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23. 占い館

 ウヒカの後ろには、ナマケを真ん中にぶら下げて担いで歩くズボラとグータラがいた。占い師の館に行く道中でズボラはウヒカに話しかけた。


「なあ、金が欲しいんならさぁ、さっきみたいにカードで儲ければいいじゃねーか」

「わかってないな。いまは運が向いてないんだよ。運の底値ってやつ」

「なんだ、運を使っちまったのか。しょーがねーなぁ」


 ズボラはそんな話はどうでもよくなり、近くの店から漂ってくるおいしそうなにおいにつられていた。


「なあ、ウヒカ。そこの店に入ってみようぜ」


 ズボラが入りたそうにしているその店は、トケロギ料理の店だった。


「うーん、確かにうまそうなにおい。だが、だめだ。一刻も早く占い師に会いに行かなきゃならないんだよ」

「そうか、じゃあ俺たちはこの店で待ってるから、終わったらここに来てくれ」

「おい、ちがうだろ。そうじゃない。一緒に行くの」

「なんで付き添わねーといけねーんだ?」

「え? そりゃあ、都合だよ。こっちの」

「まあまあ、いーじゃねーか。とりあえずここで腹ごしらえしていこうぜ。それにおごってくれるって言っただろう」

「言ったよ。言ったけどさ。早くない? 歩き始めて10分くらいしか経ってないじゃん」

「かんけーねーよ。なあ、グータラ」


 グータラは眠そうにほぼ引きずられながら歩いていた。ただ歩くだけでも時間がかかるのに、ナマケを担いでいるためより一層遅くなるのだ。店の前を通過するのにとてもゆっくりなため、その店の誘惑から逃れる時間がないのだ。


「うん、そうだね。ここに入って、ここの料理を食べてから占いの人に会いに行けばいいんだよ」

「そうだよな。やっぱりそうだよ。俺たちはここに入んなきゃならねーんだ」


 ズボラとグータラはウヒカを純粋な目で見つめた。ウヒカは彼らの情熱のようなものに負けて、しぶしぶとうなずいた。


「わかったよ。言い出しっぺはあたいだからな。おごってやるよ」


 店の中は混雑していた。どこの店も同じように、テーブルの席に着けばそこですべてのやり取りができる仕組みになっている。


 ナマケをのぞき三人は開いているテーブルの席に座った。


「じゃあ、食べたいものを選んでいけ、あたいがそれを選んでいくから」


 メニュー表を見ながらズボラとグータラはそれに指をさしていった。ウヒカは従うように次々と料理の映像を押していく。そのたびに、クロバーの指輪に入れてある5万リボンが減っていく。


