27. 先手
ズボラたちが乗ってきた飛虫船までたどり着くと、ウヒカはその飛虫船を眺めながらたずねた。
「これがおまえらの乗ってきた飛虫船か?」
「ああそうだぜ。ゾウゴロウってんだ」
「ふうん、あたいは飛虫船をレンタルしたことないからな、なかなか立派なもんじゃん」
「中はもっとすごいぜ」
そう言ってから、ズボラはぼーっと立っていた。ほかの者は地面に寝転がりそのまま眠り出す。ウヒカは早く飛虫船の中に乗りたいため彼を急かした。
「おい、早く乗ろうよ。なにぼーっとしてるんだよ」
「あれぇ、おっかしーなぁ、こうやって立ってれば自動的に中に入れてもらえるはずなんだけどなぁ」
「はあ? どっかにドアがあってそこから入るんじゃないのか?」
「いや、ちがうなぁ、あの目のところから入れてもらえるんだぜ」
「目って言ってもあんな小さなところから入れるわけないだろ」
「んー」
ズボラは腕組みをしてどうやって入ったのかを思い返してみた。
「もうすっかり夜になってるんだよ。あたいはとりあえず休みたいんだよ」
「んー、しょーがねーなぁ、わかんねーから座って待ってようぜ」
「えっ? どうしてそうなるんだよ。ほかの奴は知らないのか? グータラにナマケは?」
「そうか、じゃあ聞いてみっか」
ズボラは気持ちよさそうに眠っているふたりを起こした。
「なあ、グータラにナマケ。この中に入る方法ってわかるか?」
すると、まずグータラが起きた。眠い目をこすり、まぶしそうに目の前の飛虫船を眺めた。
「中に入る方法? さあ覚えてない」
「そうか、じゃああとはナマケだな」
それからしばらくナマケが目を覚ますまで待っていたが、いっこうに起きる気配がなかったため、例のやり方で起こすことにした。
ズボラは杖を取り出してナマケの手にふれさせた。ナマケは目を覚まし辺りを確認すると、ふたたび眠ろうとした。それをズボラは止めた。
「ナマケ、ここに入る方法わかるか?」
「ん、んーん、なに?」
「飛虫船の中に入る方法」
「あー、たしかー。んーなんだったっけ。えーっと……」
ウヒカはこいつもかと呆れたようにため息をついた。
「えーっと、あーんーえーんーえーなん……えっとねー、ああ、ぼくたちを乗せてって言ったんだ」
その瞬間、目の部分が光ると三人は飛虫船の中に入った。
「おう、さすがだぜ。そうだった。たしかナマケがそう言ったら入ったんだったな」
「うん、やっと思い出したよ」
「なあ、ウヒカ入れただろ?」
返事がなかった。ズボラは辺りを見回したが彼女の姿はなかった。
「あれぇ、どこ行ったんだ? 誰か知らねーか?」
グータラとナマケは首を横に振った。
「おかえりなさいませ」
船内からパレセクの声が響いてきた。
「おう、その声はパレちゃんじゃねーか。久しぶりだなぁ」
「お久しぶりです」
「なあ、パレちゃん」
「なんですか?」
「ウヒカが乗ってきたと思ったんだけど。どこにいるかわかるか?」
「ウヒカさまですか。それは仲間ですか?」
「ああ、そんなところだぜ」
「彼女なら外にいます」
「外か、なんだそうだったのか。ならいいか」
「彼女も中に入れますか?」
「まあ、そのつもりだったけど、どっちでもいいや」
「それでは、中に入れたいと思います」
ウヒカは船内に入ってきた。入るなりズボラを見つけると険しい表情で怒り出した。
「なんであたいを入れないんだよ? さては逃げるつもりだったんでしょ」
「それはちがいます」
ズボラの代わりにパレセクが説明をしてきた。
「ん? 誰だ? いまの声」
「わたしはこの乗り物の声を担当しております。パレセクと申します。どうぞお見知りおきを」
「ぱれせく?」
「はい、先ほどウヒカさまを入れなかったのはわたしがそうしたからです。料金を支払ったズボラさまの仲間、つまりグータラさま、ナマケさまは仲間同士ですので入ることができます。ですが、ウヒカさまは仲間かどうかわかりませんでしたので、強制的に外させていただきました」
