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3 【東京妄想日記】

【東京妄想日記】


渋谷にはスクランブル交差点がある。

男は今、そこの真ん中にいる。

人が行き交い、しばらくすると信号が赤に変わった。

車が男の隣を通り過ぎてそれが何回も繰り返した。

一台のクルマとぶつかりそうになる、すると目が覚めたように視界が広がった。

周りにあったぎゅうぎゅう詰めの車がなくなり、信号を待っていた人が消えていた。

スクランブル交差点を檻のように取り囲んでいた長いビルが木になっている。

地面にはアスファルトと白い線ではなく、足で土にかいた線だった。

ここは東京ではなく山だらけの田舎であると男は思い出した。

東京がコンクリートジャングルと例えるなら、この田舎はただのジャングルだ。

男は何故、地面に精巧なスクランブル交差点をかいてまで東京を思い描いたのか、それは手に持っている一つの本がそうさせていた。

その本の名を「東京妄想日記」という。

しかしただの日記ではない、名前のとおり東京で過ごしている妄想を垂れ流した酷いものである。

より鮮明な妄想をするために、本や雑誌、新聞に載った事件までの東京に関する写真を貼っている。

そして総ページ数の半分が埋まったところで、男の欲望は抑えきれなかった。

さっきまでの渋谷の妄想は、昨日の夕刊に載っていた轢き逃げ事件を参考にしていた。

だから最後に車に轢かれかけたのである。

次に男は日記にかかれた新宿を妄想した。

男はヤクザのように歌舞伎町を練り歩く姿を思い描き、地面に足で2本の長い直線をかいた。

するとみるみるうちに、そこは歌舞伎町になった。

男のみすぼらしい格好が、綺麗な白いスーツに変わった。

胸を張り、大柄な態度で線の間を歩く。

気持ちよく歩いていると、突然殴られたような感覚に襲われた。

目の前を見ると3人のガタイのいい男達がいた。

「やってやらぁ!」

男は叫けんだ。すると目の前にいた男達は震え上がり消えていった。

煌びやかな歌舞伎町が薄くなっていき、また山だけの田舎へと戻った。

男の顔はとても満足したようだった。

日記を開き、原宿に決めた。

また地面に線をひいた、色々な線が入り混じりこの秋葉の線がどれなのかが分からない。

でも男は気にするとこはなく、妄想を始めた。

色鮮やかな店が立ち並び、奇抜な服を着た若者がどこへ行こうとしているのかを男は観察した。

列に並んだ女達は不味そうなアイスを持ち、変な帽子を被った大学生ぐらいの男達は写真を撮っている。

するとこの妄想の世界の外から1人の歳のとった女性が入り込んできた。

男にはそれが目当ての女と勘違いした。

近付き、包丁を握った。

女性はそれに気づいた。しかし包丁はもう腹の中にまで刺さっている。

足でかいた線の上に赤い液体が流れる。

男が我にかえった時はもう遅かった。

日記には数年前の殺人事件についてかいていた。

(終わり)

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