6. 乗船
ズボラたちはレンタル屋をあとにして、さっそく広場で飛虫船を使ってみた。地面に置きズボラはゾウゴロウを5秒ほど押すと、一瞬で大きくなった。が、グータラはゾウゴロウに貫通している。
「あれ? 透明だなぁ、てっきり色がついているもんだと思ったんだけど」
ズボラはゾウゴロウに触ろうとしたが手が通り抜けてしまった。
「あれれ? なんだこれー。どうなってんだ? グータラやり方わかるか?」
グータラは「うーん」と考えながら、すこし離れてみようと思い何歩か下がってみた。
「うーん、映像には色がついているのを見て選んでたんだけどね」
「そうだよな」
数秒後、ゾウゴロウには色がつき始めた。
「ああ! 色がついたぜ……っていうか、なんでいま」
ズボラはたまらず手を伸ばしてゾウゴロウに触ろうとした。すると、先ほどとは打って変わってしっかりとふれることができた。
「触れるなぁ、なんでさっきは触れなかったんだ?」
「もしかして、そういう仕組みかなぁ」
「ああなるほど、そういう仕組みかぁ。まあいいや、さっそく乗ろうぜ」
「うん」
三人は入る場所を探してゾウゴロウを一周した。だが、どこにもドアらしきものを見つけることができなかった。
「あれ? どうやって中に入るんだ? まさか上に乗っかっていくのか!?」
ズボラは頭を掻きながら困ったように眉間にしわを寄せた。グータラは下をのぞいたりしたが結局なにもわからなかった。
「なにか入る方法があるのかもしれないね」
「しょーがねーなぁ、ナマケにでも聞いてみっか」
ズボラは杖をつかんで眠っているナマケの手を杖ごと引っ張った。ナマケは安眠枕を下にしてぐうぐうと眠っている。しばらくすると、彼の手から杖が抜け落ちた。
「……ん? あれー? もうロマン姫のところまで来たの?」
ナマケは覚めたばかりの目を瞬きさせながらそうたずねた。ズボラは杖を肩に担いで答えた。
「まだだ。それよりこいつの乗り方わかるか?」
「んー、あー、えっ? それどうしたの?」
「レンタルしたんだ」
「それ乗れるの?」
「乗り物だと言っていたぁ。なあ」
ズボラはグータラに話を振った。
「ああ、そうなんだよ。借りたわいいが、乗り方がわからなくてさ」
「そう、だからナマケならなにか知ってるかもって思って聞いたんだ」
ふたりにそう言われて、ナマケは首を傾げながら苦い顔をした。「うーん」とうなりながら静かに考え始める。
「どうだ?」
ズボラは待っていられず急かすようにたずねた。
「うーん、そーだねー。乗り方ねー、えーっと……」
ナマケは腕組みをしながら考えているが、そのまま眠ってしまった。ズボラは杖を彼の手にふれさせてそれを止めた。
「あ! ごめん眠っちゃった。そうだねー。乗り方ねー、うーん……」
また、ナマケは眠ってしまった。ズボラはまた杖を彼の手にふれさせて考えのつづきをさせた。
「あっ! ごめんごめん、また眠っちゃった。うーん、乗る方法ねー。そうだねー、あのーなんだろう、そのーうーん。ぼくたちを乗せて。たのむよ」
すると、ゾウゴロウは目の部分が光り、3人を捜すとその光が伸びてそのまま彼らを吸い込んだ。
「ご乗船ありがとうございます」と船内から響いてきた。
「うん? なんだぁ?」
ズボラは無機質な室内を眺めまわしながら言った。グータラは窓から差し込んでくる外の風景を見ながらあくびをする。町行く人はチラ見はするが、素通りする者のほうが多い。ナマケは隅のほうで横になった。
「わたくし、この乗り物の声を担当しております。パレセクと申します。どうぞお見知りおきを」
「へぇ、そうなのかぁ、パレセクじゃ言いづらいから、パレちゃんだな」
ズボラはそう言って椅子に座った。真ん中には楕円形のテーブルが据えられている。
「かしこまりました。ご自由にお呼びください」
「そうか、じゃあパレちゃん。さっそくだけど、ロマンティス城へ行ってくれねーか」
「ロマンティス城へですね。かしこまりました」
すると、ゾウゴロウはふわっと浮かびロマンティス城へ向けて飛んでいった。
町の上空をゾウゴロウが飛んでいる姿を町の人たちはちらちらと見ているが、当たり前の光景を見せられているため、すぐに興味を示さなくなった。
「すごいなぁ、空飛んでるぜ」
ズボラは窓に顔を近づけながら外の風景を見送った。グータラは地上が小さくなっていくのを見て窓からのけぞった。ナマケは隅のほうで眠っている。
