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3. 英雄

「待て待て、よく考えたら姫を助ければ俺たちは英雄だぜ。それに金ももらえるし、これはやるしかねーなぁ」


 ズボラはやる気のないふたりを奮い立たせようとして、注文した酒を彼らのコップに注いだ。それから、おつまみのマッタを注文した。


「でも、面倒だよな」


 マッタをつまみつつグータラは言った。ナマケが行くと言えばグータラも行くだろうと思い、ズボラはナマケに期待を込めてたずねる。


「ナマケはどうだ?」

「あーどう、かなぁーやると言っても、どこにロマン姫がいるかわからないじゃない」

「それをこれから捜すんだろ」

「いやーそのー、たぶん、長くなると思うよ」

「大丈夫だぜ。その辺の人に聞けばなにか教えてくれるって」

「そう……かなぁ」

「じゃあ、やるんだな」

「んー……グータラはどうなの?」


 ナマケが聞くと、グータラは姫を助けに行くこと自体が面倒だと思った。「誰かが助けてくれる」ナマケがさっき言ったことが頭をよぎり、やめようと考えたが、昨夜の姫の泣きながらの「たすけてー」を思い返すと、そのときの彼女の目は自分を見ていたように感じた。


「助けに行ってみてもいいかも」


 その言葉にズボラは笑顔になりながら酒を飲み干すと上機嫌でそそのかす。


「そうだろそうだろ。やっぱやるだろ?」

「そうだね。俺らがやらないと」

「……だって」


 ズボラはニヤニヤしながらナマケに顔を近づける。ナマケは嫌な顔を見せながら酒をあおった。


「グータラもやるってさ。どうだ? ナマケもやらないか?」

「あー、そうーんー……」


 ナマケは本当は、指輪を買ったら家に帰って寝るつもりだった。どうにかして家に帰って寝る方法はないか考えるが、なにも思いつかなかった。


「どうなんだ?」


 ズボラはずかずかと人の懐へ入ってくる。ナマケが渋っているようすを見てグータラが助け舟を出してきた。


「ナマケ、やったほうがいいって。俺もねー、ロマン姫の『たすけてー』を無視するわけにはいかないと思ったんだ」


 その言葉にズボラはうんうんとうなずいて答えた。


「そうそう、これは人助けなんだぜ。それに相手はロマン姫。ロマンティス城のお姫さまだぞ」


 ズボラとグータラはナマケの意見を待った。1時間経ち、2時間が経過しようとしたそのとき。


「……やっぱり、やめたほうがいいよ。なにが起こるかわからないよ」


 ナマケはテーブルに持たれるようにしながら言った。そんな彼をどうにかやる気にさせようとズボラとグータラは考え始める。そして……。


「わかった、じゃあこうしようぜ。ナマケは寝てていい。その代わり俺たちについて来るんだ。棒をずっとつかんでていいからさ」


 ズボラの提案にナマケは目を閉じて「うーん」とうなると、テーブルに頭をつけて寝ようとしていた。それを見たズボラは自分の持っているバッグからあるものを取り出した。


「そう言うだろうと思って、じつはナマケにプレゼントを持って来てあるんだ」


 それをテーブルの下に隠しながら、ナマケがそれに食いつくまでようすを見ることにした。グータラはナマケに上げるプレゼントがなんなのか気になりテーブルの下をのぞき込んだ。


「それはいいね。いまのナマケにぴったりだ」


 ナマケはプレゼントが気になり始めて「なに?」と声を上げた。


「こいつだよ」


 そう言ってズボラは安眠枕を見せつけた。ナマケをそれを見て目を丸くすると、ため息をつきながら答えた。


「……ダァメだよ。ぼくにそれは……」

「いいっていいって、遠慮すんな。こいつがほしいんだろ?」


 ナマケは渋っているがズボラはなかば強引に安眠枕を手渡した。ナマケは安眠枕を手にして頭をうずめた。


「どうだ? 行きたくなったか?」

「うーん、わかったいくよ」


 こうして三人はさらわれたロマン姫を助けるために旅に出ることにしたのだ。


 旅に出る前に買おうとしていたクロバーの指輪のことを思い出して。3人はその店に並んだ。相変わらず行列ができている。1時間待ち、2時間待ち、3時間経ったところでようやく順番が回ってきた。


