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2. 町

 木を下りたところで「あー疲れた」とグータラが言い、肩越しに担いでいる棒を下してしまった。ドサッとナマケの体が地面にぶつかる。


「おい、グータラしっかり持て」


 ズボラはそう言って、ナマケを引きずりながら歩いていく。グータラはそれを見ると横になって眠り始めた。


「しょーがねーなぁ、じゃあ担いでいくか」


 ズボラはふたりを引っ張りながら歩き出した。いっぽうには棒をもういっぽうにはグータラの手を。それから、しばらくしてグータラは目を覚ました。


「ふぁー……よく寝た」

「起きたか」

「うん」


 グータラは起き上がるとナマケがつかまっている棒をふたたび担ぎ出した。


「まったく、おまえも寝るから大変だったぜ」

「ごめんごめん」

「そういえば、さっきのロマン姫の話、それが本当だったらやばいな。ロマンティス王の娘だろ? そいつ」

「うん、間違いないよ。たすけてーって言ってたし」

「誘拐かぁー、そのフードのやつは誰なんだろうな」

「わからないけど、たぶん悪いやつだよ」

「いまごろ城では大慌てだろうなぁ」

「そうだね。プレズフィールの町までもう少しだからそこで噂でもされているかもね」

「まあ、今日は市場が開かれるからな、きっとなにかあるぜ」


 そうして、プレズフィールの町にたどり着いた。その門をくぐる前から賑やかなケモにんたちの声が聞こえてくる。ズボラとグータラは久しぶりに来た町にあちこちと目移りしていた。


「いやーすごい賑わいだな」


 ズボラはケモにんたちの多さに驚きを見せた。グータラはそんなことよりすでに足が疲れてへとへとだった。だから、どこか休めるところはないか探したが、町に置いてある長椅子はすべて座られていた。


「ちょっと休まない?」


 グータラは言った。ほぼほぼ足を引きずるようにして歩いている。そんな彼の姿を見てズボラはどこか休めそうな場所を探してやった。


「あそこにあるじゃねーか」


 ズボラは噴水広場にある柱を指さした。グータラはほっと胸をなでおろすと担いでいる棒を置いて、四つん這いになりながらそこへ向かって行った。


「ズボラ、あとは頼むよ」


 グータラがいなくなり、ズボラは仕方なくナマケを起こそうとした。ちょうどそのとき「ふぁー……」とあくびをしながらナマケは目を覚ました。


「ここどこ?」


 ナマケはそうたずねるとまた眠ろうとした。ズボラはナマケのつかんでいる棒を引っ張りその勢いで彼を無理やり立たせた。


「来たんだよ、町に」

「まち?」

「そうだ、ここに売っているはずだぜ。例のものが」

「あー、なんとか指輪ってやつだね」

「クロバーの指輪だ」

「あれ? グータラは?」

「疲れたから休むって」

「へー、それじゃあぼくも休もーかなぁ」

「ちょっとは付き合えって」


 ズボラは棒を引っ張りナマケを寝かせないようにしながら、クロバーの指輪が売っている場所を探していく。すると、行列のできている店が目についた。そこへ行く途中ほかの店からいろいろな呼び声が聞こえてきた。


「いらっしゃいませー」や「うまいよー」や「やばいの売ってますー、寄ってってくださーい」などの声が店のあちこちでこだましている。


 ズボラとナマケはその声を聞きながら歩いているが、ナマケは棒をつかんだまま眠ってしまった。彼にとってはそれは子守歌のように聞こえていたのだ。それに気づいたズボラはナマケを引きずるように引っ張っていく。そうやって、ようやく例の店にたどり着いた。


 ズボラは何百人という行列の最後尾に並びながら順番を待った。


「あー腹減ったなぁ」


 お腹が鳴り、ズボラはなにかうまそうなものが売っていないか辺りを探すと、アクキリムシの串焼きの文字に目が留まった。香りの良いにおいが漂ってきてズボラは居ても立ってもいられなくなった。


