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4. 宿敵

「報酬100万かぁ、それがあれば俺たち金持ちになれるぜ。100万あったらアクキリムシの串焼き何個食えんのかなぁ」


 そんなことを言いながら、ズボラが100メートルほど進んだところでふたりがついてきていないのに気がついた。きょろきょろと辺りを見回しても、どこにもいなかった。


「あれぇ、あいつらどこ行ったんだ?」


 後戻りをしてふたりを捜してみると、グータラが長椅子に腰かけていた。というより横になっていた。


「おーグータラ、どうした? ナマケはどこだ?」

「下にいるよ。それより疲れたよ」


 グータラの言葉を聞きながらズボラは長椅子の下をのぞいてみると、ナマケが安眠枕を敷いて眠っていた。


「疲れたかぁ? でも、今日中にロマン姫を助けるんだろ?」

「いや、そりゃあそうだけど、ちょっと行動早くない? すこしは休もうよ」

「そうか? 俺はべつにいいけど、早いほうがいいんじゃねーのか?」

「ほら、ナマケを見てよ。疲れすぎてずっと寝てるから」

「寝てるって言ってもさぁ、アレ使えば行けるだろ」

「ああ、棒のやつ。どこやったの?」

「え? あれぇ、どこにもねーな。どこ行ったんだ? グータラは知らねーか?」

「さあ、どっかに落としちゃったんじゃないの?」

「あーそうかもしれねーな。しょーがねーなぁ。じゃあ、またなにか見つけてくっか」

「棒がないんじゃ、進めないよ。俺はここで待ってるよ」

「うん、わかった取ってくるぜ」


 ズボラは棒を探しに行った。なにかないかとごみ箱の中をあさりはじめる。


「なんかねーかなぁ……あっ! これでいいや」


 それは木の杖だった。誰が捨てたかわからないその杖はなんの変哲もないものだ。ズボラはそれを持ち帰ることにした。


「見つかった?」


 グータラはズボラにたずねると、彼は「ああ、見つかったぜ」と言って、杖を見せた。


「え? それ、つえ?」

「そうだ。なかなかいいものがあったぜ。こいつなら十分に使える」


 ズボラは杖を長椅子の下にそーっと置いた。ナマケが起きるのを待っている間にズボラは指輪から酒を取り出した。木でできた筒状のものを手に持つと、その切れ目に口をつける。


「ああ、うまいな」

「それって酒?」


 グータラがたずねると舌なめずりをしてからズボラは答えた。


「ああそうだぜ。おまえも飲むか?」


 さっき口をつけたものを渡そうとしてきた。グータラは首を傾げると苦い表情を見せた。


「遠慮すんなよ」


 筒を振って音を鳴らしながらその筒をグータラの顔に近づけさせる。が、グータラはそれをいただこうとはしなかった。そんな彼を見てズボラはなにか納得したようすでうんうんとうなずいた。


