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20. 違和感

 しばらくしてミエッチたちが戻ってきた。


 それからカードの前でミエッチは首をかしげ、やや汗をかきながら。自分のカードをにらみつけていた。


 ウヒカも同様に、目を左右に行き来させながらどのカードにするか考えていた。


 すると、「早くしろよ」や「さっさとめくれ」などのヤジが飛び始める。だが、彼らのヤジもむなしく、熟考するふたりには届かない。


 ミエッチは後ろにいるコワチャンをちらりと見た。コワチャンは恐々とうなずき返した。


「これだ!」


 ミエッチは一枚のカードに手を乗せるとウヒカにたずねた。


「なあ、さきにめくっていいか?」

「あ?」

「おまえはカードを選ぶのに長考するだろう。待ってるほうもそれなりに疲れるんでな」

「ああ、いいよ」

「それじゃあ」


 ミエッチはカードを開いた。そこに描かれているマークはシカクだった。


「シカクだ。よしこれで負けることはない」


 マルを引けば負ける。ウヒカはどちらのカードにマルがあるか目を皿のようにしながら見つめた。しかし、どんなに見ても透視できるはずもなく、ただむなしく時が過ぎ去っていく。


 お互いがカードをめくらないときはいいが、一方がめくってしまうと、あとのほうは焦りが生じて熟考するという気力がなくなってしまう。


「めーくーれ。めーくーれ」と観客は一定のリズムでウヒカの長考を急かさせてきた。


 制限時間がないルールなのだから時間をかければいいものの、こういったヤジや相手がカードをめくったという状況に対して、いますぐカードをめくらざる負えなくなるのだ。


 ウヒカは動いた。


 ある一枚のカードの上で手が止まる。そのまま手がカードにふれれば、もうそれをめくらなければならない。


 ウヒカは意を決して手を置きに行った。


 だが、そのカードに手がふれようとした瞬間。ナマケが前のめりに倒れ込んだのだ。ナマケは急な睡魔に襲われて力なくそのまま倒れてしまった。


 ウヒカの手はカードの上に乗っている。


「ナマケまた寝ちゃったかぁ、しょーがねーなぁ」


 ズボラはそう言ってナマケを引っ張り起こそうとした。すると「待て」とミエッチがその行動を止めた。


「そいつの頭のほうが、カードにふれるの速かったぜ」

「えっ?」


 ウヒカは嘘だと思いながらそのことを確認してみると、たしかにカードがナマケの頭の下敷きになっていた。


「ってことは、そっちのカードを開くのがルールだな」

「違う。あたいのほうが速い」

「違わない。俺は見てたんだ。そいつがおまえの手より先にそのカードにふれるのをな」

「いやちがう! あたいの手のほうがさきだよ!」

「いや、絶対にそいつのほうが速かった!」


 どちらも譲らずに言い争っていると、「そっちのミエッチってやつのほうが正しいぜ」という声が聴こえてきた。


 野次馬が両脇にはけると、その声の主が姿をあらわした。


「セカチじゃねーか」


 ズボラは久しく会う彼にそう言った。


「なにやら騒いでいるから来てみれば、おまえらこんなところにいたのか。ずいぶんと早いご到着だな。それにロマン姫さまを捜さずにこんなところで油を売っているとは」

「俺たちは油なんか持ってねーぞ」

「まあいい」


 セカチはそれ以上ズボラたちにかまわず、両者がやっているカードバトルの前に立った。その両隣にはセイカクとピタリもいる。


「俺が見た限りじゃ、0コンマ12秒ほどウヒカの手のほうが遅かった」

「ほうら、見ろ。こちらの兄さんがちゃんと証明してくれたぜ」


 ウヒカはそれでも食い下がった。


「ちがう。でたらめだ。そんなの」


 セカチは首を横に振り、彼女の言っていることを否定した。


「残念だが、俺の目はごまかせねぇぜ。セイカク、例のやつを頼む」


 セカチに言われてセイカクはコインを出した。それを指で弾き、回転させ、振ってきたところを手で挟んだ。


「表だ」


 セカチはそう言うと、セイカクは手を開いてコインを見せた。ハートを連ねた輪の中にティアラのマーク、この王国のマークが描かれている。


「どうだ?」

「まぐれだろ。どうせ」

「わかった。もう一度頼む」


 それから何回か繰り返し、セカチはすべて答え、そしてすべて正解した。


「これで信じてくれるか?」


 ウヒカは反論できずにうなずくしかなかった。


「……わかったよ」


 どこか納得のいかない表情をしながらウヒカはミエッチにたずねた。


「本当にいいのか? ナマケのカードをめくっても」

「あ? ああ、早くめくれ」

「後悔はないんだね?」

「つべこべ言わず、さっさとめくりやがれ」


 ウヒカはナマケがふれたカードに手を伸ばした。そして、そのカードに手をふれると一呼吸置いた。


 みなが見守る静寂のなか、ウヒカはカードをゆっくりとめくった。


「まる」


