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26. 南

「あら、もうそんな時間かしら。残念ですけど時間切れですわ。次のお客さまがお見えになりましたので」

「おわり? 勝負はどうするんだよ」

「ですから、これでおしまいでございます。では、鑑定料のほうを……」


 テンシラムは手のひらを差し出してお金を要求してきた。ウヒカはそれをどうしても断りたかったが、時間制限という魔物に抗うことはできず敗北を認めた。


「わかった」


 ウヒカはテンシラムに4万7000リボンコインを渡した。それから、ほかの者を叩き起こして店をあとにした。


「金がない……」


 ウヒカは無一文になりどうにかして資金を手に入れようと考えていた。


「やっといろいろと終わったことだし、さっさと帰っかぁ」


 ズボラはいつものごとく、寝ているグータラとナマケを引きずりながら言った。


「おい、金を全部取られたんだ。どっかで稼がないと」

「なんだ、負けたのかぁ、しょーがねーなぁ、じゃあ俺たちは家で待ってるから、ロマン姫が見つかったら教えてくれ」

「おまえらも一緒に来るんだよ」

「えー、俺は疲れちまったぜ。早く帰ってゆっくりしてーんだ」

「頼むからもうすこし付き合ってくれよ。どうやって金を得るか模索中なんだから」

「そんなことかぁ、じゃあギャンブルやればいいじゃねーか」

「軍資金がないとできないんだよ」

「金か。なにか売ればいいじゃねーか」

「クロバーの指輪は売れない。あたいの魔法のステッキも最後の一本だから売れない。だから売れるものがない。おまえらなにか持ってないのか? 売れるもの」

「ねーなぁ、その指輪に入っているもの全部だ。俺のバッグには酒の入った筒だけだぜ。それに杖」

「おまえら、それだけでロマン姫を見つけて助け出そうとしていたのか?」

「ああ、そうだったが、途中からなんだか面倒くさくなってきちまって、とりあえず酒場に入ったらウヒカがギャンブルをやってたんだ」

「いままでどうやって生活してたんだ? 金はどうやって手に入れてたんだ?」

「俺は、アクキリムシを売ったりしてたな、一匹1リボンで売れるんだぜ。知ってたか?」

「知っててもやるかよ。ほかのやつらは?」

「グータラは……わかんねーなぁ、ナマケは……いや、わかねぇ、起こして直接聞いてみるか」


 テンシラムのところからずっと眠っているグータラとナマケだったが、近くの店から流れてくるおいしそうなにおいに目を覚ました。


「やっと目が覚めたか。さっそくだけどグータラとナマケに聞きたいことがあるんだ」

「ん? なんかうまそうなにおいがするけど……」


 グータラはそちらへと歩き出した。ナマケもそれにつられて歩き出す。ズボラはそれを止めもせずにあとを追った


「そうだなぁ、じゃあとりあえずそこの店に入ってみっか」


 ウヒカはその流れを止めようと彼らの前に立ちはだかる。


「ちょっと待てー、なんでそうなるんだよ。金がないのになんで店に入るんだよ」


 ウヒカの言動にズボラとグータラは考え込んだ。彼女がなにを言っているのか理解するのに数十分を費やしたが、結局わからなかった。


「なんでって言われてもなぁ、俺たちはうまそうなにおいがするからその店に入るんだぜ。それのなにがいけねーんだ?」

「入ってどうするの? 金は? なにか頼むでしょ?」

「まあまあ、とりあえず入ってみようぜ」


 こうして、なかば強引においしそうなにおいのする店に入って行った。


 客はほどよくいて食事をしていた。ズボラたちは適当に開いている席に座る。


「うーん、なに食うかなぁ」


 ズボラはメニュー表を開きながら食べ物を吟味していた。グータラも同じようメニュー表をのぞきみる。ナマケはおいしそうなにおいに釣られながら、そのまま眠ってしまった。


「そんなもん見ても、買えないんだから意味ないだろう」


 ウヒカはうるさくしつこく言った。早くみんながあきらめてここを離れるようにと、わざとまくし立てる。しかし、それもむなしく、舌なめずりをしながらメニュー表を見てた。


「……たんですよ」と来ている客から話し声が聞こえてきた。


 フクロウ化の男たちが輪になって話し込んでいる。


「わたしがね、そうだなあー、あれは夜の12時回ったころだったかなぁ、なーんか寝付けないんだ。部屋は涼しいのにやたら汗ばむんだよ。あんまり寝付けないもんだからね、外に出たんだ。そしたら涼しい風がひゅーっと吹いてきて、あー気持ちいいなぁって涼んでたらさ。足元が光るんだよ。なーんだと思ってよく見てみたらその光はどうやら空から降ってきているみたいなんだ。それで、ゆーっくりと空を見てみると、そこには……たぶん蝶の形だったかなぁ、飛虫船が浮かんでいて、たすけてーって声が聴こえてきたんだ。あれはなーんだったかなぁ、少女のようなかわいらしい声だったかなぁ、切羽詰まるような歯切れの悪いなんだかよくわからない声だったよ」


