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18. 盗み

「ここがうわさのオウゴ焼きの店か」


 ズボラは舌なめずりをしながらその佇まいを眺めた。その店は人気があるのかケモにんたちが次々と買いにやってくる。


 ハイエナ化の男がオウゴ焼きを売っていた。裏メニューとしてザイホルという粉状のとても甘いものが売られている。ザイホルの木から出る樹液を加工して作られるもので、それを使った料理は王族しか食してはならない決まりなのである。そのためロマンティス王国ではザイホルを食べることは禁止されていて、見つかれば即座に追放されるのだ。


 オウゴ焼き屋の前にピューマ化の男が寄ってきた。


「いらっしゃい、今日のオウゴ焼きはとくべつにうまいぞ」


 ピューマ化の男はちらちらと辺りを見ながら言った。


「そうかい、この店もだいぶ古いな。買い替えないのか?」

「そうか? 俺にはまだまだ新品に見えるぜ」


 そんな会話をしながらオウゴ焼きとはべつに、小さなガラス玉に入ったザイホルを素早く手渡し、それと同時にピューマ化の男はお金を渡す。


 ザイホルの値段は量により1万から10万の間で取引されている。


 次に来たのはアライグマ化の女だった。


「これから取引をしに行くの。うまく進めば大金を手に入れられるわ」

「今日のはかなり効くぜ」


 先ほどと同様にお金を受け取りザイホルを渡す。アライグマ化の女はその場でザイホルを口に含んだ。


「確かに……さえるわね。まったく王族ってやつはこんなおいしいものをひとり占めしてるなんて」

「だから、俺たちみたいなのがいるんじゃいか」

「ほどほどにしないと、いつかパクられるわよ」

「うまくやるさ。うちのボスはそこんところは慎重だからな」

「そう、それじゃ」


 そして誰もいなくなり、ズボラたちは盗んでくるように言われているためオウゴ焼きの店に足を止めた。


「いらっしゃい」

「オウゴ焼きをくれ」

「いくつほしい?」

「とりあえず10個だ」


 ズボラはそう答えると、店のあちこちを見まわした。店員はその挙動に対してちらちらと目で追うが何事もないように、オウゴ焼きを10個葉っぱにくるむと差し出してきた。


「全部で50リボンだ」

「なあ、さっきオウゴ焼きのほかにべつの食いもんもなかったか?」

「あ? さ、さあ、ここで売られているのはオウゴ焼き以外はなにもないですが」

「そうか?」

「はい、さあ、冷めないうちにお召し上がりください」

「ああ、わかった」


 ズボラはオウゴ焼きを奪い取るとなにも気にせず歩き出した。


「えっ? おい! お客さん!? お金!」


 店員はあわてて店を飛び出しズボラたちを呼び止めた。


「金払えって!」

「じつは俺たち奴隷をやってて、ご主人に頼まれてオウゴ焼きを盗んで来いって言われてんだ。そうだよな?」


 ズボラはとなりにいるグータラに振った。


「うん、そうだよ。ご主人は盗んでもいいって言ってた」


 店員は騒ぎを大きくしたくないために小声で話し出した。


「じゃあ、そのご主人て誰だ?」

「えーっと……」


 グータラは誰に言われたのか思い出せないでいる。ズボラも考えているが誰に言われたのかわからなかった。それから、ホシヨウの前でナマケがその名前を呼んだのを必死で思い出す。


「あ! 思い出したぜ。コワチャンだ」

「コワチャン?」

「ああ間違いねぇ、コワチャンだぜ。俺のご主人は」

「じゃあ、そのコワチャンってやつのところまで案内してもらおうか?」

「ああ、わかった」


 こうして、ミエッチの家まで帰ることになるのだが、また例のごとくその場所がわからなかったため、行きかう人にたずねては教えてもらい、たずねては教えてもらいを繰り返し、ようやく帰ってきたのである。