ロマンティス城へ着くまで、ズボラはテーブルのところで待つことにした。テーブルにはいろいろなもののマークが表示されていた。食べ物、飲物、道具など。
「飲物?」
ズボラはそれを押してみた。すると「飲物でございますね。どれになさいましょう」とパレセクが答えた。
水、果汁、酒などが表示される。
「じゃあ、酒をくれ」
「かしこまりました」
テーブルにはカップに注いである酒が出現した。それを見たグータラはテーブルの席に着くとそのカップを見つめた。
「へー、すげーなぁ」
ズボラは感心したように言った。グータラは飲みたそうにしながらたずねた。
「これってタダなの?」
「はい、もちろん。これはサービスでございます。レンタルした方ができるだけ快適に過ごせるように用意されています」
「そうなんだ。じゃあ俺も酒を」
「かしこまりました」
グータラのところにも酒が出現した。ふたりは「えいーす」と言って乾杯した。
「……うん、いい酒だなぁ、いつも飲んでるやつと全然違うぜ」
ズボラは上機嫌になりふたたび酒に口をつける。
「そうだね。こんな酒飲んだことないよ。俺」
グータラは天にも昇るような晴れやかな顔をしながら言った。
「しかし、こんなにサービスいいなら、もっと早くレンタルすればよかったな」
「しかたないよ。お金がかかるから誰もレンタルなんてしないんじゃない」
「ああそうだなー、俺も飛虫船が空飛んでるの数回しか見たことねーからなぁ」
「そうだね。俺も今回初めて乗ったよ。こんなに快適なんだからみんな乗ればいいのに」
「そうだよなぁ、酒もサービスだし、行きたい場所に行ってくれるしな」
「それにうまいしね。パレちゃんに言えばなんでも出してくれそうだしね」
「ああ、快適ってのはこういうことを言うんだぜ、きっと」
「うん」
「なあパレちゃん」
ズボラはあることを思い出してパレセクに質問をした。
「なんでしょうか?」
「さらわれたっていうロマン姫はどこにいると思う?」
「ロマン姫ですか。そうですね……すみませんが見当もつきません」
「そうか、まあこれから行くロマンティス城で聞いてみるしかなさそうだな」
「お役に立てなくてすみません」
「いやいや、パレちゃんは悪くねぇぜ」
「ありがとうございます」
「それはそうと、どうやって動いてんだ? この飛虫船ってのはさぁ」
「飛虫船は主に魔法を込めたもので動いております。ダリティア王国にいる妖精たちの魔法によって作られた道具を使い、飛行することができます。そのほかにもダリティア王国で取れる白い石には人や風のオーラをためることができます。その力は人々が暮らす街灯や暖などに使われ、それは飛虫船にも利用されています」
「ああ、そうなんだ。ダリティア王国には妖精がいるのか」
「はい、ちなみにあなたさまのしているクロバーの指輪も魔法が込められています」
「ふーんなるほど。そう言えばゾウゴロウだっけ。これに乗るときドアがなかったんだが」
「お乗り方でございますね。飛虫船の近くに寄り『乗せて』と言ってくだされば目が光り乗れるようにます。それはレンタル料をお支払いした方もしくはそこに一緒にいた仲間関係にある方が仰れば乗ることができます」
「そうか、なるほどなぁ」
ゾウゴロウは草原の上を飛行していく。ほぼ振動も音もなく無音の室内でズボラとグータラは眠くなり始めた。
「ふわー……なんか眠くなってきたぜ」
ズボラは床に座ると横になり始めた。それにつられてグータラも眠くなりテーブルに体を預けるようにうつ伏せになる。
「うん、俺も眠いよ」
ふたりがうとうととし始めるのを見計らいパレセクは言った。
「お休みでございますか。でしたら、ベッドルームがあちらの部屋にご用意してありますので、そちらでお休みくださいませ」
すると奥にあるドアが自動的に開いた。
「ベッドルーム? いや、俺はここでいーぜ」
「俺もここでいいよ」
ズボラとグータラはそろって寝息をかき始める。
「さようでございますか。では、そのままごゆっくりとお休みください。ロマンティス城へ着きましたら起こしますので、安心してお眠りください」
ふたりは適当に返事を返すとそのまま眠ってしまった。
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