「なんだよそれ、仲間同士じゃないと入れないのか」
「はい、安全のためにそうプログラムされています」
「はいはい、わかりました。しかし……船内はこうなってるのかぁ」
「はい、衣食住できますので不自由なく生活することができます」
「へぇ、あたいもレンタルしようかなぁ、いくらなんだ? レンタル料は?」
「一日100リボンです」
「100リボンか、結構お得だね」
「誰にでも乗っていただけるように、その値段で提供していますので」
辺りを見るとズボラたちはテーブルにつき酒を飲み始めていた。
「おい、おまえら。そんなもんいつ買ったんだ?」
ウヒカは彼らが飲み食いしているのを見て近寄った。
「あ? 全部タダなんだぜ」
ズボラはミズゼミ焼きを頬張りながら答えた。
「マジか?」
驚きを隠せないウヒカにパレセクはその説明をした。
「はい、もちろん。これはサービスでございます。レンタルした方ができるだけ快適に過ごせるようにご用意されています」
「じゃあ、あたいもなにか飲もうかなぁ」
「なにになさいましょうか?」
「そうだね。じゃあみんなと同じものを」
「かしこまりました」
テーブルに酒とミズゼミ焼きが置かれた。そうして、しばらく経ち、ウヒカはあることに気がついた。
「そういえばレンタル料一日100リボンだよな。ってことはもう金が払えないから、もうこれで移動できないんだよな。どっかで稼いでこないと」
その問題に対してパレセクが答えた。
「まだ、稼働は可能でございます。飛虫船に乗っている間だけ使用料が発生します。ですので、ズボラさま一行が乗られてから3時間14分45秒ほどしかたっておりません。つまり、あと約20時間45分ほど稼働できます」
「ああそうなんだ。乗っていなければ時間は進まないってことね」
「はい」
「それはそうとちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「ここから南の海岸にはどのくらいで着けるの?」
「南の海岸は、ここから約5000キロメートル離れたところにあります。ですので、3時間ほどで到着が可能です」
「それなら、行って帰って来れるわね」
「はい」
「じゃあ、早速で悪いんだけど。南の海岸に行ってもらえる?」
「かしこまりました」
ゾウゴロウは南の海岸に目標を定めて飛び始めた。
「なんだ? もう出発するのか?」
ズボラは窓からの景色を見てたずねた。
「うん、早いほうがいいだろ? あたいには時間がないんだよ」
「じかん? 時間なんてたくさんあるじゃねーか」
「どこに? 早くロマン姫を見つけて助け出さないと、ほかの奴に先を越されたり、南の海岸に着いたけどもうそこにはいないってことになりかねないんだよ」
「考えすぎじゃねーのか? 物事はもっと簡単だぜ。なにも考えなくてもなんとかなる」
「そんなわけないでしょ。先手を打っていかないと取られるんだよ」
「べつにいいじゃねーかぁ、取り返せば」
「……わかった。もし、ロマン姫の救出を誰かに越されたら、そいつから取り返してくれ」
「ああわかった。ロマン姫がまた誰かにさらわれたら取り返しに行けばいいんだな」
「ん? うん」
「しかし、なんだってそんなに急ぐんだ? もっとゆっくり行こうぜ」
「だからさっき言ったじゃん。早くしないと誰かに」
「だから、それを待ってて。そうなったところを取り返すんじゃねーのか?」
「……ああもういい。あたいはもう疲れたから寝る」
四の五のを言わずにウヒカはどこかで眠りに着こうとした。
「あちらに寝室がございます。どうぞお使いください」
パレセクはウヒカを寝室へと招いた。
こうして、一行は南の海岸に着くまでそれぞれが思い思いに過ごしたのである。
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