29. 英気
しばらくするとグータラが起き出しテーブルのところまで来た。
「酒飲んでたら寝てしまったんだ。腹減ったなぁ」
グータラは椅子に座ると適当に注文して食べ始めた。
「グータラ起きたか。これから姫さまを助けに行くんだって」
「ひめ? ああ、たしか何者かに捕まったとかっていう、あれね」
「ああ、だからその前にここで腹ごしらえしていかねーと、助けらんねーぜ」
「そうだね。でも、俺はあまり気が乗らないなぁ、だってどんなやつがいるかわかんないからさ」
「たしかになぁ、助けるっつってもーなにをどうやってやればいいんだ? 俺にはわかんねーな」
「うん、そうだね。俺たちは誰かを助けるっていうこと自体やらないことだからね」
「まったくその通りだぜ」
そんな会話をしているとナマケが目を覚まして椅子に座った。
「お、ナマケも起きたか」
「あー、うん。よく寝た。それよりおいしそうだね」
「そうなんだ。じつはこれからロマン姫を助けに行くんだって。だから、その前に腹ごしらえをしてるんだぜ」
「あーロマン姫のことだね。でもぼくーそのーあのー、ちょっと用事があるから」
「ああ、助けに行く時間がないってことか」
「うん、そーだね。ぼくは、ちょっとね、そのー例のやつの続きをやらないといけないんだ」
「例のやつか、どんな感じなんだ?」
「いまはー空を飛んでるって感じかな」
「空かぁ、なかなかいいじゃねーか」
ウヒカはそれまで耳を澄まして聞いていたが、我慢が出来なくなり話に割り込んだ。
「例のやつってなに?」
「え? あーまーいやー大したことないんだけどーえーっとそのー……」
「なに? なんなの?」
「まあ、本当に大したことじゃないんだけどーえっと」
「早く言いなさいよ」
「えーっと、あの……夢の続きを」
「あ!?」
そこでズボラが説明するために話に割り込んだ。
「ナマケは夢を見るんだ。で、その続きをするってことだ。そうだよなナマケ」
「あーうん」
グータラはナマケの夢の続きが気になりたずねてきた。
「その夢ってもう結構進んでるんだね。俺が聞いたときは穴を掘ってたって言ってたし」
「あーそうだね。あれからけっこう進んだんだよ」
「また聞かせてくれよ。夢の続きの話」
「うん」
ズボラは自分がナマケから夢の続きの話を聞いたときのことを話し出した。
「俺が聞いたのは、枯れ葉に酒をかけてそのしずくをバッグに入れているとかなんだとか」
「あーそれもうとっくの昔に終わってるよ」
「そうかぁ、あれは楽しかったなぁ。なあ、久しぶりに話してくれよ」
「話って言っても……」
「なんでもいいぜ」
「えーなんでもって言われても―」
「あの話の続きはどうだ。歩いていたら石を見つけたって話」
「いやー、最近見てたのはそんな話じゃないんだよね」
「じゃあ、どんなやつだ?」
「うーんと、川に水を飲みに行く話しなんだ。主人公はカンガルー化の男の人で、とっても普通の人。周りからはフヘンて呼ばれていたんだよ。そんな彼がなんとなく水を飲もうとしたんだ。そしたら水が見当たらない。だから川へ水を飲みに行った」
「いぇーい! 最高だぜ。その話」
ズボラが言いうと続いてグータラが感動のあまり感想を口走る。
「ほんと最高だよ。オチもいいし」
「あーありがとう」
「でも、ひとつだけわからないことがあるんだ」
「んーなに?」
「フヘンは歩いて川に行ったの?」
「歩かない。泳いでいったんだ」
「やっぱり、それならいい話だよ」
渋い顔をしながら横で聞いていたウヒカは「どこが?」とつぶやいた。こうして彼らの話を聞いているのに我慢ができなくなったウヒカは強制的に彼らを連れて行こうと試みた。
「そんな話をしている暇があるんなら、さっさと行くわよ」
そう言って、ナマケの前にある食べ物の皿を取り上げた。それを見たズボラが慌てて彼女を呼び止めた。
「それ、ナマケがまだ食ってる途中だけど、そんな食いかけのが食いてーのか? 注文すればいくらでも出てくるんだぜ。それにしても行こう行こうって言ってる割には食い意地が張ってんだな」
「あ? 張ってないよ。……これ返すよ」
ウヒカは皿に乗った料理で彼らを釣ろうとしたのだ。そのまま外まで出て行くつもりだったが、彼らはそれには引っかからずに次々と食べ物を注文していく。
アクキリムシの炒め物。マッタの素揚げ。オトムシのボイル焼きなどが並べられている。