 グータラはその話に耳を傾けた。それは自分が遭遇した飛虫船を見たときと酷似していたからだ。


「それでどうしたんだ?」

「そのまま飛虫船はどこかに飛んでいっちゃったんだよ。一瞬夢でも見ていたんじゃないかって錯覚に陥りそうになったけどね、いざ我に返ってみると、いやー夜の空だよ。涼むために外に出てきて飛虫船を目撃してみなよ。もう眠気が吹っ飛んでしまってね、朝まで空を見上げていたんだよ」

「その飛虫船はどっちに向かってたんだ?」

「あれはー南のほうだったかなぁ、いまはちょうどログメモルトが丘に咲き、虫があちこちと飛び回る季節だから間違いないよ。それで、朝になってみるとロマン姫が誘拐されたって町中が騒いでるじゃない。こーれは、なにかあるなって思ったんだよ」

「もし、その飛虫船にロマン姫が乗っていたら間違いなく、ロマン姫を誘拐した犯人に違いないな」

「そうだねぇ」


 グータラはロマン姫がさらわれていった方角は南だと確信した。そう思い立つとズボラたちの説得を試みることにした。


「なあズボラ。俺わかったよ、ロマン姫がいる方角が」

「ほんとか!? ほんとにほんとか?」

「うん、南だよ。南へ行ったんだ」

「そうか、わかったぜ。じゃあさっそく行ってみっか」


 ズボラは椅子から立ち上がり店を出て行こうとした。その急な切り替わりに対応できず、ウヒカは「ちょっとまてー」と声をかけるが、彼らはそそくさと店を出て行った。


「どこに行くんだよ? なんのために店に入ったんだよ?」


 彼らが向かおうとしている、南という方角はさきほどテンシラムに占ってもらった方角と一致していた。ロマン姫が捕らえられている場所は南に間違いはなかった。だが、肝心の詳しい場所は海岸しか手掛かりがない。


「ん? 南に行くに決まってるじゃねーかぁ」

「南のどこに行くんだよ」

「それはわかんねーけど。とりあえず南にいけばいいんだぜ」

「まあ、確かに占いではそうなってるけど」

「グータラが言ったんだぜ。南だって。じゃあそれに賭けるしかねーだろ。なあグータラ」


 グータラはこくりとうなずくと説明をしてきた。


「うん、さっきの店のお客さんが言ってたんだ。飛虫船が南に向かったって。俺の見た飛虫船は夜だったから。たぶん同じ飛虫船だよ」

「うんうん、そうだぜ。やっぱり南しかねーんだ」


 ウヒカはこの先どうなるかわからなくなり彼らについていくことだけにした。しかし、彼らのあとについていくということは、目的地の場所に着くまでに一体どれだけの時間がかかることか、いまのウヒカには知る由もなかった。


「南かぁ……とりあえず、俺たちが乗ってきた飛虫船までいこうぜ」

「うん」


 ウヒカは聞き捨てならない言葉を拾い、そのわけをたずねた。


「おまえら飛虫船に乗ってきたのか?」

「ああ、結構便利だぜ」

「金はどうしたんだ?」

「ん? 金はあったんだぜ」

「飛虫船は金がないと乗れないだろ?」

「あれぇ、そうだったかなぁ」

「そうだよ。せっかくの飛虫船。それに乗って南へ向かえばすぐに着くかも」

「だから、その飛虫船に乗ってこれからそこへ行こうとしているんだぜ」

「金がないんじゃ、飛ばないだろ?」

「まあ、とりあえず行ってみればいいじゃねーか」


 はあ……とウヒカはため息をついた。それから、そこまでの道は散々なものだった。おいしそうなにおいのする店には確実に寄ろうとしたり。ナマケは途中で消えたり。疲れたと言ってその場で三人とも眠ってしまったり。ただでさえ歩くのに時間がかかるため、城下町の外に出るまでにえらく時間がかかったのは言うまでもない。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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