22. 天地
ウヒカは改めて自分の手に入れた家を眺めた。前の家よりははるかに大きかった。それを見て思わず笑みがこぼれる。
うれしさのあまりウヒカはダンスするように家の周りを駆け巡った。
「ひひひ、手に入れたわ二階建ての大きい家。あたいの好きなベランダのある家。あそこから見える景色はどんな感じだろう。目に映る風景はどんな感じだろう。きっと、すばらしい光景が待っているはずだわ」
中に入り、部屋と言う部屋をあちこち見回りながらベランダを目指す。
「このガランとしている部屋も、これから詰め込む夢のために空っぽなんだわ。ここはキッチン、ここは寝室、どこを見てもなにもない始まりの部屋。そう、そしてこの階段を上がれば広い部屋。大きな窓を開けて、ベランダに躍り出るの、そこにあるのは求めていた以上のすばらしい光景。この家はあたいのものよ。ひひひ」
やわらかく暖かなやさしい風が吹き、ウヒカは自然の空気を胸いっぱいと吸い、満足した。
「ここにベッドおいてそれからー、あそこにソファ……ひひひ、笑いが止まらないわ」
それから、ウヒカは部屋になにを置こうか決めかねていると。しばらくして玄関ドアを誰かが叩いてきた。それは、どこか急いでいるような叩き方だった。
「はい、どちらさま」とウヒカは出ると、ニワトリ化の女が立っていた。
「すみませんが、あなたがウヒカさまでよろしいでしょうか?」
「うん、あたいだけど」
「わたくしは取り立て代行人のシツコッコという者です」
「とりたて?」
「はい、先ほどミエッチさまがうちにお見えになりましてね、ウヒカさまにこの家をお与えになったとか。それでですね、その借金のほうも肩代わりしてもらったと仰っていました」
「え?」
「はい、ミエッチさまは以前、ユズウさまからこの家を35万リボンで買い取りまして、ええ、そのとき借金を……わたくしはそのユズウさまから取り立てるように仰せつかりまして。これが請求書です」
『ミエッチの家の借金はミエッチからウヒカへ移行』
「そんな」
「ええ、でも、ここの家の持ち主はウヒカさまでございますから、あなたさまが返済のほうをお願いします」
「やっぱり、取り消すわ!」
ウヒカは急いでパネルに記憶されている名前をリセットしに行った。
「あの、無理でございますよ。いくら持ち主でもリセットはできません。なぜなら、譲渡は一度きりということになっておりますので。だから借金はあなたさまから離れません。完全にお支払い終えるまでは」
それに構わずウヒカは名前のリセットをおこなった。しかし、長押し3秒しても名前は消えなかった。押している時間が短かったのかと思い、今度はもっと長く押してみるが名前が消えることはなかった。
「うそ」
借金をして買った家の譲渡は一回までしかできない決まりで、ウヒカは自分の家を借金しないで買ったため、いくらでも譲渡は可能だった。だから、すべて同じだと思い込んでしまったのだ。
「それでですね。今日訪れましたのは、そのお支払いのほうをお願いに上がりました」
シツコッコは透明な紙を広げて、現在の借金額を確認した。
「ミエッチさまからは一度もお支払いいただいておりませんので。35万プラス5万、計40万リボンをお支払いいただくということになります」
「あ!? なんで高くなるの?」
「手数料でございます。ミエッチさまが期日までにお支払いしていなかったのでこういった額になったわけです。ちなみに今回もお支払いいただけない場合は、さらに手数料の上乗せと法的措置を取らざる負えません」
「……わかった払うよ。でも、分割でできないかな」
「分割払いでございますか。もちろんできますよ。月々3回払いから10回払いまで可能でございます。月々何回払いになさいますか?」
「10回払いだったら月々いくらくらいなの?」
「そうですね……」
シツコッコはクロバーの指輪にふれて計算を始めた。
「10回払いですと、月々ちょうど5万リボンになります」
「ご、5万!?」
「はい、お支払い期間が長くなれば長くなるほどお支払いする料金の額は上がっていきますので」
「あの、もっと期間を長くできないな? 20回とか」
「20回払いでございますか? すみませんがそれはできません」
「マジで?」
「ええ、それはいっさい認められません」
「……わかったよ。それで払えばいいんだろ」
「さようでございますか。では、こちらに指をふれてください」
シツコッコは透明な紙を差し出した。ウヒカはそれに指をふれさせた。
「ありがとうございます。では5万リボンをお支払いいただけますか?」
「……うん」
ウヒカは10万リボンコインをシツコッコに渡した。シツコッコはそれを受け取ると、5万リボンコイン返した。
「それでは、また」
シツコッコはそう言って帰って行った。ウヒカはその背中を見送りながら「ミエッチの野郎」とつぶやいた。
ウヒカが家に戻るとズボラがたずねてきた。
「誰が来てたんだ?」
「借金取りだよ」
「しゃっきん? そうか」
「5万取られた。ミエッチの野郎ここを簡単に手放したのは借金をしていたからだな。くそ」
「べつにいいじゃねーか、ここをもらったんだし」
「タダかと思ったんだよ」
「まあまあ、ウヒカが払えばいい話だろ」
「次の月までに5万用意しなきゃならない。一応残り5万あるが、これは生活費だし」
「なんだあるのか、じゃあ簡単じゃねーか」
「だからそれには使えないんだって」
はあ、とため息をウヒカはついた。それからガランとした部屋に寝そべっているズボラたちを眺めながら言った。
「おまえら、ロマン姫を助け出すことを忘れたわけじゃないよな」
ズボラとグータラはお互いに顔を見合わせた。
「なんだ、まだ助けに行こうとしているのか? 俺たちはなんだか面倒くさくなっちまったぜ。なあ、グータラ」
「うん、そうだね」
「こうやって家も手に入れたんだし、べつに良くねーか」
イライラをつのらせながら彼らの話を聞いたウヒカは、このままでは自分の金がなくなってしまうと思い、彼らをむりやりどうにかしようとたくらんだ。
「だめだよ。どうしてもロマン姫を助けに行くんだよ」
「でも、どこにいるのかわかんねーじゃねーか」
「だから、当初予定していた占い師に聞きに行こうとしてるんじゃないか」
「ああ、そうだったっけ? じゃあ聞いてきてくれ。その占い師ってやつに」
「おまえらも一緒に行くんだよ」
「えっ? 俺たち家で待ってていいって言ってなかったか?」
「なんでそれは覚えてんだよ。いいから行くよ」
「いやあ、ただ行くのもなぁ、なんかくれたら行ってやってもいいぜ」
「くれるもんなんかないよ。……わかった。食事をおごってやるよ。その代わりクロバーの指輪はあたいが預かる。どうだ?」
「あ? なんか食わせてくれるのか? じゃあ行くか。指輪はウヒカが持ってていいぜ」
こうして、ロマン姫の居場所を知るために四人は占い師に会いに行くことになったのである。
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