「しかし、ロマン姫はなんで連れ去られたんだ?」
ズボラはマッタの素揚げを頬張りつつ言った。
「たぶん、こういった料理を作ってもらうためじゃないかな」
グータラはアクキリムシの炒め物を食べながら答えた。
「なるほど、たしかにそうだな。食べたい料理を作ってくれるなら連れ去られるわけだぜ」
「そうだね」
「じゃあ、いまごろはいいもん食ってんだろうなぁ」
「うん、ここにある料理よりももっとおいしいものを食べてるかもね」
「そいつはすげーなぁ! ここにある食いもんでも相当うめーけど、これを超えるのかぁ」
「ロマン姫の作る料理はその辺じゃ食べられない、極上のものなんじゃないかな」
「そうかぁ、なるほどな。だったら連れ去るわけだぜ。俺だって連れ去りてーよ、そんなの」
「俺も」
ウヒカは彼らの会話を無視しながらパレセクに話しかけた。
「パレセクって言ったっけ?」
「お呼びでしょうかウヒカさま」
「この周辺に誰かいるかわかったりできるの?」
「この周辺でございますか? ……はい、飛虫船が一隻だけ海岸に停まっているようです」
「飛虫船があるの?」
「はい、こちらをご覧ください」
室内の空間に周辺の映像が浮かび上がった。そこには蝶の形をした飛虫船が停まっている。
「どのくらい先に停まっているの?」
「はい、約100メートル先に停まっています」
「その中に人はいるの?」
「はい、ふたりほど存在しています」
「ひとりはロマン姫?」
「すみません、そこまではわかりません」
「そうなんだ」
南の海岸に飛虫船が一隻。占い師テンシラムの南の海岸という言葉。店で聞いた蝶の形をした飛虫船が南へ飛んで行ったという話。そのふたつの話を合わせると、ウヒカはあるひとつの事実にたどり着いた。それは間違いなくそこにはロマン姫がいて彼女をさらった人物がいるということ。
そうとわかったら、さっそくそこへ乗り込みに行こうと思い、ウヒカはズボラたちを誘うことにした。
「おい、おまえら、ロマン姫の居場所がわかったからさっそく向かうよ」
料理を食べつつ酒を飲みつつ、ウヒカの言っていることに耳だけは傾けているが誰も立ち上がろうとしない。
「目の前にロマン姫をさらった犯人がいるんだよ」
ウヒカの声にズボラが食べるのをいったんやめてたずねた。
「行くのか? 俺たちここで待ってるからウヒカが行って来ればいいんじゃねーか」
「あたいひとりだけで行っても意味ないんだよ。あっちはどんなやつかわからないんだ」
「なんだ、攻撃でもしてくるってのか? またまたご冗談を」
「そうなるかもしれないからおまえらの力が必要なんだよ」
「そのポケットにしまってある杖で倒せばいいじゃねーか」
「ああ、この魔法のステッキね。これは一応魔法が出るようにはなってるけど、一回一回呪文を唱えながらダンスをしないといけないんだよ」
「じゃあ、それをやればいいじゃねーか」
「だから、その呪文を唱えている間に攻撃されたら終わりなの」
「んーそもそもだぜ。ロマン姫を助け出せればいいわけなんだよな。だったら、戦わなくてもいいじゃねーか」
「あ?」
「ほら、おまえのお得意のものがあるじゃねーか」
「カードか?」
「ああ」
「ロマン姫をさらったやつがあたいとカードバトルをやると思うか?」
「うん」
「やんないって」
「やってみなきゃわかんねーじゃねーか」
「じゃあ、おまえら一緒に来てくれるのか? だったら試してみてもいい」
「え? 俺たちも行くのか?」
「そうだよ。取引したろ? 分け前の話だよ。もし来ないなら分け前は無しってことになるけどいいの?」
「俺たちが8割だっけ?」
「ちがうちがう。あたいが8割」
「ああそうだったっけ。そうかぁ、しょーがねーなぁ」
ズボラは立ち上がった。
「そんなに言うんならついていってやるよ。ただし俺たちなにもできねーぜ」
「べつに期待なんかしてない」
「だったらなんで誘うんだよ」
「念のためよ」
「まあいいや、とりあえず行こうぜ」
それから、ズボラはグータラとナマケを誘い船を降りることにした。例のようにグータラとナマケは駄々をこねたが、どうしてもというウヒカの強い想い押されてしぶしぶと引き受けることにした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




