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37. 勇者

 ウヒカは回復薬をセカチたちの体に当てた。すると、みるみるうちに傷がなくなっていった。三人は目を覚まして辺りを見回した。


「ここは?」


 セカチは頭を抱えながら起き上がると、そこにはロマン姫や城下町で会ったウヒカたちがいた。


「ロマン姫さまにウヒカ? だっけ? カードバトルの」

「うん」

「俺は、なんでこんなところにいるんだ?」

「あんたたちが傷ついているから、助けに行こうって、ロマン姫さまおっしゃったんだよ」


 三人はロマン姫に膝まづき、セカチがお礼を申し上げた。


「こんな俺たちを助けていただき、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ、わたしを助けに来てくれたわ」


 そこへズボラがやってきた。後ろにはグータラとナマケがいる。


「なんだなんだ。ずいぶんと賑やかじゃねーか」


 セカチは相変わらずの彼らを眺めながら言った。


「ズボラか。おまえらがロマン姫さまを救出できるとはな」

「べつに俺は救出なんかしてねーぜ。俺たちはおまえたちを救出したんだからな」

「俺たちを?」

「ああ、面倒くさかったぜ。だけどロマン姫さまが救出してほしいって言うもんだから仕方なくやったんだぜ」

「ああ、そうかい。それはどうも」

「まあ、これでやっと帰ることができるんだ。俺たちはもう疲れたぜ。なあグータラ」


 ズボラはグータラに話を振った。グータラは歩くだけでも疲れたのか、すでに座って持ってきた酒を飲んでいた。


「そうだね」


 ナマケはすでに眠っていた。それから、ゾウゴロウは修復されてロマンティス城へと向かった。


 ロマンティス城下町に着きそれぞれがゾウゴロウから降りた。セカチたちがロマン姫を囲いながら城まで護衛していく。町の人たちはロマン姫の姿を見ても、多少驚いただけでなにも言わなかった。


 セカチはその違和感に疑問を抱きはしたが、とくに気にもしなかった。

 一行が城の門に着くとそれが人づてに国王の耳へとすぐに入った。謁見の間の扉が開き、ロマン姫が姿をあらわす。


「おお」


 ロマンティス王は感動のあまり椅子から立ち上がった。


「お父さま」

「ロマン、無事だったか」

「はい」


 ロマン姫の後ろにはウヒカやセカチたち、ズボラたちが並んでいた。ロマンティス王は彼らを見るなり感謝の言葉を述べた。


「皆の者よくぞ姫を助け出してくれた。礼を言う」

「ひひひ、あたいたち大変だったんだ。ですから王さま、その……」


 ウヒカは熱の冷めないうちに一番大事なことをたずねた。王はそのことを思い出して早急に対応した。


「おお、そうだったな。お礼の品を渡そう。皆で分けるとよい」


 王が言うと大臣が100万リボンコインを持ってきてウヒカに手渡した。100万リボンとなれば、そのコインの輝きは違う。


「それが100万かぁ」


 ズボラは物珍しそうに見つめる。ロマン姫は一呼吸おいて感謝の意を述べた。


「皆さま本当に助けていただきありがとうございました。この御恩は一生忘れません」


 そのとき、謁見の間のドアが勢いよく開いた。そこに立っていたのはナルーシだった。彼は傷つきながらもゆっくりと王の前へと進んでいく。


「ナルーシ!」


 ロマン姫はその名を口にした。ナルーシはロマン姫に目もくれず、なにかを内に秘めたような殺気めいた目を見せていた。


「お父さま、彼がわたしをさらったケモにんです」

「なに!? その者を引っ捕らえよ!」


 衛兵が一斉にナルーシを捕まえに行った。彼は抵抗の素振りすら見せず潔く捕まった。


「こっちへ連れてこい」


 王に言われて衛兵たちはナルーシを王の前に連れて行った。


「わしの娘をさらったのはお主か?」

「……ええ、しかし、これには訳があるのです。王さま、ぼくの書いた置き手紙はお読みになられましたか? ロマン姫さまの部屋にあったはずですが」

「手紙だと? ふん、そんなもの知ったことか。明日処刑する。牢にぶち込んでおけ」


 ナルーシは衛兵に連れて行かれようとしたが抵抗した。


「ま、待ってください! ロマン姫さまをさらったことは謝ります。ですが、ぼくの意見も聞いてください。いえ、ぼくひとりの意見ではありません。国民全員の意見なんです。お願いです!」


 衛兵により彼が連れていかれるようすを黙って見ていた王は、最後の言葉として聞いておこうとした。


「待て、意見とはなんだ?」

「はい、税金が高すぎます。どうか廃止にできませんか?」

「なに? 税金が高いだと? おまえは国に治める税金がなにに使われているのか知っているのか?」

「はい、飛虫船の維持や建物の賃貸料。貿易関税。わけあって労働をできない者への生活支援。この城で働く者たちなど」

「ああ、だがそれはこの国の繁栄のためにやっていることだ」

「しかし、国民は疲弊しきっています。買いたいものも買えない。毎日の生活だけで精いっぱいなのです」

「じゃあ、おまえに聞くが、どうやってこの国を維持していくつもりだ? 働きたいが働けない働けなくなった者への保証。他国からの輸入品の維持。災害費などは」

「ありがとうございます。いい質問です。一番は納税の削減です。毎月この国に治めている、いや、あなたたちに納めている税金を減らすことです」

「なんだと!?」

「毎月納めるこの国の税金は給料から50パーセントを引かれます。その50パーセント中40パーセントはこの城に使われています。それを廃止にするのです」

「むむ……どこでその情報を」

「ふふふ、いやーこれでも、ぼくにはいろいろとこの城のことを教えてくれる友人がいるのでね」

「……内通者か?」

「さあ、それはどうかな」

「40パーセントを廃止だと? そうなると我々の生活が」

「通貨発行すればいいんですよ。できるでしょ?」

「ダメだ。そんなのは認められん」

「認めない? あなたはまだ自分の立場がわかってないようですね。大したこともやってないくせに、城では毎日パーティーを開き、一般市民じゃ食べられない、とてもおいしい料理を食べ、とてもおいしいお酒を飲んで毎日贅沢三昧じゃないですか」


 そこへ大臣が話に割り込んできた。


「きさまぁ、陛下に向かってそのような口の利き方を」


 ナルーシは含み笑いを見せると、懐から何ページにもなる紙のたばを出してきた。


「これは、この国に住んでいる国民の声。署名です。約五千人のケモにんたちの署名がここにあります」


 大臣がそれを取りに行き内容を確認した。


「……これは!? 『私たちは納税10パーセントの実現を求めます』だと?」

「それが国民の声です」


 王ははらわたが煮えくり返りそうなほどに激怒していた。王はナルーシをにらみ付け、そして指をさして言った。


「その者を即刻処刑せよ!」


 そのとき、謁見の間のドアが開き、ひとりの門番が倒れ込むように中へ入ってきた。


「国王陛下、大変です!」

「どうしたのだ?」

「そ、外に国民たちが、たくさん集まっています!」

「なに!?」


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


※次回は最終回になります。

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