自分と幼馴染の人生
始まりは突然だった。
新卒で入った会社はほとんどブラックと言ってもいい、理不尽がまかり通る会社。疲弊し、毎日すり減っていた。自分ではそこでがんばるしかない、と分かっていても――。
「あまりいい家庭環境ではなかったので。……まあ、はっきり言えば虐待されていたんです。叩かれたり滅茶苦茶に罵倒されたり。それに今で言えばネグレクトみたいな感じで自分の事は自分でなんとかしなければいけなくて」
大学に行くのも叶わず、せめてまともな給料がもらえて家を出て自立したいと、あまり評判がいいとは言えない会社に収入を求めて入った。
歯を食いしばって耐えなければいけない現状で、ある日偶然、数年ぶりに実家の近くで会った幼馴染と久しぶりにまともに会話をする事があった。異性だったため中学頃から次第に距離を空けてしまっていて、社会人になって家を出てからは顔を合わせる機会もほとんどなかった。
そしてその短時間の交流でも痛感してしまった――、育ちも環境もまるで違うと。
その子は昔から真面目で善良だった。それでももし社会の荒波にもまれれば挫折し、場合によっては社会の闇やくだらない部分に折れてしまうのだろうと思っていた。事実、自分がそうだったように。
しかしその子は変わらず、屈託のない笑顔で自分と接し、その現状を心配してくれた。
「何と言うか、たまらなかったんです。志奈子は――その子の名前ですけど、裕福な家に産まれて、すごく立派で僕にまで優しい両親に恵まれてて、だからここまで違うのかと。たぶんそう思ったことが、このスイッチングのきっかけだったんです」