベルに回復するのは、まだまだ先じゃ?

「おいパーシー。お前、誰と話してるんだ」

こういう時は悩んでも無駄だ、直接見るに限る。警備隊長のパーシーは、ドアのない独房へ向かう俺たちに気づいて笑顔を見せた。

「おお、エディにカール。このお客さんが暇だって言うから、領地の話をしてたんすわ。ああ、もちろん防衛に関わるようなことは漏らしてないっすよ」

「モンスターの襲撃時期とかは、割と防衛に関わる重要事項じゃない? 別に悪用する気はないけどさ」

パーシーの言葉に対し、長椅子に横たわった人物が呆れたように返す。声の主は、やはり銀髪の侵入者だった。随分と滑らかに口が回るようだな?

「例年のことですからね。タイミングをあわせて攻め込まれた程度では、領地の防衛に影響はありませんよ。とはいえ、身元の知れない相手にペラペラ話す内容でもないのですが」

カールは軽くパーシーをたしなめる。まあ、年中常に何かしらの襲撃があるから、いつ敵襲が来ようが大差ないってのは同感だ。

「そりゃ、ずいぶん自信がおありのようで」

「なあに、今までにも何度かありましたもので」

笑い合う侵入者とカール。これから始まるであろう腹の探り合いを思うと、自然と手に力が入る。

「とはいえ、こんなに麻痺毒から早く復活した方は初めてですよ。なぜまだ動けないふりをしているんです?」

サイドテーブルに腰掛けたカールは、にこやかな表情でぶっこんだ。いきなりだな?てっきり、もう少し泳がすかと思ったんだが。

「そうだぞ。そんなに喋れてるってことは、もう十分動けるんだろ?」

どうせならと、オレも立ち上がって追い打ちをかける。途中でふらついて手を長椅子についちまったが……まあ、脅してる感じに見えたはずだ。

「なんだ、適正時間まで大人しくしてようと思ってたのに。そっちの少年も動けてるし、言ってた効果期間はハッタリ?それとも、今の問答がダミーなのかな。ま、どっちでもいいけど」

つまらなそうにいって、やつは一気に体を起こした。頭突きを食らいそうになって、慌てて二歩下がる。

「何すんだよ!」

文句を言うオレに、そいつは悪びれずにのたまった。

「邪魔なところにいるのが悪いんじゃない?」

そして、にらみつけるオレを尻目に、顔にかかった髪を払い除けて続ける。

「で、なんだっけ。なんで動けないふりをしてたか?」

「いえ、それも聞きますが、どちらかというと何故動けるかの方に興味があります。血液検査をさせていただいても?」

問いただすカールの目に、新たな事例に心躍らせる科学者の好奇心がちらついている。悪い兆候だ。さては、オレが仕切らないといけないやつだな?

「いや、その話はとりあえず後だ。率直に聞かせてくれ、はるばるこんな田舎まで来た目的は何で、誰の差金だ?」

「うーん、まあ、そうなるか。正直に話してもいいんだけどさ、果たして信じてもらえるのやら」

気だるげに頭をかく銀髪。完全アウェーとは思えない気楽な態度が癪に触る。

「ま、そっちのお兄さんはなんか鵜呑みにしてくれそうだけどさ」

くいっと首を傾げ、親指で後ろを刺す不審者。確認するまでもなく、その先にいるのはパーシーだ。お前、どれだけこいつと喋ってたんだ?性格筒抜けにも程があるぜ。本人はというと、気まずそうに視線をそらしている。

「パーシーくんには説教が必要なようですが…それは後にしましょう。話を信じるか、でしたか?それは内容次第でしょうとも。その口ぶりだと、信じさせる気もなさそうですが」

「事実は小説よりも奇なりってやつなもんでさ。ま、ちょうど軽食も来たみたいだし、お茶でもしながら腹を割って話しましょうや。大丈夫、逃げたりしないから」

戸口で様子を伺うポルカに気づき、提案してくる銀髪。くそ、なかなか腹の立つやつだ。

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