「あれを食いに行くか」


 ズボラは列に並ぶのをやめて、ナマケを引きずりながらその店へと向かった。


「いらっしゃい」


 着くなり店員は言った。ズボラは商品を見るなり迷わず適当に指をさしていく。


「それと、それと、それと、あとそれ」

「まいどあり、串焼き四つだね」

「ああ」

「全部で1000リボンになります」

「1000だな」


 ズボラは料金を払うため1万リボンコインを取り出した。それを店員に払うと店員は9000リボンコインを彼に返した。


 さっそくアクキリムシの串焼きを頬張りながら、ふたたび例の店に並び出す。


「……うーん、いいにおい」


 ズボラの食べている串焼きのにおいにつられてナマケは目を覚ました。


「お? やっと目覚めたか。おまえも食うか?」

「うん」


 それからふたりは行列に並びながら自分たちの番が来るまでひたすら待つことにした。数時間経ちグータラがやってきた。


「ふたりとも捜したよ。ここが例の店のやつ?」

「おう、そうだ。しかしなかなか順番が回って来ねーんだ」

「うわー、ずいぶんとたくさんの人が並んでいるね」

「そうなんだよ。でもまあ、もうしばらくすればそのうち買えるようになるだろうぜ」

「そうだね。それよりなんかいいにおいするね」

「ああ、さっきまでアクキリムシの串焼き食ってたんだ」

「え? アクキリムシの串焼き!?」

「うまかったぞ。おまえも食いに行くか?」

「うん」


 こうして、彼らはアクキリムシの串焼きが売っている店にふたたび向かった。


 ズボラはグータラに串焼きを買ってやると、なにか飲みたくなり辺りを見回した。すると『酒あり』という看板が目に留まる。


「あ! あそこに酒が売っているぜ」

「えっ!?」


 グータラは串焼きの串をぺろぺろと舐めながらその場所を眺めた。外にテーブルが置いてありそこで注文ができるようになっている。


 彼らはさっそくそのテーブルへと向かった。そこは酒場で皆が酒を飲みながら雑談をしている場所だった。テーブルには酒と書かれた映像がテーブルに映し出されている。


 三人がテーブルに着くとそれぞれが椅子に座った。それから、ズボラは注文するため酒の映像を指で押したが、なにも反応がなかった。


「あっ! そうだったそうだった」


 思い出したようにズボラは8750リボン入っているコインをコイン入れに置いた。すると酒の映像が光り始めて使えるようになった。


「これで注文できるはずだぜ」


 それから三人は酒を注文していった。店員が持ってくるわけではなく、テーブルから直接出てくる仕組みになっている。この仕組みは、ずいぶん前にダリティア王国から輸入してきたものだった。


 店員は居るがそれは初めて店を訪れた人のための説明要因、それと清掃係りとしているだけなのだ。


「お客様、クロバーの指輪はお持ちでしょうか?」


 リス化の女の店員が話しかけてきた。三人は店員を見ながら『指輪?』と思った。


「もしお持ちでしたら、指輪にお金を入れてその指で好きな映像を押していただければ、料金と引き換えに選んだものがすぐに出てきますので便利ですよ」

「ああ、そうなんだ」

「はい」


 店員は指輪のしている指を酒の映像にふれさせると、酒が三つ分出てきた。


「店からのおごりです。どうぞごゆっくりして行ってください」


 そう言って、店員は店の奥へと戻っていった。


「いやーしかし、いい店員だな。酒をおごってもらったぜ」


 ズボラはそう言って酒をあおる。ナマケは銀のコップを手を使わずに口をつけて飲んだ。グータラは酒を一口飲むと思い出したことを話してきた。


「そうだ! こんなものを見つけたんだよ」


 グータラは紙を取り出してテーブルの上に置いた。それは懸賞金の紙だった。ズボラは身を乗り出してその紙に書いてある内容を読み上げた。


「なになに、ロマン姫が何者かにさらわれてしまいました。勇気ある者たちどうが我が娘、ロマン姫を見つけ出して助けてください。お願いします。娘を無事に助け出し城まで送って下されば、懸賞金として『100万リボン』を差し上げます。どうかよろしくお願いします?」


 そう読み終えるとどこか納得のいかないズボラは首をかしげた。グータラは懸賞金に目がくらみ早く助けに行きたくてうずうずしながら言った。


「そうなんだ。姫を助ければ金がもらえるんだって」

「うーん、城の兵士なんか使って見つけ出してんじゃねーのか?」


 懸賞金の紙にはイゲンキョウがついており、ズボラはロマン姫がうれしそうに遊んでいる姿を見ながらそうつぶやいた。


「ナマケはどう思う?」


 ズボラはなかば眠りながら酒を飲んでいる彼にたずねた。ナマケはあくびをしながら答えた。


「あーきっと誰かが助けてくれるよ。その人たちに任せよう」


 すると、グータラは自分の意見のほうに一票ほしかったためにナマケを誘おうとした。


「でも、懸賞金が出るんだ」

「あーいやでもーそのー……危なくない? ロマン姫をさらった悪い人がいるんでしょ?」

「そ、そうだね。やめよう」


 ナマケにそう言われて自信をなくしたグータラは、姫救助をあきらめることにした。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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