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13. 願い事

「きさまら、我々をだますとは……」


 大臣が黙っていられずになにか罰をあたえなければと思い、王にうかがった。


「国王陛下、よろしいのですか? このような者たちをただで帰してしまうのは」

「こやつらを締め上げたところで娘の居場所はわからんだろ」

「はあ、たしかに、そうですね」

「それより、お主ら、さっきなにか話があると言っていたな。申してみい」


 王は彼らを一通り眺める。話があるということを口にしたのはナマケだった。ズボラ、グータラ、ウヒカは知らぬふりをしながらナマケを凝視する。


 ナマケは辺りを見回すと全員が自分を見ていることがわかった。逃げ道のない視線を潜り抜ける方法はなにかを言うこと。ナマケは口を開いた。


「えーっと、そのー、なんていうのかぁ、そのー……ロマン姫さまはどこでさらわれたんですか?」

「どこ?」


 王は大臣を一瞥すると彼に話を任せた。


「寝室だ」

「はー、そうなんですか。あーぼくの考えだと、ロマン姫さまは寝ているときにさらわれたんだと思います」

「話したいことというのはそれだけか?」

「ええ、はい」


 大臣は以上ですと言わんばかりに王を見て指示を待った。王はこれ以上彼らからなにも引き出すものがないと感じ、解放してやることにした。


「そうか、こちらが早とちりしてすまなかったな。誰か縄を解いてやれ」

「はっ」


 側近の衛兵がその縄をほどきに行った。その間、大臣は王に耳打ちをする。


「陛下、本当にこの者たちを野放しにしてよろしいのですか? 間違いだったとはいえ、彼らが我々を欺いたことは事実です。なにかご処分を」

「……処分するまでもない、だが、彼らには働いてもらう。もちろん娘の捜索にだ」

「彼らを捜索に出したところで、姫さまを見つけてくるとは思えませんが」

「人手は多いほうがいい。ビラには100万の報酬をつけているが、果たしてどれだけの者がその話に乗るかわからぬからな」

「はあ」


 それぞれの縄がほどけ、一行は自由になった。ズボラはふとあることを思い出してたずねた。


「そういえば、セカチって野郎は来なかったか?」

「セカチ? ああ、昨日ここを訪れたな。彼のほかにもふたりいて、小さなことでもいいから姫さまがさらわれたときのことを教えてほしいと言ってきた」


 大臣はそう返すとズボラはうんうんとうなずいた。


「なんだおまえたち。彼らの仲間か?」

「いや、そうじゃねーけど、あいつらに会おーとしてんだけどさぁ、昨日会えなかったからなぁ」

「彼らは姫さまを助け出すために急いでいた。とても頼りになりそうな連中に見えた。彼らはきっと姫さまを真っ先に見つけ、そして、助け出してくれるだろう」

「まあ、仕事熱心なやつらだからなぁ」

「それのなにが悪い。それよりもう帰っていいぞ。今後はこんなことをしないようにな」

「ああ」


 一行は帰ろうとすると「待て」と王が呼び止めた。


「門まで送ろう」


 王の突然の言い出しに大臣が止めに入る。


「お待ちください陛下、そうでしたらわたくしめが……」

「いや、わしひとりでよい。少なくとも娘を捜してくださるのだ。彼らを疑ったお詫びに送り届けようというのだ」

「は、はあ」

「では、参ろうか」


 王は立ち上がると歩き出した。すると、衛兵全員から一斉に「いってらっしゃいませ!」という大きな声が響き渡った。


 一行を送っていく途中、王はぽつぽつと話し始めた。


「わしは夜、娘の寝顔を見ようとして寝室をのぞき込んだことがあった。だが、娘はベッドに寝ていなく窓を開けて空を見ていたのだ。なにをしているのかとたずねると、「星を見ていたの」と返してきた」

「ほし?」


 ウヒカはなぜロマン姫が星を見ていたのか気になり聞き返した。


「わしは娘に、なぜ星を見るのかとたずねた。娘はこう答えた。「願い事をしていたのよ」と。なにか願い事があるのか? わしが聞いてやるぞと言うと「お父さまには叶えられないことですわ」と返してきおったのだ」

「叶えられないことって?」

「わからぬ。おそらくだが、夜な夜な星を見てはそれを願っていたのだろう」

「で、そのすきを突きさらわれてしまった」

「ああ、わしがもっと寄り添っていれば……」

「そういえば、王妃さまはどうしておられるのです?」

「ロマンス王妃は娘をさらわれて寝込んでおる。それもそうだろう。こんなことは一度もなかったんだからな」

「そうでしたか、ご心労お察しします」


 王は何度かうなずいて返した。


 門のところまで来ると王はウヒカに500リボンコインを手渡した。「これは少しばかりだが、みんなで分けなさい。では、よい知らせを待っておるぞ」と王は言って引き返していった。