「ああ、なるほど新品のやつがほしいんだろ? おまえも舌が肥えているからな。待ってな。いま取り出すから」


 ズボラはふたたび指輪の中身を確認し始めた。


「しかし便利だぜ。このちっこい指輪になんでも入んだかんなぁ……ほら」


 ズボラはさっきと同じような酒の入った筒を出してグータラに渡した。グータラはそれを受け取ると、そのまま筒に口をつけて胃に流し込んだ。


「わお、おいしい酒だね。どこの酒?」

「あ? ごみ箱で拾ったんだよ。ラッキーだったぜ、酒が2本も置いてあんだからさ」

「へー、そりょあよかったね。ついてる」

「そうとも、俺たちはついてるんだ」


 そのとき、長椅子の下に置いていある杖が動いた。ふたりは酒の話に気を取られて杖が動いたのを見ていなかった。


「しかし、グータラがロマン姫の話を持ってこなかったら、もうとっくに帰っているのになぁ」

「だって王さまの娘だよ。助けたほうがなにかといいことがあると思うよ」

「これ以上どんないいことが起こるってんだ。俺たちは酒を飲んでるんだぜ、しかも拾ったやつ」

「酒なんかいくらでも飲み放題になるよきっと。ロマン姫を助ければ」

「ロマン姫はなんでさらわれたんだろうな。城にいる兵士なんかがちゃんと護ってるんじゃねーのか?」

「たぶん、城の兵士よりも強いやつのしわざなんだよ」

「そうかぁ? 単に口がうまいだけじゃねーのか。王さまを口車に乗せてロマン姫をさらうことに成功したんだぜ」

「さあ、どうかな」

「きっとそうだぜ。間違いねぇ」


 そこでズボラは懸賞金の紙を取り出した。丸めていたため、それを広げて見せる。しわくちゃなその紙を眺めながら言った。


「懸賞金100万かぁ、なんの情報もねーんじゃなぁ、姫さまの居場所なんてわかんねーよ」

「だから、それを調べるんでしょ」

「調べるって言ってもなぁ、城に行けばなんかわかるかもって思ってんだけどさぁ、もう、なんだか面倒くさくなってきまったぜ」

「うーん、それもそうだね。誰かがやってくれるよ、きっと」

「よし、じゃあ帰るか」

「うん」


 ズボラとグータラはナマケの家にいったん帰るために長椅子から立ち上がった。すると、ズボラが何気なく下を向いたとき、忘れていたことを口にした。


「あっ! そうだった。俺たちナマケを起こそうとして下に杖を置いたんだった」


 ふたりはあわてて長椅子の下をのぞき込むと、ナマケは杖を持ちながら眠っていた。


「よーし、杖をつかんでるな。これでどこでも行けるぜ」


 ズボラは杖をつかむとそのままナマケを引きずり出した。横向きに寝ている彼は杖をつかんでおり、安眠枕をわきに挟んでいる。


「グータラ、そっちのほうを持ってくれ」

「え? ああ」


 グータラは杖の反対側をつかむとそれを持ち上げた。ナマケは寝たまま片手で杖を持っている。それを確認するとズボラは歩き出しながら言った。


「ナマケが杖をつかんだからな、これはロマンティス城まで行かねぇといけねーな」

「そうだね。ナマケもやる気になったんだね」

「やる気を見せつけられちゃあーなぁ、しょーがねーよ」


 こうして、ズボラとグータラはナマケを担ぎながらロマンティス城へと向かうのだった。


 ナマケは片手で杖をつかんでいるため、ズボラとグータラの間で足を引きずられながら移動させられていた。


 南の門を目指して歩いて行く。途中、噴水広場を通り抜けようとしたとき、「よう、怠けもの」と、ズボラたちに声をかけてきた人物がいた。


 声のするほうにいたのはチーター化の男セカチだった。その両隣にはクマ化の男セイカクとヒツジ化の男ピタリがいる。


 ズボラたちの状態を見るなりセカチがにやけながら言った。


「相変わらず暇そうだな。ズボラ」


 ズボラはそれに対して言い返した。


「そっちこそ相変わらず忙しそうじゃねーかぁ、セカチ」

「忙しいねぇ、なんつっても俺たちはこれから……」


 そこまで言いかけて、隣にいたピタリが懸賞金の紙を見せてきた。


「……このロマン姫を助けに行くんでな」

「へぇーそうなんか。奇遇だなぁ、俺たちもこれからロマン姫を助けに行こうとしていたんだ」

「おいおい、冗談もいい加減にしてくれ。姫を助けに行くだと?」

「ああそうだぜ」

「いまから助けに行ったところでもう手遅れだ。だって俺たちが先に見つけて助けるからな。そもそもどこを探す気だ?」

「とりあえずロマンティス城に行こうとしているんだぜ」

「ほう、そうかい。じつは俺たちもそこへ行こうとしていたんだ。ピタリ、俺たちがここから城へ着く時間は?」


 ピタリは眼鏡をクイっと上げながら答えた。


「3時間と32分45秒です」


 それに満足しながらセカチはうなずくとどうだと言わんばかりに言った。


「ということだ。まあ、おまえらの足だと5日はかかるだろうがな」


 するとセイカクが歩き出した。ズボラたちに近寄っていく。ズボラとグータラはぼーっとした顔で彼を見つめている。セイカクは彼らを無視してその後ろにある『プレズフィールの町へようこそ』と書いていある看板を5センチほど押した。それから彼は元の場所へ戻っていった。


 セカチがいぶかしい顔をしながらセイカクを見ていると、「ズレてたから」と一言だけ言ってふたたびズボラたちに目を向けた。


 ズボラはセカチに言った。


「5日かぁ、わざわざ教えてくれてすまねーな。これでどのくらいかかるのかわかったぜ」

「フンッ、まあせいぜいがんばれよ」

「そっちもな」


 セカチたちはすばやい動きで南の門へ向かっていった。彼らを見送るわけもなく「疲れた。すこし休むか」と言って、ズボラたちは近くの酒場に入って行った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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