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19. 再会

 次の日。


「おい、起きろ」


 ミエッチはそう言って床で寝ている三人を起こそうとした。しかし、全く起きる気配はなかった。


「おい! 起きろって!」


 彼らの体を足で揺すりむりやり起こす。ズボラとグータラは起きたがナマケは起きなかった。


「おいっ! てめえだよ! 起きろ!」


 それでもナマケは起きなかった。あろうことか、ますます気持ちよさそうに眠り込んでいく。


「それじゃあ、だめだぜ」


 その状況を救うようにズボラはバッグからはみ出している杖を引っ張り出した。


「こいつを使わねーと起きねーんだ」


 それから杖をナマケの手に持っていった。手にふれた瞬間、ナマケはその杖をつかみ目を覚ました。


「な、こういことだ」

「なんでそんなんで起きるんだ。まったく、ああもういい、今日はあの猫女から金をもらう日だからな。おまえらも付き合え」

「ねこおんな?」

「一緒にいただろ。おまえらの親分だろうが」

「あれ? そうだったっけ? いやあ、俺たち物覚えが悪んで」

「ふん、まあいい。さっさと行くぞ」


 こうして、ズボラたちはミエッチたちとともに昨日カードバトルをやった場所まで歩いて行った。


 高級料理屋ホシヨウのそばにある広場には誰もいなかった。時刻はすでに12時を回っている。


「来てねーじゃねーか」


 ミエッチはイラつきながら辺りを見回す。


「遅れて来るのかもしれないわ」


 コワチャンが言うとミエッチはますます不機嫌になり近くの長椅子に座り込んだ。


「来なかったら、どうすんだよ。はては逃げやがったか?」

「わからないわ。でも、もうすこし待ちましょうよ」


 ミエッチはクロバーの指輪にふれて時間を確認した。12時13分をさしている。


「そういえば、こきつっていつ買ってくれるんだ?」


 ズボラはミエッチにたずねた。ミエッチはなんのことだかわからずに「ああ?」と声を上げる。


「だから、こきつ買ってやるって言ってたからさぁ……言ってたよな?」


 ズボラはグータラに確認を取った。


「うん」

「ほら、グータラもちゃんと聞いているぜ」


 ミエッチはただでさえイラついているのに、そんな馬鹿なこと対して答えるのもうっとうしくなった。

 

「それで、いつ買ってくれるんだよ。俺たちそれが気になって気になってしかたねーんだ。そうだよな?」

「うん」


 グータラは返事をしているが、本当はなんのことを言っているのか全く覚えていなかった。条件反射のようなもので、つい適当に返事をしてしまうのだ。


「うっせいなぁ、もう買ってやっただろ」

「買った? いやー俺たちもらってねーぞ」

「こき使ったんだよ。おまえらに買い物に行かせただろうが」

「えっ? ってこは、オウゴ焼きのことか?」

「ああ、そうだよ」

「なんだ、こきつってオウゴ焼きのことだったのかぁ」


 そんな会話をしていると、風が吹き、落ち葉が舞い上がった。その先にはネコ化の女が立っていた。ミエッチは渋い表情でその女をにらみつける。そこにいたのはウヒカだった。


「待たせたわね」

「おせーんだよ。ちゃんと持って来たんだろな」

「持ってきたわよ」

「じゃあ、きっちり7000リボン渡してもらおうか」

「……その前に」


 ウヒカはポケットからカードを取り出した。


「カードバトルで勝負よ」

「はあ?」

「もう一度、もう一度勝負よ。今度は10万リボンを賭けて」

「はあっ? ばっかじゃねーの。誰がやるかよ」

「これが最後。もうこれっきりで終わりなんだから」

「やらねーよ。どうしてもやりたかったら他を当たれ」

「ダメよ。絶対やるの」

「うるせーな。やらねーって、さっさと持ってきたもん渡せよ」

「ふーん、やらないんだ。なんだそんな腑抜けなんだ。お高くとまっておきながら、いざとなったら逃げるのね」

「なに?」

「だってそうでしょ、あんたなんてたかが知れてるわよ。所詮小物だわ」

「てめぇ」

「ここまで言われて勝負をやめるやつなんて、あたい、いままでひとりも見たことないわ」

「言わせておけば……」


 コワチャンはミエッチの震える肩にそっと手を乗せた。


「ミエッチやめましょう。やることないわ。あなたもミエッチを苦しめないで。ミエッチはね、きのう……」

「その話はするんじゃねぇ、コワチャン」

「ミエッチ」


 ミエッチは一度深呼吸して言った。


「わかった。やってやる。勝負だ」


 そしてカードバトルが始まった。ウヒカ、ミエッチが向かい合うなか、コワチャン、ズボラ、グータラ、ナマケがその周りを観戦するために囲う。すると、どこから情報を知ったのか、ちらほらとケモにんたちが集まり出した。

