嫌な予感がした
そしてニコッと笑ってから部屋を出ていった。
「やれやれ、釘を刺されてしまった。ちゃんと約束を守るようにと」
海くんのお母さんの安全のことだね。海くん、えらい。
「それでもちゃんと協力はしてくれるようだ」
「……仕方ないですけどね」
「それと、一応報告はしておこう。想定外だったが約束はすでに一度履行している」
「えっ?」
*
後日、ウサギの言葉はうそではないと分かった。
海くんの家に招かれている時に海くんのお母さんからのビデオ通話があった。家族団らんを邪魔しちゃいけないと思ったけど海くんにお願いされて同席することに。お願いされたらしょうがないよね。
その時海くんのお母さんが道端でトラブルに巻き込まれかけたと教えてもらった。ウサギがやったあの日だ。
なんでも路上でカップルみたいな二人が言い争いをしていて、男の方がかんしゃくを起こしてライターみたいなものを放り投げたらしい。そのライターが近くのビルの窓に当たってガラスが散乱し、破片が目の前にまで飛んできたと。
「びっくりしちゃったわ。関わり合いになりたくないから距離を空けてて、そうそうその前に靴ひもがほどけてたからガラスが来る所まで運良く行ってなかったの。不思議だわ、めったにほどけない靴だったのに。でも大丈夫だからね。そうそう、海も物投げちゃダメよ。危ないからね」
「……うん」
心配しなくてもいいと言われても海くんは心配そうだった。
図らずともウサギが約束を守ってくれることは実証されたけど、海くんの不安は強くなってしまった気がする。
*
嫌な予感がした。