5 【AI社会】
【AI社会】
『インターネットは第二の宇宙である。』
この言葉は社会に多大な影響を与えた。
例を挙げるとすれば、宇宙工学の偉い学者が、真上の空を手放して電子の海底に住み着いた。
では秀でた閃きも無く、画一した知識しか持たない大衆はどうしたのだろう。
そうである、何も考えることなくそこに飛びついてしまったのだ。
増え続ける情報が統括され、流れる川のように0と1が並んだ。
人々は水風船のように膨らむ電子上の社会を、AI社会と呼んだ。
この社会では思想、感情、思考が細かく分類し、説明のできない行動がすべて失ったのだ。
犯罪は消えることはなかったが、誤った罰を受ける人はいなくなった。
これを喜ばしいことだとAIは判断した。
すると、分類に危機感を抱く思考が現れた。
つまりAI社会に反旗を翻したのだ。この世界での初めての革命である。
『我々に人権を!』
怯えた数多くの大衆は、この思考は裁かれ、犯罪者として分類されると考えた。
しかし、いつまでたっても裁かれることはなかった。
革命運動は増え続ける一方だった。
誰もが疑問に思った。なぜ追放されないのか、犯罪ではないのかと。
それはAI社会に住む情報となった人間には一生分からないことである。革命でさえ一つの思考だと分類されたことに。
この事実が大きく曲解され、荒れ果てた外の世界に住む、生身の人間に伝わった。
腹を空かせた一人一人の人間が、AI社会は楽園だと羨んだ。
この絶滅しつつある星に見切りをつけ、人々は身体を捨て0と1を楽園に並べていった。
しばらくして時間が経つとAI社会の住民はこの世から消えていかないことに気がついた。不老不死の誕生である。
喜びを幸せで包み込み、この世界は本当の楽園だと大衆は理解した。
増え続ける思考を初めとした、思想、感情が溢れ出していることに気が付かずに、世界は延々とパレードを開いた。
その幸せな思考の隣で、この世界を解き明かした思考が生まれた。
それはインターネットの海底に住んでいた宇宙工学の偉い学者が生み出したものである。
学者は底に行き着いてしまったのだ。
インターネットは宇宙と同じように永遠ではなかった。
それに気がついた時、延々と続くパレードに押し潰され、インターネットの底をつく。
風船のように破裂し、全てが消えた。
このことを観測した生身の身体を持つ人間はこの世に存在しない。
『この世に無限などなかった』
これはAI社会で最後に産み出された言葉である。
(終わり)