 一行は城の門を出て橋のところまで来ると、ズボラは前を悠々と歩いているウヒカにたずねた。


「王さまから、なにもらったんだ?」

「500リボンだよ」

「よかったじゃねーかぁ、金が手に入って」

「みんなで分けろってさ」

「そうか、じゃあさっそく酒場にでも行くか」

「あたいはもっともらいたかったんだよ。これじゃ少ないって。自分の娘を誘拐されて、一刻も早く捜してほしいはずなのに、渡されたのはこれだけって」

「じゃあ、少ねぇって言えばよかったじゃねーか」

「言おうとしたよ。言おうとしたけど、王さま本人を目の前にするとなにも言えなかったんだよ」

「そうか? じゃあ俺が言ってきてやるよ」

「ああ、いいって、またややこしいことになるから」

「えっ? そうか? まぁ、とりあえずそれでなにか飲もーぜ」


 酒場に向かう途中、ズボラは思い出したことをウヒカにたずねた。


「なあウヒカ、俺たちはロマン姫を連れ去った覚えはねーぞ。ロマン姫を助けに行くんだからなぁ」

「ごめんごめん、城に入るコネだったんだよ。ちゃんと中に入って王さまに会わせてもらっただろ?」

「なんだぁ、コネだったのか。しょーがねーなぁ」

「それよりどうすんの? 結局なにもわからなかったけど」

「そうだなぁ、とりあえず家に帰って寝るぜ」

「えっ?」

「なんの手掛りもないんじゃあ捜せねーたろ。だったらそれがやって来るまで待つだけだぜ」

「聞き込みとかしないのか?」

「いやー、それはウヒカがやるって言ってたろ」

「……あーそうだったっけ。わかった、あたいが手掛りを探してあげるよ。でー落ち合う場所は?」

「じゃあ、家まで来てもらえるか? 俺たちナマケの家で寝てるからよ」

「ナマケの家? どこだよそこ」

「えーっと……わかんねー」

「えー? ナマケは自分の家の場所わかるよね」


 ウヒカは振り向いてナマケにたずねた。だが、そこには誰もいなかった。ひゅーっと緩い風がとおり過ぎる。


「あれ? ふたりがいない」

「あ?」


 ズボラは振り返り彼らを捜した。橋を渡り切ってある程度歩いている場所であったため、人の行きかい以外目に入らない。


「いねーなぁ、しょーがねーから捜しに行くか」


 ズボラは来た道を引き返そうとした。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


 ウヒカは焦りながらズボラを呼び止めた。


「なんだ?」

「べつに彼らを迎えに行かなくても、あたいたちを捜して向こうからやってこないかな?」

「さあな、たぶん来ねーと思うぜ。グータラとナマケはいつもどっかで寝てるからなぁ、俺が捜して見つけてやるほうが早いぜ」

「もう面倒くさいよ」

「そうか? 考えたこともなかったなぁ」

「あたいはそこの酒場で待ってるから。捜したら連れてきてよ」

「そうか、わかった」


 そうして、ズボラとウヒカはわかれた。


 ズボラは杖を出してあちこちと捜し始めた。彼らの行動は大体わかっているため、それを頼りに捜索する。するとさっそく見つけた。橋のところにある街灯にしがつくようにしながらグータラがいた。


 どうやら寝ているようだ。


 思ったとおりにグータラがいたため、ズボラは彼を起こしに行った。


「おーい、グータラ」


 ズボラの声に反応してグータラは目を覚ました。


「ん? おーズボラどうした?」

「ウヒカがナマケの家の場所を知りたいから呼んできてくれだって」

「わかった。いま行くよ」


 つづいてナマケを捜しにふたりは歩き出した。歩きながらズボラはグータラに話しかけた。


「なあグータラ」

「なに」

「ナマケと一緒じゃなかったのか?」

「ナマケは俺の後ろにいてついてきてると思ったんだけど、俺さぁ、途中で眠くなって来ちゃったから眠っちゃったんだよね。だから、ここにいないってことはどっかに行ったんじゃないのかな」

「そうか、しょーがねーなぁ」


 ズボラはなんとなく彼がいそうな場所を探していると、長椅子が目に入った。ひょっとしているかもしれないと思い長椅子の下をのぞき込んだ。


「あっ!」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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