憧れのヒーロー
私の名前? ルミナスだよ。
どこにでも居る女の子よりちょっと身体が頑丈なただの女の子だと思う。
双子にアンノウンが居る。
私達が住んでいるところは決して治安が特別良いとは言えないので、たまに悪い奴らが出てくる。
その悪い奴らを『ヒーロー』が現れては、倒してくれるんだそう。
アンノウンは、そんな『ヒーロー』に憧れているみたい。
「ルミナス! 聞いて聞いて!!」
「また『ヒーロー』が何か活躍したの?」
「うん! 人質を盾に立てこもりしてたんだけど、『ヒーロー』がやっつけたんだ!」
「へえ、それは、すごいじゃん?」
「僕も『ヒーロー』みたいになれるかな!? 光線とか出せるかな!?」
「……まぁ、頑張りなよ」
アンノウンは目を輝かせているけれど、私は正直『ヒーロー』に彼と同じような感情は抱いていない。むしろ真逆だと思う。
『ヒーロー』みたいな『正義の味方』ってやつは、どんなに暴れても罪にはならない。戦いの最中、どんなに建物を壊したって誰からも咎められない。それが私は気に食わない。
それでも、彼から『ヒーロー』に対する『憧れの気持ち』を奪いたくないので、私はずっと黙っていた。
――――――――――――――――――
ある日、事件は起きた。
あたり一面に建物であったはずの瓦礫が散乱している。未だ砂煙は止まず、視界はやや悪い。崩れた瓦礫の下から微かに聞こえる呻き声、瓦礫の下敷きになり、血を流している人がたくさんいた。それだけではない、助けを求める者、動かない者、共通してその顔は苦痛に染まっていた。それを、悪夢以外にどう形容できようか。
その悪夢の中心に、彼は居た。
「アンノウン、ここにいたの」
「ルミナス……」
「……あとは、大人に任せた方が良い。私達にできることは、多分ない」
「……ルミナス」
「……何?」
「『ヒーロー』って、何なの?」
「『ヒーロー』?」
「『ヒーロー』って、悪い奴をやっつけて、みんなを守る人のことなんじゃないの?」
「そう、だけど。……ちょっと待ってアンノウン、まさか『犯人』を見たの?」
「……『犯人』は、万引き犯だった。ご飯を買うお金がなくて、仕方がなかったんだって」
「……『ヒーロー』は、どうやって?」
「……腕からびびびっ、てビームを撃って、お店ごと『犯人』をやっつけちゃった」
アンノウンは私の胸ぐらを掴む。その表情はかなり困惑していて、険しい。
「確かに、万引きは悪いことだけどさ!! あそこまでやらなくてもいいじゃん!? 関係ない人達まで、みんな……巻き込まれて!! なんで!? 『ヒーロー』はこんなことしないのに!! 僕の知ってる『ヒーロー』は、こんなひどいことしないのに……ルミナス……もう、僕……『ヒーロー』がなんなのかわかんないよ……」
ああこれは……かなり悪質なタイプだな。誰も咎めないからって、平気で罪を犯すタイプだ。
だから言ったんだ。『ヒーロー』なんて好きになれないって。偽善者よりもクソったれだ。
――――――――――――――――――
「………は?」
その報せを聞いた時は、思わず間抜けな声を出したものだ。
アンノウンが、死んだんだ。
死因は、大量の瓦礫に潰されたことによって引き起こされた圧迫による内臓破壊。
なんでも、その瓦礫に潰されそうな男の子が居たんだって。
そりゃ、信じられなかったよ。でも、泣き喚く男の子と、瓦礫の下から流れる血を見て、認めざるを得なかった。
あぁ、アンノウンは死んだんだって。
アンノウン、昔から『ヒーロー』に憧れて、自分も『ヒーロー』になりたがってたよね。
私は無責任なことはあまり言いたくないんだけどさ、少なくとも―――