正常に戻せるのか
いつもの時間より大分遅くなってしまいました。
問いかけに躊躇はしたが、この自分のエゴで起きた状態を元に戻したい事は伝えた。
「なるほど。戻すのであれば歓迎する。しかしそうなると何もかもが変わっていく。端的に言えば君のいる世界そのものが。分かるだろう?」
そうなるだろうという事は予測していた。あの真っ暗な日常が戻ってくるのだ。
「それでも……、そうするべきです」
それから少し間があった。生き物ではないただのぬいぐるみなら当然だが、黒いプラスチックの簡素な目が全く動かずにこちらに向けられているのが、心の奥底を見透かされているかのように感じた。
「ではそうなると世界そのものが再構築される以上、こちらの事情もあるがすぐには再会できなくなるだろう。もちろんそれを見越して、何か手筈は考えておく。そうだな、協力してもらえる人材ぐらいは見つけておこう」
*
「その協力者が――」
「僕たちってこと?」
びっくりして私は、話をちゃんと理解した上で疑問を言ったであろう海くんの顔を見た。その真剣な顔はさっきまでと何か形が変わったわけでもないのに、なぜかその中身が幼稚園児だとはとても見えなかった。やっぱりその大きな体のように精神も成長しているとしか思えない。
ウサギがその場を去った後、田阪さんは可能な限り自分の起こしたスイッチングを元に戻そうとしたらしい。
「だけど、相当な数を入れ替えてしまっていたし、酒に酔ってまるで妄想するようにやっていったので果たしてどこまでやったのか。少し頭をよぎった程度の入れ替えまで実際に起きてるか分からなくて。全てを正常に戻せているのか、……無責任かもしれないけど自信は持てないんです」