「まあ、こんなもんでいいだろ」


 ズボラはそう言ってテーブルに並べられている料理を眺めた。グータラは舌なめずりをしながらさっそく食べ始める。


 ウヒカは残高を確認した。4万7000リボンの表示がされている。それを見てはため息をつき。料理に手を伸ばした。


「……うーん、おいしそうなにおいがするね」


 ナマケは起き出して椅子に座ると、さっそく食べ始めた。


「おっ、やっと起きたのかナマケ」


 ズボラはトケロギの炒め物を頬張りながら言う。ナマケはまだぼやっとした頭で返答した。


「うん」

「じゃんじゃん食っていいぜ。なんたってウヒカのおごりだからよ」

「ふーん、そうなんだー」


 ウヒカはそんな会話を聞き流しながら、こいつらが早く満足してくれるように願った。


「なんだぁ、おまえらこんなところにいたのか? 奇遇だな」


 見るとそこにはセカチたちが立っていた。セカチは彼らが食べているものを眺めながら言った。


「おまえらが店で食事できるほど裕福になっているとはな」

「いや、ウヒカのおごりだぜ」

「うひか?」


 セカチは一緒にいるウヒカに目を留めた。ムスッとした表情をした彼女は彼らを視線を送る。


「ああ、ミエッチとカードバトルをやっていた女か。なんだ、一緒につるんでるのか?」

「ああそうだぜ。これからロマン姫を助けに行くために一緒にいるんだぜ」

「ふうんそうかい。じゃあ、ロマン姫がどこに連れ去られたか知っているのか?」

「いや、これからそれを捜そうっていう話だぜ」

「まったく、相変わらずのんきだなぁ、俺たちはもうその情報を手に入れた」

「そうか。だったら教えてくれ」

「おいおい、そんなたやすくは教えねぇよ」

「なんだ教えてくれねーのか。しょーがねーなぁ」

「ま、せいぜい頑張るんだな。俺たちのほうがさきにロマン姫を助けているだろうが」

「そうか、まあ、さっさと助け出してくれ。俺たちはもうのんびりしてーからさ」

「ああすぐに助け出すさ。ピタリ、これから俺たちが向かう場所へは何時ぐらいに着く予定だ?」


 ピタリは眼鏡をクイっとあげて答えた。


「4時間45分32秒でございます」

「そうか、わかった」


 セカチは勝ち誇ったような笑みを浮かべると、ズボラたちを眺めながら言った。


「ま、そういうことだ。俺たちはこれでも忙しいんでね、この辺で」


 店を出ようとして振り返るとセイカクがついてきていないのに気づき、セカチは彼を呼んだ。


「おーいセイカク、さっさと行くぞ」

「うん、ちょっと待ってて、椅子がテーブルから出てたから」


 セイカクははみ出た椅子をテーブルにもどした。それから、セカチたちは例の場所へと向かうのだった。

 

「なんなんだあいつらは?」


 彼らがいなくなりウヒカはズボラにたずねた。


「ああ、知り合いだぜ」

「どんな関係なの?」

「関係って言ってもな―。なあ、グータラどんな関係だっけ?」


 グータラは酒を飲みながら答えた。


「さあ、なんか、ライバル?」

「そうだよ。ライバルだぜ」


 ウヒカはジト目をしながら聞き返した。


「ライバルなの?」

「ああ、そうだぜ」

「競争しているようには見えないんだけど」

「べつに俺たちは競争しているつもりはねーぜ」

「えっ? じゃあなんでライバルなの?」

「なんでって言われてもなぁ……なあナマケ、なんでライバルなんだっけ?」


 ナマケはトケロギのあんかけを食べながら答えた。


「あーん-そ、そうだねー、んーなんて言うのか、そのーいわゆる、そのーあのーえー、天敵ィー相手かなぁ」


 ウヒカはそれに驚いて食べているトケロギの姿焼きを落とした。


「えっ! て、てんてき? 天敵って……どっちが?」

「えーっと、んーどっちってんー、そのーなんだろう。天敵だからねー、どっちっていうのは、まあ、まーあ、とーくにないんだけど。そのー強いていうなら。あっち」

「あっ! そうだよ。こんなところで食べている場合じゃないよ。あいつらもロマン姫を狙ってるんだよね。だったらやばいじゃん!」


 ウヒカは立ち上がり彼らを急かした。


「おい、早く占い師のところへ行くよ」


 ズボラ、グータラ、ナマケはまったく動こうとはしなかった。みなそれぞれの食事をしている。


「ロマン姫を助けて100万リボンを手に入れるんだろ?」


 ウヒカの熱意にズボラはその熱を冷ますように答えた。


「そうだけどさぁ、ロマン姫を助けたところで100万リボンもらってもさぁ、ウヒカに9割だっけ? 取り分は。俺たちが10万リボンを分けると……3万ぐらいだろ? これじゃあなぁ」

「……わかったよ、8割にしてやる。どうだ?」

「8わり? だと……えーっと、だめだ計算できねー。いくらぐらいになるんだ? 俺たちの取り分は?」

「だいだい6万5000ぐらいだ。ひとり頭。どうだ?」

「6万かぁ、悪くねーなぁ」

「じゃあ決まりだな」

「わかった、それでいこうぜ」


 そうして、ほかのふたりもなんだかんだと理由をつけて店から出したのだった。


 占いの館に行くために、ウヒカはほかの3人がちゃんとついてきているかときどき振り返り確認をとる。が、歩調があわなく、ぐんぐんと離れていってしまう。


「おーい、早くしてよ」


 ウヒカは待っていられずに彼らを呼んだ。先頭にいるズボラはのんきに言葉を返した。


「あーわりーねぇ、俺たちこれでも速く歩いてんだぜ」

「速く歩いているって言ってるけどさ、まだ、さっきの店の敷地内じゃない」

「まあまあ、ゆっくりと行こうぜ。旅は道連れって言うじゃねーか」

「なんでそんな言葉を知ってんだよ」

「とにかく、早く行きたいんだったら先にいっててくれ。あとから追いつくから」

「うーん、おまえら本当に占いの館まで来てくれるんだろうな」

「ああ、行くから安心しろ」

「……じゃあ、わかったよ。しょうがないな一緒に行くよ」

「なんだ、そうか。まあ、どっちでもいいぜ」


 ウヒカはなにかあっては面倒だと思い、彼らを見張りながら一緒についていくことにした。


 道中グータラとナマケは眠くなり、その場で横になろうとした。ウヒカはそれを無理やりとめてなかば強引に押していった。ふたりは立ったまま眠りながら引きずられていく。


 そうこうしているうちにようやく占いの館の前にたどり着いた。


 看板には『占い館テンシラム』という名前がついていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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