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11. 取引

 次の日。


 最初に起きたのはウヒカだった。目が覚めるとキッチンに行ってミユウをあびる。あくびがてら、いまだに寝ている彼らを見に行ってみると、昨日のままの状態だった。


「おい、起きろ」


 だが、誰も起きなかった。無反応に対して仕方ないと思ったウヒカは朝食をとるためキッチンへと向かう。そこにあるのは、クロカバという樹液で作った酒だった。それから木の実のナツミルを砕き粉にするとその酒に入れて一気に飲み干した。


「ふう、まあまあだな」

「ずいぶん、ご機嫌だね」


 見るとそこにはナマケが立っていた。いいにおいで目が覚めて、そのにおいに誘われるまま来てみると、彼女がちょうどおいしそうなにおいのする酒を飲み干しているところだった。


「おまえも飲むか?」

「え? いいの?」

「うん、いま用意してやるよ。結構いけるんだ」

「お酒でしょ?」

「そう、あたいが独自に作ったからね。味は保証するよ」


 ウヒカはさっきの手順で手際よく特性酒を作っていく。ナマケはその作業を遠目に見ていた。


「今日はあんたたちどうするんだ?」

「えっ?」


 ウヒカの急な質問に対してナマケはどう返していいのかわからなかった。


「ロマン姫を助けに行くんだろ?」

「あーそーだったかなー。いやーなんて言えばいいんだろー。うーん、ぼくーズボラについていっているだけだから」

「でも、助けに行くんだろ?」

「んーでも、もう戻るかもしれないよ」

「もどる? どこへ?」

「なんか……あっ? そうそうセカチたちに会おうとしてるんだ」

「せかち?」

「うーんと悪友かな」

「会ってどうすんの?」

「いや、なんか、そのーたしかあいさつがどうとか」

「ふうん……ほらできたよ」


 ウヒカは特性酒をナマケに差し出した。ナマケはそれをちびちびと飲んでいく。


「どうだ? なかなかだろ」

「うん、なかなかだね」


「なーにやってんだ?」とそこへズボラがやってきた。あくびをひとつつきナマケの飲んでいるものを目で追う。


「うまそうじゃねーかぁ」

「あたいの特性酒だよ。よかったら飲んでみる?」

「くれるのか? じゃあ、言葉にあまえよ―じゃねーか」

「わかった。いま作るね」


 ウヒカはまた同じ工程で特性酒を作っていく。彼女の手際のよい動きにズボラとナマケはぼーっと見とれている。


「セカチってやつに会うんだって?」

「あ?」


 ウヒカの質問にズボラは思わず答えた。


「そうだったが。もうここにはいなさそーだから。帰ろうと思ってんだ」

「帰る?」

「ああ、もうロマンティス城に行くのも面倒だからなぁ」

「ロマン姫を助けに行くんじゃなかったの?」

「最初はそうだったが、なんだか面倒くさくなっちまって。どうせ誰かが助けてくれるだろ」

「100万はいらないのか?」

「確かに100万は欲しいが、どこにいるかもわからねーロマン姫をどうやって探せばいいのかわからねーから、あきらめて帰ることにしたんだ」

「ふーん……できたぞ」


 ウヒカはズボラの前に特性酒を置いた。


「おお、わりーねぇ」


 ズボラはその酒を一気に飲み干した。


「なかなかうめーじゃねーかぁ」

「それはどうも。さっきの話だが、こんなのはどうだ? あたいがロマン姫に関する情報を取ってきてやるよ。その代わり100万の9割はもらいたい」

「ロマン姫の情報を取ってきてるれるのか? それなら楽だな」

「じゃあ交渉成立でいいんだね」

「ああ、いいぜ。でも当てはあんのか?」

「そうだねぇ、とりあえず城へ行く」

「ロマンティス城か?」

「うん、結局なぜそうなったのかを詳しく聞きたいからね」

「そうか、なるほどなぁ」

「じゃあ決まりだね。さっそくロマンティス城に行ってみよう」

「ああ」


 家を出る前に壁に飾られている魔法のステッキを一本取り、ウヒカはそれをポケットに入れるとロマンティス城へ向かった。


「しかし、行ったところで城に入れてもらえるかぁ?」


 ズボラはなんとなくたずねてみた。べつのどうでもいいことだと思っていたが、せっかく行ったのに追い返される羽目になったら疲れると思ったからだ。


「大丈夫。コネはある」

「そうか、それなら安心だな。なあ、ナマケ」


 ズボラは振り返るとそこにナマケはいなかった。それと同時にグータラもいないことに気づいた。どこに行ったのかと辺りを見回してみるがどこにも見当たらない。