 

 ケモにんたちはさっそくどちらが勝つかを賭け始めた。昨日と同様、ミエッチのほうに賭ける人がほとんどだった。


「それで、あんたはなにを賭けるの? あたいは10万なんだけど」


 ウヒカは目の前に置いた10万リボンコインに目をやる。


「なにを賭けるだぁ? うー……」


 ミエッチがなにを賭けるか悩んでいると、ズボラが思い出したことを口にした。


「そういえば、ミエッチの家ってけっこういい家だったぜ。その中に金目のものが結構あったなぁ」


 ウヒカはその話に耳をとがらせた。


「ズボラ、それは本当?」

「ああ、間違いねーよ」

「ひひひ、じゃあ、ミエッチには家を賭けてもらうことにしよう」


 するとミエッチは首を振り断ってきた。


「ば、馬鹿か。正気か? 俺の家の値段はなあ、35万するんだよ。テメーの用意した10万じゃ足りねーだろうが」

「そう言うだろうと思ったよ。だから、あたいがあんたの奴隷になってやるよ」

「ど……」


 ミエッチは、この女ならなにかの役に立ちそうだと思った。


「いいのか? 負けたら俺の奴隷になって、嫌と言うほど働いてもらうからなぁ」

「ああ、いいよ。ただし、あたいが勝ったら指輪とズボラたちは返してもらうよ」

「わかった。賭けてやろうじゃねーか。俺の指輪と奴隷と家を」


 こうして、ウヒカは自分と10万リボンを、ミエッチはクロバーの指輪とズボラたちと自分の家を賭けることになった。


 それを聞いた観客はますます盛り上がりを見せる。


「さあ、時間も時間だ。そろそろやろうぜ」


 ミエッチはうずうずしながらカードを急かした。そんな彼にウヒカはカードを三枚渡した。そして、お互いがカードを切り始める。ミエッチはカードになにか細工されていないか入念にチェックをする。が、特になんの細工もされていないとわかった。


 お互いが見合っている。そして……。


 ミエッチは一枚のカードに手を置く。だが、ウヒカはまだ置かなかった。

 ミエッチはウヒカをにらみつけると、早く開けと言わんばかりに念を送る。


 ウヒカの手は三枚のカードの上で揺れていた。右に行けば今度は左にと、行ったり来たりをしている。


「どうしたんだ? 早く選べ。また長考か?」


 それから数時間が経ち、ウヒカはようやく一枚のカードに手を止めた。ここで負ければ地獄が待っている。そんな想いが彼女の行動を停止させ、自分の体が地面の中に吸い込まれていくような感覚にとらわれた。


「ぶっ壊せ!」


 ウヒカはそんな迷いを振り払うように、そう怒鳴った。


『せーの』


 お互いが自分の選んだカードを開いた。ミエッチはサンカク、ウヒカもサンカクだった。


「さんかく?」


 ウヒカはほっと一息つき、そう問いかける。目を皿のようにしながら見つめるそれは、サンカクのカードだった。


「ふんっ、あいこだな。次で決着をつける」


 ミエッチはそう言って、口を真一文字に閉じて呼吸を荒げた。それに対しウヒカの感覚はだんだんと研ぎ澄まされていく。


 ふたりがにらみ合う。運命の二枚目。


 今度は、ふたりともカードに手を置かなかった。微動だにしない長考がつづく。そのまま数時間が経ち。ミエッチはコワチャンを引き連れて、すこし離れた場所へ移動した。


 ウヒカはどちらのカードを引けばよいか迷っていた。


「しかし、10万リボンなんてどうやって手に入れたんだ? そんなに貯金してたのか?」


 ズボラの問いにウヒカは答えた。


「家を売ったんだよ」

「えっ? あの家を売っちまったのか?」

「そうだよ。だから、あたいの帰るところはもうないんだよ」

「それは、しょーがねーなぁ」


 ナマケはとなりで眠そうにしているグータラにたずねた。


「ねえ、いつ終わるの?」

「さあ」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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