36. 救助
「な、なにがあったのパレちゃん!」
ウヒカはパレセクにたずねた。
「はい、火の玉を避けきれず、ゾウゴロウに当たってしまわれたようです。幸いかすった程度ですが、これ以上飛んでいくのは厳しいかと思われます」
「なんとかならないの?」
「すみませんが不時着いたします」
ゾウゴロウは煙をもくもくとさせながら降下していった。それを確認していたナルーシは高らかに笑った。
「はっはっは、きれいだ。まるで彗星のようだね」
すると、タケクロ蝶が大きく揺れた。
「どうしたんだい?」
「はい、つららの破片が羽に当たってしまったようです」
「そうかい。では修復を」
「それができません。すみませんが、回復機能の部分もどうやら破壊されていたようです」
「なに!?」
タケクロ蝶は飛行が止まりふわりとしながら落ちて行った。
そのころ、不時着したゾウゴロウは南の海岸の手前で止まっていた。
「ここは?」
ウヒカは外を眺めるとそこは南の海岸だった。
「南の海岸?」
「はい、その手前に不時着いたしました」
「パレちゃん、大丈夫なの?」
「わたしは大丈夫ですが、ゾウゴロウには修復時間が必要です」
「修復時間?」
「はい、破損したところを直さないといけません。飛虫船には飛行中になにかしらで壊れた場合に修復機能がついているのです」
「へぇーそうなんだ」
「はい、ですから次の飛行ができるようになるまでにはしばらくかかります」
「わかった」
ロマン姫は外をのぞくとセカチが倒れているのを発見した。
「あっ! あそこに彼が」
「えっ?」
ロマン姫が指さしているところをウヒカは確認すると、すぐさま助けに向かおうとした。
「よし、あたいが助けてくる」
「わたしも行きますわ」
「ロマン姫さまも? ……うん。おねがい」
ふたりはさっそく彼らを助けるため滑り台へ向かおうとした。
「どこに行くんだ?」
ズボラは寝転がりながらウヒカにたずねた。
「おまえらの天敵だっけ? そいつらを助けに行くんだよ」
「セカチたちか?」
「そうだよ」
「そうか、じゃあ助けて来てくれ。俺は寝てるから」
「わかった」
ウヒカたちは滑り台のところまで向かった。が、あることに気がついた。どうやって彼らを運んでくればいいんだ? と。ロマン姫もいっしょだが、ふたりだけで果たして連れて帰って来れるのだろうか? と。
「どうなされたの? ウヒカさん。早く助けに行きましょう」
「ああ、だけど、あたいたちだけで彼らをここまで運びきれないよ」
「えっ? ……そうですわね。どうしましょう」
「うーん……そうだ! おーいズボラ」
ウヒカはズボラを呼んだ。しかし、彼は声だけをウヒカに返した。
「なんだ?」
「なあ、セカチたちを助けに行ってくれないか?」
「えっ? ウヒカたちが行くんじゃねーのか?」
「か弱いあたいたちだと、あいつらを抱えてこれないんだよ」
「お得意の魔法を使えばいいだろ」
「簡単にそう都合のいい魔法なんてできないんだよ」
「なんだそうなのか、しょーがねーなぁ」
ズボラはグータラとナマケを誘った。熟睡していた彼らをどうにか起こし説明をして外に出た。
「どこにいるんだ? あいつらは」
ズボラは辺りを見ながらセカチたちを捜した。すると、砂浜の上に倒れている彼らを発見した。
「あっ、あんなところにいるなぁ。しょーがねーなぁ」
しぶしぶとズボラは歩き出す。
「しかし、あいつらが寝るとはなぁ。眠らないやつらかと思ってたぜ。なあ」
ズボラは後ろのふたりに話を振った。しかし、後ろからはなんの反応もなかった。振り返ってみるとグータラとナマケは、さっきいた場所から一歩も動いておらず寝ていた。
「なんだぁ、おまえらも寝てるのか。しょーがねーなぁ」
ズボラはグータラにかまわずとりあえずナマケを起こすことにした。例のようにバッグから杖を取り出してナマケの手にふれさす。
「……あー、ここは?」
ナマケは起きてすぐに自分がいまどこにいるのかが気になり言った。
「海岸だぜ。それより、グータラも起こさねーとな」
ズボラはグータラを揺り起こすが彼は起きなかった。
「やっぱりだめかぁ、しょーがねーなぁ。おーい、乗せてくれ」
そう飛虫船に向けて言うと、ズボラとグータラとナマケはゾウゴロウに戻った。
「あっ! おい、もう戻ってきたのか? あいつらは?」
ウヒカは彼らの周りを確認したが、それらしきものは見当たらなかった。