「あれぇ? ふたりともいねーなぁ」

「どうしたんだ?」


 ウヒカがたずねるとズボラはいつも通りのことだと思い、仕方なく捜しに行くことにした。


「あいつらがいねーんだよ」

「ああ、ナマケとグータラだっけ」

「そう、しゃーねーから俺ちょっと捜してくるぜ」

「そうか、わかった。じゃあ、あたいも行くよ」


 ズボラとウヒカは彼らを捜すため引き返していった。とりあえず来た道を戻ってみようということになり、最終的にはウヒカの家まで捜そうとふたりは考えていた。


「おまえのお友達はいつもこうなのか?」


 ウヒカはあちこちと彼らを捜しがてらズボラにたずねた。


「そうだな。大体こうなるぜ」

「じゃあ、いつもこうなるたびに捜しに行くのか?」

「そうだぜ。さっきナマケが起きてたの珍しかったからなぁ、油断しちまったぜ」

「グータラってほうは?」

「そういえば、グータラ朝から見かけなかったなぁ。俺が気づかなかっただけかも知んねーけど、どっかで寝てっかもな」

「よく眠るやつらなんだな」

「趣味みたいなもんだぜ」

「ずいぶんと変わった趣味してるんだな」

「趣味なんて変わってれば変わってるほどいいんだぜ」

「じゃあ、あんたの趣味は?」

「俺か? 俺はぁーなんだろ? 食って寝ることかなぁ。おまえは?」

「あたいはギャンブルだよ」

「ああ、昨日のカードのやつか」

「べつに賭け事ならなんでもいい」

「俺はそういうのに興味ねーけど、面白いんか?」

「うん、相手にイカサマを使って勝てたときのよろこびったらたまんないねぇ」

「へぇー昨日は負けみたいだったが、勝った時もあるんだな」

「ないよ。あと一歩のところでいつもダメになる」

「そうなんだ。それは残念だな」


 そんな会話をしながら結局ウヒカの自宅へと着いてしまった。中に入りナマケを捜すとすぐに見つかった。ナマケはキッチンから出るところで倒れていたのだ。


「なんだ、眠ってるじゃん」


 ウヒカは呆れたように言った。ズボラは指輪から杖を取り出すとナマケの手に杖をふれさせた。


「な、なにやってんだ?」


 ウヒカはズボラの訳の分からない行動に思わず声を上げた。それに対してズボラは気前よく答える。


「ああ、こうやって杖をこいつの手にふれさすと、つかむんだよ。そうすれば起きるようになるんだ。棒ならなんでもいい」

「へぇ、そうやって起こすんだ」

「自然と起きるまで待ってらんねーからなぁ」


 しばらくするとナマケは杖をつかみ起き出した。目をゆっくり開けては閉じ開けては閉じを繰り返し、ズボラとウヒカが見下ろしているのがわかると安心してふたたび眠りについた。


「お、おい。また眠ったぞ」

「これでいいんだぜ。ウヒカ、そっちを持ってくんないか」


 ズボラはあごをしゃくり杖の先端を指し示した。ウヒカは彼の言うとおり杖の先端をつかんだ。


「こうか?」

「そう、それで一緒に持ち上げるんだ」

「持ち上げるのか?」

「そうすれば移動させることができるっていう仕組みだ」

「ふーん、わかった」

「じゃあいくぞ」


 ふたりはナマケがぶら下がっている杖を持ち上げた。ウヒカの身長はズボラより低いため杖を担ぐとその重みで肩に若干の負担がかかった。


「次はグータラだな」


 ズボラは家の中をあちこちと見ながら言った。ウヒカも捜しているが見当たらない。結局、どこを捜しても見つからないため、ウヒカは呆れたようにたずねた。


「なあ、どこにいるか見当はついてないのか?」

「どこにもいないってなると、そうだなぁ……あいつはたぶんどっかの木かなんかにしがみついているはずだぜ」

「この辺の木って言ったら、あたいの家の近くにナツミルの木が生えているけど」

「じゃあ、そこだな」


 ふたりはさっそくその木へと向かった。着くなり、木を下から上へと見上げていく。


「あっ! いるじゃん!」


 ウヒカは指をさしながら木にしがみつているグータラを発見した。ズボラはグータラの姿を見てうんうんと首を動かす。


「やっぱりいたか。おーいグータラ出かけるぞ」


 ズボラの呼びかけにグータラは目を覚ました。それからするすると木から降りてきて、眠気顔でたずねてくる。


「どこかに出かけるの?」

「ああ、城にちょっとな」

「しろ? わかったよ」


 こうして、四人がそろいロマンティス城へと向かうのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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