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9. 賭け事

「あれぇ、おかしいな。宿屋に着いちゃった」


 グータラは頭を掻きながら言うと首をかしげた。そんな彼を見てズボラはある提案を出した。


「そうだ。誰かに聞いてみよーぜ」

「そうだね」


 ズボラはさっそく目についた人物に話しかけた。


「ちょっとすいませーん」


 その人物はタヌキ化の男だった。なにを食おうかとあちこち見回っている。


「なに?」

「人を探しているんだけどさ、心当たりはねーかぁ?」


 うーんとその男は考え込んだ。うーんと何回かうなると彼は答えた。


「さあね。もうちょっと情報がほしいね」

「情報かぁ、道端で眠っていると思うんだが」

「寝ている? 寝ているのならそのうち起き出して君たちを探しに来るんじゃない? だったらどこかで待ってればいいじゃない」

「ああ、なるほど。俺たちは待ってればいいんだな。わかったぜ」

「じゃあ、俺は腹が減っているからこれで」


 男は腹をさすりながら去っていった。ズボラは彼の意見を聞き入れて宿屋で待つことにした。


「彼の言うとおりだな。俺たちは宿屋でナマケが来るのを待っていようぜ」

「うん、そうだね」


 宿屋へと歩き出すふたりはあれこれとナマケのこととか、今日の出来事とかを話し合いながら向かった。

 

 宿屋に入るとズボラはカウンターで雑誌を読んでいるアルパカ化の店員に話しかけた。


「すいませーん部屋はあります?」

「少々お待ちください」


 店員はカウンターに置いてある透明な紙に手をふれて空き部屋を確認した。


「二部屋ほど開いております。お泊りになりますか?」

「ああ」

「一泊200リボンでございます。クロバーの指輪をお持ちでしたら、本日から導入されたこちらの紙に触れていただきますと自動的に料金が支払われるようになりますのでご利用ください」

「あっ? ああ」


 ズボラは指輪をしている指でその紙にふれた。だが、なんの反応も示さなかった。何回かふれてみるが変わらない。


「どうやら、お客さまのお持ちのお金がすこし足りないようですね。お金はコインでも結構ですよ」

「えっ? ここに入っているので全部だぜ」

「すみませんが、それではここにお泊めすることはできません」

「そうかぁ、あれぇ? いつの間にか金がなくなってたか。しょーがねーなぁ、どっかで金を稼ぐかぁ」


 そうしてズボラたちは金を稼ぐために宿屋をあとにした。


「どうすっかなぁ」


 ズボラは当てもなく歩き出す。そんな彼にグータラは話しかけた。


「どうするの? 金のほうは?」

「さあな。とりあえず適当に金を得そうな場所を探そうぜ」

「金を得そうな場所?」

「ああ」


 そうやって、町の中を歩いていると酒場を見つけてそこへ向かった。テーブルに着きさっそく酒を注文したが、酒は出てこなかった。


「あれぇ? おっかしーなぁ」


 酒のボタンに何度ふれても酒は出てこなかった。ズボラは残高を確認するため指輪にふれた。見ると50リボンと表示されている。


「あっ! 金が足りねーなぁ、しょーがねーなぁ、どうすっかなぁ」


 そのとき、テーブルを叩く大きな音がすると「ちきしょー!」という女の大きな声が響いてきた。


 ズボラたちは何事かとそのテーブルに目を向けた。そこではカードバトルで賭け事をやっている人たちがいた。


 カードにはそれぞれ、マル(〇)サンカク(△)シカク(▢)という記号があり、マルはサンカクに勝ち、サンカクはシカクに勝ち、シカクはマルに勝つ。それぞれの3枚の手札を持ち勝ったほうが掛けた分の金を得られるという仕組みになっている。


「イカサマじゃないだろうね!」


 ネコ化の女はそうまくし立てると、握り締めているコインに目を移した。相手にしているネズミ化の男はにやりとしながら言った。


「まだつづけるのかい? もうやめときなよ」

「やるに決まってんでしょ!」


 彼女はほぼ金を使い果たしているため、100リボンコインが最後の全財産だった。


 100リボンを賭けてカードゲームが始まった。まず自分のカードをシャッフルして裏返しに置き、そして自分のカードのどれか1枚を選び『せーの』で一気にひっくり返すというものだ。


