結局
うすうす感づいていたけど、田阪さんにとってどうなのか、そういう視点はないみたいだ。でもそれがウサギには当然なのだろう。
「そうしてスイッチングを意識しなくなればその存在も段々と忘れていくだろう。それが一番望ましい結果だ。それ以上の多くをこちらは求めたりしない」
私には何も言えることはなかった。
結局私は大して力になれなかった。ただ田阪さんが少しでも良い方向に行く、そのきっかけにさえなっていれば。
インターホンが鳴った。たぶん海くんかな。
玄関に向かう途中携帯にメッセージが届いた。母からで、「残業になったから遅くなる」というものと、「最近タチの悪い酔っぱらいがいるからできるだけ早めに帰るけど」というもの。
酔っぱらいの話は前から聞いてたけど、どうしてか違和感があった。
だけど海くんを待たせたくなかったのでそれ以上は考えなかった。
「あーっ、ウサギさんだ」
まっしぐらにウサギに向かっていく。海くんにとってあれはかわいがる対象みたいだ。たしかに見た目だけならただのかわいらしいぬいぐるみだし。
全身を海くんになで回されながらも、ウサギは変わらない冷静な口調のままだった。
「やあ海くん。先日はご苦労だったね、感謝する。君も大活躍だったそうじゃないか」
そう言われて海くんは嬉しそうにはにかんだ。
このウサギ、意外と子供あしらいがうまいのか。
「んーん、がんばったのはおねえちゃんだよ」
「次もお手伝いしてくれるかな?」
「ちょっ――」
何を勝手に、と言い出そうとしたところで、
「えっとね、おねえちゃんがあんまり信用しちゃいけないって」
バラされた。
「それは困ったね」
「でもね――」
海くんは何ごとかをウサギに耳打ちし始めた。