後悔
築数十年のボロいアパート。壁は薄く床は軋み、天井からは雨漏りもするだろう。電気も時々止められ、寒い中買い置きされた菓子パンや弁当の残りで飢えをしのいだり――。
志奈子の家なのにまるで自分が住んでいたかのような記憶がありありと蘇ってきた。
おかしい、ありえないという感情がふつふつと沸き上がり、そこでようやく異変に気付いた。
愕然としてベッドに座りこむ。そして考えを巡らせた。
自分がまともな生き方をできるようになった今の世界。きっとその代わり、この自分のエゴに巻き込まれて辛い思いをしている人達がたくさんいる。その中にはひどい環境の所為で自分のように歪んでしまった人もいるはずだ。
志奈子は、どれだけ辛い思いをさせられてきたのか。恐らく碌な子供時代ではなかっただろう。
だけど――。確かに今日会った志奈子は疲れたような顔をしていた、それでも凛とした芯の強さと、優しく柔らかな笑顔は変わっていなかった。そして、
「立派になったねえ」
と、何故かまるで母か姉の様な言葉で――気づいた瞬間お互い笑ってしまったが――こちらの成長を喜んでくれた。
戻すべきだ。
自分の事だけを考えたこの人間の入れ替わり、スイッチングを。
そう決意した時に――。
*
「そこでさっきその子が言っていたウサギ、みたいなのが現れたんです」