ある日の5月
入学して、1週間ほどが経過した。大介は、小窪隼という友達ができた。
隼は、少し変わった人間で、軍艦に興味がある人だった。
5月のはじめ、昼休み中に、軍艦の書かれた本を机に持って来ると、自慢げに見せてきた。
「大介〜、ここにいたんか。これが大和な。んで、これが武蔵」
「同じ舟やんけ」
隼は、鼻を鳴らすと、
「この艦、大和はな、着色すると、武蔵のほうが、甲板が黒いんだよ」
と、知識をひけらかすように言ってくる。
「そう・・なのか?」
よくよく見ても、やっぱり分からない。写真を見つめてる最中も、隼は機銃の数が違うだの、武蔵は三菱が作ってるから、作りが丁寧だのといろいろと言ってくる。
人が集中して見ているというのに、色々言ってくるもんだから、頭の刈り上げをむしってやろうかと思ったぐらいイライラした。
「やっぱり分からん」
大介は音を上げた。
「ぶっちゃけ俺も分からん」
「なんやし」
かなりイラッとしたが、隼は先にどこかに行っていた。
数日経つと、隼は学校に長門のプラモを持ってきた。
2時間目と3時間目の間の大休み、机で大介が本を読んでいると、プラモを持って、ニヤニヤしながら近づいてきた。
「どう?ビックリした?」
隼は、自慢げに見せてくる。
「そんなドヤ顔せんでも。いつかやるやろなと思ってたし」
大介は、顔も見ずに、ずっと本を読んでいる。
「そういや、さっきから何読んでんの?」
「麻雀の攻略本。最近初めてさ」
隼は、本を覗き込んだ。
「へー。これ、漢字でしょ。なんて読むの?」
「中。右が、四暗刻」
「変な読み方」
隼が何かを感じて、後ろを振り向くと、野々村美沙子が般若顔で立っていた。
「せ、先生・・・」
「全く、入学早々、こんなもの持ってきてー」
隼を連れて行くと、大介は、また1人、本を読み出す。
「ね、ねぇ。大介君?」
今まで、クラスの女子程度に思っていた、つむぎが話しかけてきた。
「どうしたの?」
「その、麻雀?って何?」
少し、回答に困った。最近始めたばかりなため、ルールを完全に覚えたわけじゃないし、何より、まだ1年生ということもあって、うまく言語化できない。
「え、えっとゲーム的な?」
なんとか回答したが、つむぎは完全には理解していないらしい。
「そのゲーム教えてくれない?」
つむぎは、身長が低いので、机の向かい側から身を乗り出すような姿勢でこちら側に来る。
大介にとっては以外だった。ここまでグイグイくる人とは思っていなかった。
「んー難しいし、俺もあんまり覚えてないんだけど・・」
「いいじゃん。一緒に覚えれば。ね?」
大介は、つむぎに不思議な感情を抱いた。