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21. 決着

「お、オソラ。ご、誤解なんだ。これは……」


 オソラはミエッチをにらみつけながら彼の目の前に来た。


「あたしはこの人とキスしたわ」


 それから彼の頬を思い切りひっぱたいた。


「あなたって最低だわ! もう、あたしの目の前に二度とあらわれないで!」


 そして、近くにいたコワチャンに向き直り言った。


「ごめんなさい。あたし……ミエッチに彼女がいるなんて知らなかったの。いないって言ってたから、本当にごめんなさい」


 コワチャンは涙を浮かべながら、そして震えながら小刻みにうなずいた。それを見るとどこかほっとしたように彼女は去っていった。


「なんだ二股だったのかぁ、しょーがねーなぁ」


 ズボラはそう言って、困り笑いをしながらミエッチを眺めた。


「まったく、どうしようもないね。コワチャン、あんたも大変だね。でも、勝負は勝負よ」


 ウヒカは哀れみもかけずに話をつづけた。


「違和感その3」

「まだあんのかよ」


 そう突っ込みながらミエッチは頬の痛みと胸の痛みをこらえる。


「三つって言ったでしょ」

「なんだよ」

「ナマケになにをしたの?」

「ああ? なにもしてねーよ」

「ナマケがあたいのカードをのぞき、そのカードを覚えさせてどこにどのマークのカードがあるか合図を送ってたんじゃないの? その合図で、一番右のカードに倒れろとか、真ん中のカードに倒れろとかって指示を出してたんじゃないの?」

「出してねーし、指示もしてねーよ。証拠でもあんのかよ。俺がそいつになにかやれって言ったりした証拠がよ」


 ウヒカはナマケにたずねようとしても、ナマケは寝ているため本人に聞くことはできない。


「あーそう言えば、ナマケに命令していたな。なんか知らねーけど」


 ズボラはふと思い出したことを口にした。ウヒカはその詳細を聞き出そうとズボラにたずねた。


「なにを命令してたの? ミエッチは?」

「えーっと……たしかー、芸をしろだとか、人前で芸のひとつもできないとまずいぞ、とか、えっとあとなんだっけなぁ、あ、そうそう、盗んで来いって言ってたぜ」


「なんで覚えてんだよ、それに盗んで来いなんて言ってねーし」とミエッチは小声で口走る。


「それは本当なの?」

「ああ、間違いねーぜ。証人もいる。なあグータラ」


 ズボラに振られてグータラは「うん」と言ってうなずいた。


「やっぱり」


 ウヒカはミエッチをねめつける。ミエッチはくだらないと言わんばかりに反論した。


「はあ……ばかか。俺はたしかにナマケに芸をやれとは言った。だが、カードを選んで倒れろなんて命令はしてない。そいつが勝手に眠って倒れただけだろ。それに、盗んで来いって言ったのはズボラたちにだ」


 そこで観客からは「ええっ?」というざわめきがちらほらと聴こえてきた。


「ちがう、そういう意味じゃない。盗めってのは言葉のあやってやつだ。本当に盗めなんて言うわけないだろ」

「そいつはちがうな」


 ミエッチの言っていることを否定しながら、ハイエナ化の男が堂々とあらわれた。ミエッチは彼を確認すると「おまえは」と思わず口走る。


「俺が売っているオウゴ焼きを盗みやがたんだ。正確には、そこにいるパンダ化の男とコアラ化の男だったがな。問い詰めたらミエッチに行きついた。あんときは世話んなったな。なあミエッチちゃん」