「いらっしゃいませ。クロバーの指輪は6500リボンになります」


 店員がそう言うとズボラはコインの残高を確認した。するとコインには7000となっていた。


「あっ! 一個しか買えねーかぁ、しょーがねーなぁ」


 ズボラは7000リボンコインでその指輪を買った。


「ありがとうございます。指輪のお使い方は指輪の中に説明書が入っておりますのでそちらでご確認ください」

「ああ、わかったぜ」


 ズボラは指輪を手に入れるとさっそく嵌めてみた。指輪の形状は嵌めた者の指に合うように自動伸縮するようになっている。


「それが、クロバーの指輪?」


 グータラはうらやましそうにそれを眺めながら言った。


「そうだぜ。たしか聞いた話によると……」


 ズボラは自分のバッグを指輪に近づけた。すると、そのバッグは指輪に吸い込まれていった。


「消えた!?」


 グータラは驚きながら辺りを見回したが、どこにもズボラのバッグは落ちていなかった。


「ここに入っているはずなんだ」


 ズボラはそう言って指輪にふれてみた。指輪から透明な映像が映し出されてそこには道具や残高が表示されていた。


「へぇーこうやって見れるようになるのか。残高が500リボンとなっているな。それから、道具欄にふれるとさっき入れた俺のバッグとその中身も文字として表示されているぜ」

「はぁ……ああ! だから物を持ち運ばなくてもいいんだね」

「まあ、そういうことだな。よーし、指輪も手に入れたしさっそくロマン姫を助けに行こうぜ」


 ズボラは歩き出した。そのあとをグータラとナマケはついていくが途中でグータラがあることに気がついた。


「なあズボラ、これからいったいどこへ行くんだ?」

「あ? とりあえず城だな」

「ロマンティス城?」

「そうだ。そこへ行って王さまに会う」

「えっ? 会わせてもらえるかなぁ、そもそもなんで行くの?」

「決まってるだろ。ロマン姫は城でさらわれているはずだ。そこで誰かなにか見ているかもしれねーだろ」

「あーそうか」

「そうだぜ。情報収集ってやつだ」

「じゃあ、城へ行かないとね。でも、その城ってどこにあるの?」

「えっ? ……あっ! そうだった。俺は一度も城へ行ったことがねーんだった。しゃーねー、その辺の人に聞いてみっか」


 そうして三人はロマンティス城の場所を聞くために町の人にたずねることにした。


 ズボラは誰かと待ち合わせをしているような人に話しかけた。彼女はキツネ化の背の高い女の人だった。


「すいませーん。聞きたいことがあるんだけど」

「はい」

「ロマンティス城へはここからどう行けばいいんだ?」

「ロマンティス城? そうね、ここからだと。この町の南の門を抜けて道沿いにまっすぐ行くと、標識があるわ。右はネイトリィの町、左はフレスデシオンのほこらがあるわ、それをほこらのほうに行くの。そのほこらの200メートルぐらい手前の道を左に曲がってまっすぐ行くとテティウームの森があるわ、その森をまっすぐ行くと途中で左右に分かれる階段があるわ。そこを右に曲がるの。で、その階段を上った先に森の出口があるわ。出口を出て、右に曲がってまっすぐ行くと、今度は大きな岩があるの。その大きな岩から左にまっすぐ行けばロマンティス城へ着くはずよ」

「え? あー、ちょっと悪りーけど。もう一度言ってくれねーか?」

「もう教えました」

「教えたって言ってもなんだかよくわかんねーんだ」

「そうですか。また教えてほしいのでしたら50リボンいただきますが」

「50リボンか、わかったぜ」


 ズボラは50リボンコインを取り出すと彼女に渡した。


「わかりました。では、またお教えしましょう」


 ふたたび同じ説明をされたがズボラには全くわからなかった。


「んーよくわかんねーなぁ」

「ではもう一度お教えしましょうか? お金はいただきますけど」

「いや、もういいぜ」

「そうですか。では」


 そう言って、その女はすたすたとどこかへと行ってしまった。


「グータラわかったか?」

「えっ? ……なにかの呪文じゃないよね。わかんないよ」

「ナマケはどうだ?」


 ズボラがたずねる以前からナマケは眠そうにしていた。「あーうん」という、その言葉だけ返すのがやっとだった。


「そうだよなぁ。しゃーねー、ほかの人に聞いてみっか」


 今度は暇そうに長椅子に座っているイヌ化の男に話しかけた。


「すいませーん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「あ、なに?」

「ロマンティス城へはここからどうやって行けばいいんだ?」

「ああ城? クロバーの指輪買った? そいつで位置がわかるよ」

「えっ?」


 ズボラは指輪にふれて映像をよく見てみた。すると、地図という文字があることに気がついた。


「地図ってやつか?」

「そう、それでわかるよ」

「そうか、ありがとうだぜ」


 ズボラはさっそく地図を確認してみた。すると、この国一帯の地図が出てきた。


「なるほど、俺たちがいまいる場所はプレズフィールだから、ん? この光っている点はなんだ? ……そうか、俺がいる場所がこの白い点で表されているんだな」


 ふむふむとうなずきながらズボラはその指輪の可能性に笑みを浮かべた。グータラはよくわからずにぼんやりと彼の行動を眺めていた。


「よーし、じゃあさっそく行ってみっか」


 ズボラは意気揚々と歩き出した。ほかのふたりはそのあとについていこうとしているが、どうにも疲れのようすを見せていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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