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33. 芸

 ナルーシはロマン姫が退屈を感じていないか心配になり振り返ってみた。


「あれ?」


 ロマン姫がいない。ナルーシはすぐに彼女が立っていた場所に戻った。


「ロマン姫、どこに行ったのかな。逃げても隠れても無駄なんだよ」


 ナルーシはその周辺や船内を捜しに行ったが、どこにも見当たらなかった。辺りをよく見てみると砂浜に痕跡が残されているのに気がついた。


「足跡か」


 足跡がどこかに続いているのがわかり、その足跡を目でたどった。するとロマン姫が小走りでどこかへと行こうとしているのが見えた。


「どこに行くのかな? お姫さま」


 ナルーシは彼女を見つけるとゆっくりと歩き出した。それに気づいたウヒカは「やばい、みつかった」と言って、より早く行こうと駆け出そうとした。だが、ロマン姫を引っ張ったとたん、彼女は転んでしまった。


「姫さま。大丈夫ですか? 時間がありません早く立ってください」


 ウヒカはじりじりと近寄ってくるナルーシを見ながら、ロマン姫の手を引っ張り彼女を起こした。


「行きましょう」


 ウヒカたちは駆け出した。岩があるところを抜けて行く。ナルーシは彼女たちを見失いそうになり、小走りになった。


「逃げても無駄なんだけどねぇ」


 ウヒカは自分たちが乗ってきた飛虫船まで行こうとしているが、ロマン姫は先ほどの転倒で足を痛めてしまった。ウヒカは彼女の足をかばいながらの移動のためどうしても遅くなってしまう。


「あいつらはなにやってんだ」


 ウヒカはナルーシの接近を食い止めてもらうため、彼らを捜した。するとすぐに見つかった。樽から酒を出して飲んでいるではないか。ウヒカは自分たちが飛虫船に乗るまでの間、彼らにはもっとおとりになってもらおうと思った。