「グータラが寝てたからさ。起こそうとしたんだ。だが、起きなくてさ、しょーがねーから、いったん戻って酒のにおいをかがそうとしたんだぜ」
ズボラはそう言って、テーブルに置いてある酒をグータラの鼻へ近づけた。
「んー……いいにおい」
「やっと起きたか、待ちくたびれたぜ」
「あれ、ここは?」
「ゾウゴロウの中だ」
「そう、じゃあ、もうすこし眠るね」
グータラはまた目を閉じた。ズボラは彼を寝かせまいとして抱きかかえながらそのまま立たせた。
「ん、あれ?」
「俺たち、これからセカチたちを起こしに行って、連れてこなきゃいけないんだぜ」
「え? そうだったっけ?」
「ああ」
「わかった行くよ」
そうして、ふたたび外に出た。先ほど見つけたセカチたちところまで向かう。
「なんか、ずいぶんと傷ついているな」
セカチを眺めながらズボラは言った。
「しょーがねーなぁ。担いでいってやるか」
それから屈んで彼を担ぎ起こした。「グータラ、そっちを持ってくれ」と足のほうを持つように促した
「うん」
グータラは足のほうを持つが、足先は浮いておあらずセカチの足は地面を引きずったままだ。
「よーし、じゃあ行くか」
ズボラは歩き出したが、ほかのやつも一緒に連れていこうとしてナマケを呼んだ。
「おーいナマケ。ほかのやつらも引っ張ってきてくれ」
返事がない。辺りを見回すが彼はいなかった。
「あれー? おっかしーなぁ、どこ行っちまったんだ。しょーがねーなぁ」
ズボラはセイカクとピタリを一緒に連れて行こうとして、そこへ向かった。彼らの前に来るとズボラは片手を放し、もう片方の手でセイカクの手をつかんだ。
「グータラはそっちにいるピタリを連れてきてくれ」
グータラはセカチの足から手を離すと、ピタリを羽交い絞めのようにしながら引っ張って行った。
そらから数時間が経ち、ズボラとグータラはセカチたちを船内に運んだのだった。
「やっと戻ってきた。ずいぶんと遅かったじゃない」
ウヒカは駆け寄りながらその光景を眺めた。彼らは砂まみれだった。
「いやー、ナマケがいねーから、ふたりで運んで来たんだぜ」
「ナマケならそこで寝てるよ」
ナマケはテーブルの下で寝ていた。
「なんだ、そんなところにいたのか。しょーがねーなぁ」
そこへロマン姫がやってきてセカチたちの傷だらけの体を見ては、早く手当てをしないとと思った。
「この方たちの治療をしないと」
「治療? パレちゃん」
ウヒカはパレセクならなんとかしてくれると思い、治せるか聞いてみることにした。
「はい」
「セカチたちの傷を治したいんだけど」
「傷でございますか。テーブルで回復薬が注文できますよ」
「そうか、わかった」
ウヒカはさっそくテーブルへと向かい、回復薬を注文することにした。
「あった、これだね」
回復薬を押しているが反応がない。すると、パレセクは理由を話し出した。
「料金をお支払いいただかないと回復薬は出てきませんよ」
「え? 金取るの?」
「はい」
「いくら?」
「料金のほうは回復薬の近くに映っていますよ」
ウヒカはよく見てみると料金表が映し出されていた。
「いちじゅうひゃく……ご、5万!?」
「はい」
「そんなに持ってないよ」
「さきほどのロマン姫のネックレスにはまだ残金があります。ですから、それを使えば回復薬を買うことができますよ」
「なんだ、そうか。じゃあそれをやってくれ」
「わかりました」
回復薬が買えるようになり、ウヒカは回復薬を購入した。指でつまめる小さな緑色の玉が出てきた。
「これが回復薬ってやつか」
ウヒカは珍しそうにその玉を眺めていると、パレセクはその回復薬の説明をしてきた。
「それは、指でつまめる大きさの玉状のものに回復魔法が込められているものです。体に当たれば玉が割れて白い光が体全体に広がり症状を治してから消えていきます。その時間差は1秒から5秒のあいだで行われます。また、効力によりそれは大、中、小と分かれています。大は大怪我や大病……」
「もうわかったよ。ふーん、これもどうせダリティアから来たって言うんでしょ」
「はい」
「まあいいや、これで治るんなら」
ウヒカは回復薬をセカチたちのところへ持っていった。
「ロマン姫さま、回復薬を買ったからこれを使ってみよう」
「それで治るのですね」
「うん、姫さまのネックレスの残金がまだあったんだ。それで……」
「そうでしたか。お役に立ててなによりです」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