 そう、ウヒカの引いたカードをマルだった。


「はっはっは、運が悪かったなぁ、おまえが選んだカードをめくってれば生き延びれたのになぁ」


 ミエッチは鼻高々に笑い転げる。ウヒカはある違和感を思い出して反論した。


「……イカサマだよ。こんなの」

「あ?」

「ミエッチはイカサマをしているんだよ」

「はあ? なに言ってんだ? 負けて頭でもおかしくなったか?」

「あたいにはあんたがイカサマをしている、少なくとも三つの違和感を覚えたんだよ」

「いわかんだと?」

「違和感その1、なんで最初カードを切る前にカードのマークを確認したの?」

「あ? それはおまえがカードになにか細工でもしてるかもしれねーと思ったからだよ」

「真剣勝負に細工なんかしないわ。本当はカードを見るふりをして、どこにどのマークのカードがあるか覚えていたんじゃないの?」

「覚えるかよいちいち。だいたい、そのあとちゃんとカードは切っただろうが」

「いいえ、切ったふりをしていただけよ。どの順番にカードがあるかを覚えた状態で切ったのよ。たとえばマークを番号で覚え、カードを123という順番に重ねる。そのあと下から切っていくから3が一番上に来る。そのあと2、そして1。その繰り返しを覚えていた」

「アホか、誰が覚えるかよ。俺はそんなことやってねぇ」


 くだらないと馬鹿にしながらミエッチは呆れたようにため息を吐く。ウヒカはどんなことを言われても違和感をとことんついていった。


「違和感その2、途中でコワチャンと一緒に離れたわね。なにをやっていたの?」

「話をしてたんだよ」

「なんの話?」

「おまえには関係ないだろ」

「関係あるわ。自分の置いたカードの確認をお互いにしてたんじゃないの?」

「あ? してねぇよ」

「彼女にどこにシカクがあるか聞いてたんでしょ?」

「聞いてねぇよ」

「じゃあ、なにを話していたの?」

「今後のことを相談してたんだよ。もし負けたらってな」


 ウヒカはコワチャンを見ると、コワチャンはおどおどしながら目をあちこちとせわしなく動かしていた。


「コワチャン、ホントなの? 彼の言っていること」

「……はあ」

「遠慮しなくていいだよ、正直に言っても。怒らないから、ね」

「あの……」


「なにも言わなくていいぞ。こっちのことだからな」とミエッチは彼女が言おうとしていることを止めようとした。だが、ウヒカはコワチャンがなにか隠していると感じ、どうにか引き出そうと考えた。


「彼になにか言われたんでしょ」

「……その」


 ミエッチはコワチャンがこのままでは例のことを言ってしまうと思いとっさに声を荒げた。


「コワチャン! 言うんじゃねーよ。言ったらどうなるかわかってんだろ!」

「……じつは」


 ミエッチはコワチャンの肩に手を乗せてやさしく言った。


「なあコワチャン、疲れてんだろ。もう帰ろうな、な」


 ミエッチの行動に怒りを覚えたウヒカは彼を怒鳴った。


「いまコワチャンが話そうとしているんだよ! 黙って聞けないのかよ!」

「うるせーよ! こいつは俺の女だぞ。俺の女だ!」


 すると、コワチャンはせきを切ったように話し出した。


「ご、ごめんなさい。わ、わたし、見てしまったんです。ミエッチが浮気してるのを。あれは、シカ化の女の人でした。最初は知り合いかなんかだと思ってたんですけど、尾行しているうちに、ふたりはキスしてて……。それをあとでミエッチに問いただしたら、ああ浮気だよって言ってて。それから、わたしと別れたいって……でも、わたしは別れたくないから、嫌って言ったの。もう、ほんとにくやしくて、ほんとに、もう。そしたら。このカードバトルで勝ったら別れないって言ってくれたの、だから……そうなの。わたしが覚えたの。どのカードにどのマークがあるか」


 コワチャンが言い終わると、辺りの静寂はどよめきに変わった。観客からは「ミエッチてめぇ」や「最低」などの罵声が飛んだ。ミエッチは下を向いて歯を食いしばる。が、声を上げた。


「ちがう! 俺はそんなことやってない。ほかのウシ化の男と見間違えただけだろ」

「いいえちがうわ! あれは絶対あなたよ」

「みなさん、彼女の言っていることは全部でたらめですから。確かなことなんてひとつもないですよ」

「ぜったい、ぜったいあれはあなたよ!」

「この女の意見なんてなんの確証もない! 浮気だなんて……」


 ウヒカは彼の行動にだんだんとイライラしてきて暴言はいた。


「見苦しいんだよ、ミエッチ。これは全部あんたがやったことなんだよ!」

「そうよ……」


 そこへ観客をかき分けながらシカ化の女があらわれた。みなが驚くなか、コワチャンだけはそれをにらんだ。


「まさかあたしを忘れるなんてね」


「オソラ、なんで?」と思わず口走ってしまい、ミエッチは苦い表情をする。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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