「おーい、おまえら」


 ウヒカの声が聞こえてズボラたちは振り向いた。しかし、そこにはロマン姫しかいなかった。


「あいつを食い止めてくれ」

「ロマン姫にでも変身したのか?」


 ズボラは物珍しそうにそうたずねた。ロマン姫本人は首を振り違うことを訴えるが、すぐには伝わらなかった。


「違うが、まあそんな感じだ。だから、あいつを足止めしてくれ」


 ナルーシがロマン姫のもとへじりじりと近寄ってくる。


「ん? あいつは俺たちに酒をくれたいいやつだぜ。なあ」


 ズボラはほかのふたりに話を振った。まず、それに答えたのはグータラだった。


「うん、そうだね。彼はいい人だよ。なにもしてないのに酒をくれたからさ」


 つづいてナマケが答える。


「あー、そうそう、えーっとなにから話せばいいか。どこから話せばいいか。彼はねー……」


 ウヒカは待っていられずにナマケの話をさえぎった。


「とにかくあいつをなんでもいいからこっちに来させないでくれ。じゃあ頼んだぞ」


 そう言い残して、ウヒカはロマン姫を連れて飛虫船へと向かった。


「来させるなって言われてもなぁ……」


 ズボラはそんなことは気にせず酒を飲んだ。ほかのふたりも気にも留めず飲んでいく。するとそこへナルーシがやってきた。


「おい、君たち。こちらにロマン姫が来なかったかい?」

「おお! 待ってたぜ。ちょうど俺たちあんたにお礼をしたくてさ」

「おれい? そんなことよりロマン姫を捜しているんだが」

「まあまあ、彼女ならそのうち帰って来るって。それより俺たちの芸を見てってくれよ」


 ズボラはほかのふたりを手で合図して立たせた。


「俺はズボラ」

「グータラ」

「ぼくーナマケ」

「三人合わせて……」


 ナマケが急に倒れて眠り出した。それを見たズボラが素早く起こす。


「ナマケまだ寝るな。寝るのはもっと先だろ。俺たち途中なんだぜ自己紹介の」


 ナマケはグータラの体を借りてすがるようにしながら起き上がった。それを確認してズボラとグータラは言った。


『俺たち、なまけものでーす』

「なまけで……」


 ナマケは一緒にハモろうとしたができなかった。それを気にせずズボラは話し始めた。


「いやー最近、空き巣に入られて困ったぜ」


 それから、懐から出した眼鏡をかけてクイっと持ち上げる。グータラはそれを見て言った。


「あきす? それは大変だね。ところでその眼鏡、買ったの?」

「いや、もらったんだよ。これからその話をしようと思ったところだぜ」

「眼鏡をもらった話?」

「おお、俺さぁ、空き巣に入られて、城の門番のところまで助けを求めに行ったんだ」

「えっ! 門番てあの城とかを護っているひと?」

「うん、そう、それで「空き巣に入られたんで助けてください」って、言ったんだ。そしたら、「あきす? ちょっとそこで待ってろ、いま国王陛下に聞いてくるから」

「王さまに? そんなに重要なことなの?」

「重要だろうがよ。あの俺の家が空き巣にあったんだぞ」

「あのゴミだらけの?」

「ああ、そうだよ。それでその門番は城の中に入って行ったんだ。それから、1時間経ち、2時間経ち、そうだなぁ計9時間は経ったかな」

「えっ? 9時間も」

「ああ、全然出てこないからさ、俺、言ったんだぜ「すいませーん、ズボラなんすけど、まだ時間かかりそうっすかねぇ」って、そしたら、会議中だって返って来たんだぜ」


 雲が出てきて辺りは薄暗くなった。ナルーシはその雰囲気を感じて空を見上げる。


「それで、空き巣に入られて門番はどうなったの?」

「来てくれたよ」

「えっ!? 城を護っている門番が来ちゃったの? 城を護るほうが重要じゃないの?」

「いいやつだぜ、あいつ。時間はかかったがな」

「そうだろうね。9時間以上だもんね」

「ちがうちがう、3日後だって」

「みっかご? 重要なことじゃなかったの?」

「まあまあ、彼にもいろいろと事情があったり時間がかかったりすんだよ」

「かかり過ぎだよ。もっと早く来てもらわないと」

「いやいいんだ。そんなことはどうでも」

「いいのかよ」

「来てくれればな。それで、俺の家の中を見てもらったんだ。そしたら「ここはーお花畑ですか?」って言ったんだぜ」


 凍えるような突風が吹き、ナルーシの体はぶるぶると震え出す。


「えっ! 花畑? 本当にそう言ったの?」

「ああそうだよ。目を見開いてちゃんとそう言ってたぞ」

「ゴミ屋敷だよね。ゴミが花に見えたの?」

「ゴミじゃねーよ。ただ散らかってるだけだぜ。それで「取られたものは?」って、彼が聞いてくるから答えてやったんだ。下着だよって」

「し、したぎ? ズボラの下着って……」


 グータラは彼の服装を下から上へと見上げた。


「なんで盗んでいったの?」

「しらねーよ。だけど見つかんなかったなぁー探したけどさぁ」

「で、門番はなんて言ったの?」

「「よし、わたしの下着を差し上げよう」って言って、その場で脱ぎ始めたんだぜ。ラッキーだったぜ」

「ず、ずいぶんと気前のいい門番だね」

「まあ、その代わり自分がいま着ているものを全部差し上げたけどな」

「え? 意味あるの? それ」

「そいつが言うには、それじゃあ割に合わないからってこの眼鏡をくれたんだぜ」

「ああ、なるほど、それでもらったんだね。よかったね。ねえ君もそう思うだろ? ナマケ」


 グータラはナマケに話を振った。すでに彼は寝ていたが、そこから寝言が聞こえてきた。


「あー下着にめがねぇね」


 彼らの会話を聞いていたナルーシは、不思議なことにいつの間にか固まっていた。


 そのとき、飛虫船が飛んできてズボラたちを引き上げていった。そこにはウヒカとロマン姫がいてズボラたちを見てた。


「おい、よくあいつを止められたな」


 ウヒカは意外なことに感心してそう言った。ズボラは頭を掻きながら答えた。


「よくわかんねーけど。芸をやってたら、あいつ固まっちまったんだぜ」

「それは好都合だったね」

「なんで固まったかなぁ、あれからもっと面白くなるんだがなぁ」

「ま、なんにしてもこれで姫さまを送り届ければ、100万はあたいたちのもんだ」

「それよりウヒカ、どこ行ってたんだ? あのあと、この飛虫船にもどったのか?」

「ちがうよ。あたいは魔法で自分を透明にしたんだよ。それで、あいつに気づかれなかったんだ」

「なんだ、そうだったのか」


 一行を乗せた飛虫船はロマンティス城へと向かっていた。


「悪の手から助けていただき、ありがとうございます」


 ロマン姫は礼を言った。それに対してウヒカが答える。


「まあ、あたいたちにかかればこんなもんよ。でも、なんでさらわ……いいえ、余計な詮索はいない主義なの」


 ウヒカの問いにロマン姫はこころよく答えた。


「なぜさらわれたのか。わたしは夜、寝室で願い事をしていたの。いつかわたしを迎えに来てくれる騎士さまがあらわれますようにって。そして、祈りはじめてから10回目の夜。天に願いが通じて来てくれたのよ。騎士さまが……でも、ちがったわ。彼はタダの盗賊だったのよ。大声を出して誰かを呼ぼうとしたけど、手遅れだったわ。とてもすばやい動きでわたしを連れ去って……」


 すこし涙ぐむような声を出したが、すぐにそれを消した。ロマン姫はどんなことになっても凛々しさだけは捨てないようにといつも心得ている。だから弱音を吐かないのだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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