「ただいまぁ、買って来てやったぜ」


 ズボラが言うと奥から声が聞こえてきた。


「寝るな! 芸をやるんだ!」

「えー、ぼく横にならないとひらめかないんだよー」

「起きて考えろ!」


 ミエッチとナマケが会話をしている。どうやらミエッチは退屈しのぎにナマケを使ってなにかをさせたいらしい。


「ミエッチ、もうやめたら」


 コワチャンはナマケが気の毒になり彼を止めよとした。


「奴隷だぞ、人前で芸のひとつでもしてもらわねーと」

「でも……」


 そこへズボラたちが入ってくると、ミエッチは彼らの持っているオウゴ焼きに目を留めた。


「おう、やっと帰って来たのか」

「ああ、あと客を連れてきた」


 オウゴ焼きの店員を見るなり、ミエッチは驚いた表情で「どちらさまで?」とたずねた。


「おい、コワチャンてのはおまえか?」

「えっ?」

「こいつらに盗んで来いって言ったんだろ」

「えっ? いや、言ってないけど。コワチャンはそこにいる彼女で俺はミエッチだけど」

「ミエッチ? 名前なんかどうでもいい。それより、こっちは商売でやってんだよ。店のもん盗まれちゃあたまんねーんだよ」


 ミエッチはズボラとグータラを見ると怒りを見せた。


「おまえら、また人さまのものを盗んだのか? あれほど言ったのにわかんなかったのか?」


 それから店員に向き直り謝り出した。


「うちのもんがすみません」

「ああ、それはもういい。だが、この落とし前をどうつけるつもりだ?」

「そうですね。では、そいつらが盗んだものを買いますので、それでよろしいでしょうか?」

「買ってくれるってか? そうだなあ、とりあえず10万リボンを出してもらおうか」

「じゅ、10万!?」

「そうだよ。人の物を盗むってのはそれだけ罪が重いんだ。さあ、支払ってもらおうか。それともその程度の金は払えないってか」

「あ……ああ! 払ってやるとも!」


 ミエッチは10万リボンコインを貯金箱から出して店員に渡した。


「確かに10万。まったく、俺だからこの程度で済んだんだ。ほかのやつだったらもっと取ってるぞ」


 ミエッチは下を向きながら苦い表情を見せている。


「部下だか奴隷だか知らねぇが、他人のもん盗まないようによーくしつけとくんだな」


 店員はドタドタと足音を立てて部屋を出て行った。


 ミエッチは悔しそうな顔をしてズボラたちをにらみつける。


「おまえら! なぜ俺が言ったって言ったんだ?」

「いや、事実じゃねーか。ちゃんと聞こえてたぜ」


 ズボラはなにを馬鹿げたことと思いながら返した。


「ああ、ああ確かに言ったが、そう言うことじゃねーんだよ。盗んでもバレないようにやれってことなんだよ」

「なんだ。そうだったのか。しょーがねーなぁ、じゃあもう一回行って盗んでくるぜ」

「待て、もういい。今日疲れた。おまえらは適当に休んどけ……あっ、それにいちいちコワチャンの名前を出すんじゃねーよ」

「思い出したのがその名前だったんだ。ただ、それだけだぜ」

「だから、他人の前で俺たちの名前を出すなってことだ」


 これ以上こいつらと会話すると頭が悪くなりそうだと感じたミエッチは、適当に会話を切り、ふらふらと寝室へと向かった。


「じゃあ、遠慮なく休んどくか」


 ズボラはその場に寝転んだ。グータラも同じく寝ころぶ。そこへちょうどコワチャンがクロカバ茶を持ってきた。


「あらあら、もうお休みですか?」


 そう言いながらテーブルにクロカバ茶を並べていく。


「よかったらお召し上がりください。それから、オウゴ焼きもいただいてください」

「なんだ、気が利くじゃねーか。じゃあ、さっそくいただくか」


 ズボラはすぐにいただき始めた。それにつられてグータラもいただいていく。ナマケはすでに寝ていたが、いいにおいにうながされて目を覚ますと、なんのためらいもなくオウゴ焼きを食べ始めた。


「ごめんね。ミエッチは怖いけどそんなに悪い人じゃないの。威張りたいだけなのよ」

「ふーん、そうなんだ。しかし、この飲物うめーな」

「ありがとう。それで、あなたたちは何者なの?」

「俺たちは……なんだっけ?」


 ズボラはグータラに話を振った。


「俺たちはロマン姫を助けに行くんだよ」

「ロマン姫さまを? 号外で見たけど、何者かに連れ去られたって」

「そう、でも俺は見たんだ。飛虫船に乗ったロマン姫を」

「へぇー、それで?」

「それで、なんか、助けてって言ってた」

「そう、見つかるといいわね」

「うん」


 コワチャンはナマケに話しかけた。


「ナマケさんでしたっけ? ごめんね。ミエッチにいいようにされて」

「あーまーそうーだけど、んーいやーそのー」

「あまり気にしないでね。根はいい人だから」

「ぼくー芸なんてできないからさぁー、こまっちゃった」

「まあ、本人も悪気があってしてるわけじゃないから、それだけはわかってあげて」

「うん」


 それから、コワチャンは眠くなり寝室へと向かった。

 コワチャンがいなくなってからも、三人はオウゴ焼きとクロカバ茶を堪能した。すると、たちまち眠くなり眠りにつくのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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