38. 責任
城の外から民衆のわめく声や怒号が聞こえてくる。
「どういうことだ!」
ロマンティス王は慌てふためきながら、謁見の間に響いてくるその声に耳を傾けた。
『減税しろ!』『税金高すぎだー!』などの声が王に届いて来る。
ロマンティス王はむかっ腹を抑えられず思わず本音を出した。
「おのれー……」
それを聞いたナルーシはほくそ笑む。
「ふふふ、お言葉ですが王さま、いますぐ民衆の前に出て行って謝ったほうがいいんじゃないですか?」
「きさまぁ……」
そこへ大臣が割り込んできた。
「陛下、この事態はわたくしめにお任せください。民衆どもを一瞬で黙らせてきますから」
「……まさか、こんなことになるとは。なにも言ってこないからそれでいいと思っていたのだ。クソ」
「ですから、ここはわたくしめが」
ナルーシはそうはさせまいとして、ロマンティス王を脅した。
「いいんですかねぇ、ご本人が出て行かなくても。民衆はあなたが出てきて謝るのを期待しているのですよ」
ロマンティス王は口から血が出るほどに歯を食いしばるとナルーシに近寄った。
「きさまぁ……」
そのとき、その王を凍り付かせるような声が聞こえてきた。
「殿下、もう諦めましょう。国民あっての王なのですわ。ロマンもこうして無事に帰ってきてくれました。それ以上ありがたいことはありません」
それはロマンス王妃だった。
「王妃」
その、なにかを内に秘めた目で見つめられると、いくら王であっても逆らうことができなかった。
「……民衆の信頼を損なえば王もまた消える、か」
ロマンティス王ばそうつぶやくと外へは出て行かず自分部屋へと歩き出した。それを見たロマンス王妃は「殿下」と呼び止めた。
「ちょっと大臣と相談をする。だからすこし待っておれ」
ロマンティス王は大臣を連れてに部屋へと入って行った。
「ウヒカ、なにがどうなってんだ?」
ズボラはなにが起きているのか全くわからなかった。ウヒカはできる範囲で答えた。
「なーんか、この城がたくさんお金を取ってるんだって、みんなから。それをみんながよくないって言っているみたい」
「ふーん、なんだそうなのかぁ、しょーがねーなぁ」
それから数時間後。ロマンティス王と大臣は部屋から出てきた。その王の目はまっすぐに現実を見据えている。
そうして民衆の前に姿を見せた。
怒号や罵声が飛んでくるなか、意を決した王は静かに口を開いた。
「皆の者よ、よく聞いて下さい。みなさんの気持ちは痛いほどよくわかりました」
民衆が静まり返ると王は懐から紙を取り出して読み上げた。
「えー……『私たちは納税10パーセントの実現を求めます』を検討しておくことにします。その代わり、国民全員に1万リボンを配ることを約束いたします。以上でございます」
それだけを言うと、そそくさと城の中へ引き返して行った。
「王さまはなにを約束したんだ?」
ズボラはロマンティス王の言っていることがわからず、ウヒカにたずねた。
「1万リボンをみんなに上げるんだって」
「なんだそうなのかぁ。じゃあ俺たちますます金持ちじゃねーか」
ため息をつきながら王は謁見の間へと戻った。それから、ことの発端であるナルーシをにらみ付け、「そいつを牢にぶち込んでおけ!」と怒鳴った。
「殿下」
それを止めたのはロマンス王妃だ。彼女はすべてを打ち明けようとしていた。
「なんだ? 王妃」
「彼をどうか自由にさせてください」
「あ? なぜだ? 理由はどうあれ、こやつはロマンをさらったんだぞ」
「そこにいるナルーシはわたくしが雇ったのです。正確には仲介人を通しでですが」
「なっ⁉」
ロマンス王妃とナルーシがなぜ手を組んでいたのか理解できず、王は彼女の言葉を待った。
「きっかけはあることを知ったからです」
「あること?」
「民衆の声です。わたくしは知りもしませんでした。民衆はとても苦しんでいると。王族のわたくしたちが幸せなら民衆もまた幸せなのだと思っていました。しかし、それは誤りでした。それを教えてくれたのがアライグマ化の女の人です。彼女はわたくしの隠れた親友です。悩んだりしたときに相談に乗ってくれるそんな存在。その彼女が言っていました。民衆の中にはお金がなくて苦しんでいるケモにんたちがたくさんいると。これ以上そのままにしておくと暴動が起きる。そう言われました。まさかとは思いましたが、でも、もしそうなったら、いえ、そうなる前に手を打っておかなければと」
