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12. 謁見

 ロマンティス城へ歩いていくなか、ウヒカは音を上げた。


「ちょっと待って、すこし疲れてきたから、グータラ代わってくれない?」

「俺が代わるのか?」

「うん、意外に重いんだね。彼」

「そうかなぁ? ……言われてみれば重い気もするね」


 そうして、ウヒカに代わりグータラがナマケを運ぶことになった。


「ふぅ、軽くなった。あんたたち、いつもこういうことをやって移動してるのか?」


 ウヒカは自分の肩をもみもみしながらたずねと、ズボラがそれに答えた。


「ああ、いつもそうだ。だがぁ、俺たちはほとんど家から出ねーからなぁ、こうやって移動するのは久しぶりなんだぜ」

「ふーん、どうやって金稼いでんの?」

「俺はアクキリムシを売ったりしているぜ。一匹1リボンだからな」

「そうなんだ。グータラは?」


 そう聞かれて、グータラは自分がどうやって金を稼ぐのかを考えてみたが稼いだことなど一度もなかった。


「いや、とくに……」

「えっ?」

「いやぁ、ズボラがいつも持ってるから」

「あ? ……あっ! 借りているってこと?」

「う、うん、そんな感じかな」

「へぇーそうなんだ。あたいも借りたいよ」


 その言葉が耳に入りズボラは申し訳なさそうに言った。


「ウヒカも金が欲しーのか? わりーなぁ、もう金ねーんだ」

「ああ、ごめんごめん、ただ言っただけだよ。確かに金には困っているけど、あたいはあんたからもう借りているからね。だから返さなくっちゃ」

「え? そのことならもう返してもらったぜ。泊まらせてくれただろ」

「まあそうだけど、やっぱり(ぶつ)がないとね。ひひひ」


 そんな会話をしながらロマンティス城の前にある白い石の橋まで一行はたどり着いた。屋根はピンク、外壁は白で塗られた城には門があり、シカ化の門番が見張りをしている。


「やっぱり門番がいるぜ。ウヒカには王さまと会えるコネがあるんだよな?」


 ズボラは半信半疑にたずねた。ウヒカはにっこり笑うと「まかせて」と言って、門番のところまで駆けて行った。


「すみませーん。あのう、ロマン姫さまを誘拐した犯人を見つけたんです」

「なに!? それは本当か?」

「はい、あそこにいる彼らなんです」


 そう言って、ウヒカはズボラたちを指さした。ズボラたちからはその声は聞こえず、ウヒカがこちらを見ながらなにかをやっているようにしか見えていない。


「おい、すぐに国王陛下に連絡を取れ。わたしは彼らを連れて行く」


 門番がもうひとりの門番に指示を出すと、今度はウヒカに話しかけた。


「あなたはわたしと一緒に中に入って事情を説明してください」

「うん」


 門番はズボラたちに近寄った。その後ろからウヒカはついて来る。門番は彼らの周りを確認し、ロマン姫を捜したが彼女はどこにもいなかった。


「おい、きさまら。ロマン姫さまはどこだ?」

「えっ?」


 ズボラは()頓狂(とんきょう)な声を出すと辺りを見回した。グータラが知っているのかと思い彼の顔を見たが、彼はなんのことだかわからずぼーっとしながら見つめ返した。


「さあ、俺たちも捜してるんだぜ」

「とぼけるな! きさまらがさらったんだろうが!」

「えっ!? いや、俺たちさらってねーぜ。さらったのはフードを被ったやつだろ?」

「それがきさまらだと言うんだ。さらっておいてまだとぼける気か?」


 門番はズボラたちの手首を縄で縛ろうとして彼の手をつかんだ。


「なにすんだ?」

「きさまらを国王陛下に会わせて処分を下してもらう」

「あ? なんで? 俺たちー……グータラもなにか言ってやれよ」


 ズボラはどうすればいいのかわからずグータラに話を振った。グータラは急に言われてなにを言えばいいのかわからなかった。でも、なにか口にしようとして出た言葉が、「さあ」というため息交じりの言葉だった。