 ハイエナ化の男の意見に言い逃れのできなくなったミエッチは、悔しそうにただ下を向いた。


 するとズボラが能天気に言った。


「そうそう、俺は実際に盗んじまったぜ、オウゴ焼きを。あれはうまかったなぁ。なあ、グータラ」

「うん」


 なにを言っても逆手に取られてしまうと思ったミエッチは、この場を切り抜けるためにウヒカの出方を待つことにした。


 いざこざをまとめるようにウヒカは言った。


「いまはあんたの奴隷。その奴隷はご主人さまには絶対に従わないといけない。だから、ナマケはあんたの命令を忠実に実行した。ちがう?」

「……わかった。じゃあどうしたいんだよ。また最初からやり直すか?」

「そう、やり直すの。けど、そっちはそっちでいまのイカサマをやっていいわよ。その代わりこっちで用意したカードを使ってもらうけど。それでどう?」

「ああ、それでいいぜ。思う存分使ってやるぜ。イカサマをな」

「それじゃあ……このカードを使って」


 ウヒカはミエッチに三枚のカードを渡した。ミエッチはそのカードのマークを見た瞬間に凍り付いた。カードについていたマークは三枚ともシカクだったのだ。


「なんだこれは!?」

「カードよ」

「マークが全部一緒じゃねーか。こんなの使えるかよ」

「さっき言ったわよね。こっちで用意したカードを使うって」

「言ったが。……これじゃあ」


 ウヒカは観客に向けて同意を求めた。


「みんな聞いた? ここにいるミエッチはさっき約束したことをもう破ろうとしているわ。そんなこと通じると思う? あたいは思わないわ。みんなはどう?」


 すると「ミエッチ、男を見せろよ」とか「彼女の言うとおりだ」などの声が飛んできた。


 ミエッチはその声に反抗する気もなく「わかったよ」としぶしぶあきらめた。


「じゃあ、やるわよ。仕切り直しのカードバトルを」


 お互いがカードを切っていくが、ミエッチはカードを切っても無駄だと思い、二、三回切っただけでやめた。


 ふたりがそれぞれのカードを並べ、その中のひとつのカードに手を乗せる。


『せーの』


 ウヒカとミエッチは同時にカードをめくった。


 ミエッチは当然シカク。ウヒカのカードはサンカクだった。それによりウヒカ勝利をおさめる。


「えっ!? おい、そのカードぜんぶ見せろ」


 ミエッチは納得いかずウヒカの前に並べてある残りのカードをめくった。


「なんだこれは?」


 そこには三枚ともサンカクのマークがついているカードがあった。


「イカサマじゃねーか、こんなの」

「だから言ったでしょ、あんたのほうもイカサマを使っていいって」

「だめだだめだ。こんなの認めねぇ、これこそノーカンだろうが」

「ひひひ、ミエッチそれは通じないわ。さっきあんたは自分の口から言ったんだよ。『わかったよ』って。それはすべてのイカサマを認めたのと一緒。ここにいる全員、あんたがイカサマを認めたことを聞いているわ。これでしらを切れるものなら切ってみてよ」


 傍観する観衆を相手にしらを切ることなどできず。ミエッチはただその場に崩れ落ちた。


「これであんたの家はあたいのもの、だからいただくわよ」

「ま、待て」

「なに、まだなにかあるの?」

「俺たちの家にある私物は持っていってもいいだろ?」

「……いいわよ。ついでに家の場所もわかるし」


 それから、ウヒカたちはミエッチについていくことになった。コワチャンはミエッチに寄り添えず、すこし離れて歩いていた。しばらく歩き、ミエッチの家にたどり着いた。


「ここだ、ちょっと待ってろ。私物を適当に詰め込んでくるから。あ、そうそう、パネルにおまえの指をふれさせておけ、リセットしておいたから大丈夫だ。わかっていると思うが玄関ドアのわきにあるパネルだぞ。そうしないとあんたのものにはならない」


 そう説明を終え、ミエッチが中に入るとコワチャンは「わたしも手伝うわ」と後を追いかけた。


 ウヒカは言われたとおりにパネルに指をふれさせた。パネルには『持ち主ウヒカ』となった。


「やっと着いたぜ」


 ズボラは疲れたようにナマケを下した。ナマケはあれからずっと寝ていたため、グータラと一緒に運んできたのだ。


「おお、来たか。見て、ここがあたいの家になるんだよ。35万の家だって」

「そいつはすげーなぁ、しかしーさっきのカードバトルでこんないい家が手に入っちまうんだな」

「ひひひ、だからギャンブルは止められないんだよ」

「そうか、じゃあ疲れたからとりあえず中に入っか」


 ズボラが家の中に入ろうとしたら、ミエッチたちが出てきた。彼らは大きなバッグを抱えて疲れたようにため息をこぼしている。


「くれてやる。こんなゴミ家。それからこれだ」


 ミエッチはクロバーの指輪をウヒカに手渡した。


「どうも」


 恨めしそうに憎らしそうにミエッチはその場を去っていった。その去り際に「ごめんなコワチャン」と謝った。コワチャンはそれを聞き入れて、寄り添うように後を追いかけた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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