「それで、どうしたのだ?」
「彼女と話し合い、計画を立てました。それで、まず、誰かにロマンをさらってもらうことを思いつきました。わたくしは自由には動けませんから、彼女に仲介役をお願いして実行に移ってもらったのです。成功すればそれに見合うだけの報酬と引き換えに」
ロマンティス王は彼女のそういった怪しい行動を一度も見たことがなかった。
「だれか、王妃がそのようなことをしていたのを知っている者は?」
その問いかけに誰も答えなかった。皆が首をかしげるなか、ロマンス王妃が理由を説明した。
「誰も知りません。彼女はわたくしに会いに来るため、魔法で自分の体を透明にしていましたので」
ロマンティス王は疲れたように首を振ると、しぶしぶとつづけた。
「それで紹介されたのがナルーシ。そこの男と言いうことか」
「ええ、ある程度のお金を差し上げれば絶対に言った通りにしてくれるとの保証がありましたので」
「なぜだ? ロマンをさらわせるなぞ。そんな危険なことをおかしてまで。もし、こいつが頭のいかれた野郎だったらどうするのだ。それに、その隠れた親友とやらに裏切られたらどうするつもりだったのだ!」
「覚悟はできていました。そうなった場合、わたくしがすべての責任を負います」
彼女の言葉でロマンティス王は苦い表情を見せた。
「……どうしてそこまで……わしにひと言ぐらい相談してもよいではないか」
「していました。何度も何度も、言いましたよ。わたくしは、ですがあなたは『気にすることはない』と言って取り合おうとはしませんでした」
「だからと言って、誘拐をたくらむなぞ」
「こうでもしない限り、殿下は目が覚めません。一国の王が民衆の声も聞かずに悠々自適に暮らしている限り、決して。その証拠に……」
ロマンス王妃は懐から破られた紙を取り出した。
「これは、ナルーシがロマンの部屋に置いて行った彼からの手紙です。本人の名前は伏せていますが。ここには民衆のいまの状況やつらい気持ちなどが書かれています。それを破り捨てたのはあなた自身。ロマンをさらわれて、そこに置かれていた手紙を読まないはずはありません。もしかしたら、さらった者の手掛りがあるかもしれませんから」
ロマンティス王は声も出なかった。自分がはだかの王さまであること。一歩間違えれば家族を危険な目にさらしてしまうことに。
「ロマン、怖い思いをさせてごめんなさい」
そう言いながらロマンス王妃は悲しそうな眼を見せた。ロマン姫はそれを聞いて首を横に振った。
「なんだぁ、じゃあ、俺たちがやってきたことは結局は意味なかったのかぁ。しょーがねーなぁ」
ズボラは寝そべりながら天井を見上げた。グータラとナマケは話が長すぎてすでに眠っていた。
「違うよ。意味あったじゃない。こうして賞金はもらったし、なんだかわかんないけど、なにかが解決したみたいだし。ひひひ」
ウヒカはそう言って手に握っている100万リボンコインを見つめた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
『流れに身を任せる』をテーマに書きました。
ズボラたちは、食べたいときに食べ、飲みたいときに飲み、寝たいときに眠る。自分の体に正直に生きています。嘘はつかず、他人の言ったことはすべて信じる。
そんな彼らが冒険をしたらどうなるのかを書いてみたかったのです。
ギャグメインと言うことで、個人的な笑いのツボを作品の中にちりばめているので、ツボが合えばクスりとするかもしれません。全く笑えなかったり、つまらなかったりしたらすみません。
最後に、この小説を読んでくださった方々、評価をしてくださった方々、こういった小説が投稿できるサイトがあること、本当に感謝しています。
ありがとうございました。
おんぷがねと