「ウヒカ、おまえ知ってるよな。俺たちがそんなことしてねーって」

「そうなの? でもー、あたいに言ってたよね。フードを被っているって。みんな知らないのになんで知ってたの? ひょっとして……」


 門番は彼らがロマン姫をさらった容疑者であることに間違いないと感じ、一刻も早くロマンティス王に会わせようとした。


「もういい、つづきは国王陛下の目の前で発言するんだな。それから、その担いでいるものを下ろせ」

「えっ? ダメだぜ。そうすっとナマケがついてこねぇ」


 門番は彼がつかんでいる杖から手を引きはがそうとしたが、強固につかんでいるためはがせなかった。


「おのれぇ、我らにたてつく気か。こうしてやる」


 門番は杖ごとズボラの手に縄を巻きつけ、そして放れさせなくした。グータラも同様にすると、ズボラの腕をつかみ連れていこうと歩き出す。


「え? なんでこうなるんだ?」


 こうして、一行はロマンティス城に入りそこの王さまであるロマンティス王に会うこととなった。門番は途中で変わり、シマウマ化の大臣にその旨を伝え引き継いだ。


 大臣は一行を謁見の間へと先導していった。その間、ズボラたちが悪さをしないようにヤギ化の衛兵たちが彼らを囲う。ウヒカはその枠から外されていた。


 そして、謁見の間に着いた。扉には衛兵がおり大臣が首を縦に動かすと彼らはその重厚な扉を開けた。


 そこには、まっすぐなピンク色の絨毯が敷かれ、両脇には衛兵がずらりと立ち並び、その奥にはロマンティス王が玉座に座って待ち構えていた。


 王の背後にある壁には、ハートを連ねた輪の中にティアラのマークが施されている旗が掲げられていた。


 ロマンティス王の前に一行はたどり着くと、大臣は事の説明をする。それが終わると王の言葉を待った。頭に冠を被ったウサギ化のロマンティス王は目をじっと閉じてしばらく考えたあと話し出した。


「ウヒカと言ったか」

「はいっ」

「彼らをどこで見つけた?」

「町です」

「どこの?」

「ここのです」

「そのとき、わしの娘は連れていなかったのか?」

「はい、ですが、どこかに隠したとかなんだとか言っておりましたので」

「ふむ」

「それで、彼らを捕まえたと」

「はい、あたいの魔法のステッキでちょちょいと」


 ウヒカはポケットから魔法のステッキを取り出して見せつけた。


「なるほど……」


 王はズボラたちに目を向けると、険しい表情で彼らを見据えた。憤りを感じながらもそれを抑えるようにしながら問いかける。


「わしの娘をさらった者よ。ひとつ聞きたいことがある。わしの娘はどこにおる?」


 ズボラとグータラはどう言えばいいのからなかった。お互いが擦り付け合うかのようにじっと黙っている。しびれを切らした王は立ち上がり「どうなんだ?」と罵るように言った。


「あのう……」


 ズボラはなにも考えずになにかを言おうとしたが、それ以上なにも言葉が出てこなかった。


 そのとき、ナマケが目を覚ました。ぼてっと尻もちをつき、あくびをするとゆっくりと立ち上がった。


「あれー……ここどこー?」

「おう、ちょうどよかったぜ。ナマケ、王さまの質問に答えてくれ」

「あ?」


 見るとイラついたようなロマンティス王が目の前にいる。ナマケはなんの質問なのかもわからずに答えた。


「あーぼくたち、ロマン姫を捜している者です。えーっと……あっ! ウヒカ、ダメだよそんなことしちゃ。ぼくたち王さまに話があって来てるんでしょ?」

「え? あたい?」

「うん、そのステッキ、王さまに向けてちゃ危ないよ」


 ウヒカは持っているステッキにちらりと目を向けるとすばやくポケットに閉まった。


 王は眉間にしわを寄せてウヒカを見た。ウヒカは「ひひひ」と笑ってとぼける。


「そ、そうなんだぜ。俺たちはそこの女にだまされたんだぜ。俺の貸した金をギャンブルで使いやがったんだ。それで追っているうちに城の前までたどり着いちまったんだぜ」


 この隙を逃すまいとズボラは適当にあることないことをまくし立てた。


「本当か?」


 王はズボラとウヒカを交互に確認する。王の重圧に耐えられずにウヒカは慌てて誤解を解こうと話しだした。


「え、ええ、そうなんです。すみません。じつは追っかけられているうちに城にいつの間にか来ていたので、そこで門番の方たちに助けを求めてしまったんです。とても怖かったんですぅ」


 もぞもぞとウヒカは手をさすりながらそう言った。王からとても深いため息がもれる。


「じゃあ、わしの娘の居場所はわからないんだな」


「はい」とウヒカとズボラたちは答えた。


「そうか、もう下がってよいぞ」


 王は力が抜けたようにがっくりと椅子に腰をかけ、おでこを支えるように指を立てて首を振った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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