『せーの』とふたりが同時に声を出して自分のカードをひっくり返した。


 女のほうはマル、男のほうはシカクだった。その瞬間、男は歓喜に吠え、女は歯ぐきから血が出るほど悔しがった。


「まっ、そう言うことだ。残念だったな。お嬢ちゃん」

「……待て、金があればいいんだろ?」

「あ? ああ、金があればまた賭けてやってもいいぜ」

「わかった」


 女は立ち上がると店中に聞こえるように大きな声で言った。


「誰か! あたいに金を貸してくれ! もうすこしなんだよ! もうすこしでっ!」


 しーんと静まり返る店内。誰もなにも言わない。静寂が闇に染まろうとするなか、ひとりの男が応えた。


「俺のを貸してやるぜ」


 それはズボラだった。ズボラは女の前に行き50リボンをテーブルに置いた。


「いいのか?」

「ああ、もうすこしなんだろ?」

「そうなんだ」


 冷や汗をかきながら女は答える。それからその50リボンコインを握り締めて勝ち誇ったような顔を見せた。


「おいおい、あんた本当にいいのかい? 金の無駄だぜ」


 男はズボラをあわれむようにたずねた。ズボラは「ああいいぜ、どうせ最後の金だからな」と返した。


「そういうことだよ。さあ、金はあるんだ。さっさと始めようじゃないか」

「やれやれ」


 こうしてふたたびカードバトルが始まった。


 お互いがさっきと同じようにカードを置く。そしてさっきと同じように『せーの』の掛け声で一気に開く。


 女が出したカードはマル、男のほうはシカクだった。その結果を見るや否や女は悔しさのあまりテーブルを叩いた。


「ははは、お嬢ちゃん、ついてないねー。せっかく人から金を貸してもらったのに負けてしまうとは。これも勝負だから」


 男は50リボンコインを取り懐に入れる。それから気分よく席を立ち店を出て行こうとした。


「待てよ」


 女はとても低い声で彼を呼び止めた。男は振り返ると「あ?」と声をもらした。


「まだ、金はある」

「……なあ、こういう言い方はあまりしたくないんだが、勝負はやめ時が肝心だって知らないのかい?」

「金なら用意する」


 男は辺りを見回しながら「どこにあるんだよ」と言った。女は自分の椅子に立てかけてある魔法のステッキを手に取り、突き刺すように見せつける。


「このステッキだよ」

「ああ? そんなのが金の足しになんかなるかよ」

「なる! これは魔法のステッキなんだ。魔法が出るんだよ。こいつを道具屋で売れば100リボンにはなるはずだよ」

「ほほう、そいつは本当だろうな」

「ああ、本当だよ」

「……わかった」


 そうして、またふたりの賭け事が始まった。食事などをしている客は面白半分で観察している。


「なにやってるのー」


 突然ナマケがズボラの後ろにいて話しかけてきた。ナマケはさっきの騒ぎを聞きつけて酒のにおいにとともに入ってきたのだった。見るとズボラたちがいるのがわかり話しかけたというわけで。


「おおナマケかぁ、どこ行ってたんだぁ? 捜したんだぜ」

「えー、そうなのー? ぼくずっといたよ、あの場所に。そしたらズボラとグータラが通り過ぎていったからさー、慌てて追いかけたんだよ」

「あの場所って、ここの近くだろ」

「うん、ずっと歩いてようやく追いついたんだよ。疲れたよ」

「そんなことより、いま面白いことが起きてんだぜ。なあ」


 ズボラはグータラに話を振った。グータラはうんうんとうなずきそのわけを話し出した。


「そう、うんとね。そこにいる男と女がカードを使って賭け事をしているんだよ」

「かけごと?」

「ああ、しかも金を賭けてだ」

「ふーんそうなんだ、それより、ぼくお腹すいちゃったよ。ズボラなにかおごってよ」


 ズボラはナマケの願いに応えることができず正直に話した。


「わりーなぁ、ナマケ。じつは俺、金持ってねーんだ。全部なくなっちまった」

「えー? ないの? どうして? あんなに持ってたのに」

「わかんねーけど、なんか気づいたらなくなってた」

「へーそうなんだー。それはしかたないね」

「でも大丈夫だ。そこにいる彼女に50リボン貸してるからな。終わったら戻ってくるぜ」

「あーなんだぁ。戻ってくるなら安心だね」

「ああ、だからいま彼女の賭け事が終わるのを待ってるんだぜ」

「いつぐらいに戻ってきそうかなぁ」

「さあ、わかんねーけど。まあ、すぐだろ」


 ナマケはズボラの言う賭け事というのをのぞいてみた。


『せーの』


 向かい合ったふたりは掛け声と同時にカードをひっくり返す。女はサンカク、男もサンカクだった。ふたりはあいこのため残り2枚のカードで勝負は決まるが、もしあいこなら延長戦になる。


 カードを並べてお互いが自分のカードをひっくり返すだけ。ナマケをそれを見てなにが面白いのか理解できなかった。内心「早く終わんないかな」と思うのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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